情報と物質の科学哲学 情報と物質の関係から見える世界像

情報と物質の関係を分析し、波束の収縮問題、心身問題、クオリア、時間の謎に迫ります。情報と物質の科学哲学を提唱。

精神と脳の二元論に対するクリストフ・コッホの誤解

2022-01-20 19:52:28 | 人工知能・意識
クリストフ・コッホ(土谷、金井共訳)『意識の探究(上)』、岩波書店(2008)の12頁に精神物質二元論について次のように述べています(一部抜粋)。

二元論は論理上一貫している一方で、科学的な見解からすると不満が残る。
魂と脳とがどのように相互に影響し合っているのかという問題である。
どうやってその相互作用は起こるのか。
この相互作用は、物理学の法則と両立していなければならないだろう。
ところが、もしそのような相互作用を仮定すると、魂と脳の間でのエネルギーの交換がなければならない。(引用終わり)

ここで問題になるのは私が付けた下線の部分です。
コッホの相互作用に対する見解は矮小化されています。
その理由を示します。

ロボット内部には物質と情報とが共存しているので、物資と情報の二元論が成り立ちます。

情報はロボットの行動を制御します。
その行動によってロボット内部の情報も変化します。
つまり、ロボットの物質と内部の情報とが相互作用しているのです。
しかし、言うまでもなく物質と情報との間でエネルギーの交換はありません。

では、何故このような相互作用が成り立つのでしょうか。
それは、ロボットがこの相互作用を実現するように作られているからです。

魂と脳との相互作用はコッホが言うような直接的なものではなく、ロボットにおける物質と情報との相互作用のように間接的なものなのです。
このような相互作用が可能なのは脳がそのように作られているからです。
正に脳の進化によるものです。




ロボットの行動を制御する物質と情報

2022-01-20 11:36:33 | 情報と物質の科学哲学
学習で得られた経験を利用して行動するロボットの行動は、
(1)物理的決定論
に加えて
(2)ロボット自身が環境との相互作用によるスーパー因果律にも影響されます。
 
特に注意すべきことは、
(1)ロボットの行動が物理則に従うことは必要条件ですが
(2)物理則はその行動を説明するための十分条件ではない
ということです。

例えば、
(1)ロボットの動きそのものは物理則に従いますが
(2)直進するか曲がるかを決めるのはロボットに組み込まれた
   プログラムです。
 
ロボットは、状況に応じて複数の選択肢から一つを選択します。
選択いう現象は、自然現象にはありません。
自然現象は、物理的決定論か偶然に従うだけです。

進化論に自然選択説(自然淘汰説)があります。
これは、「自然界が環境に適した種を選択している」ことを主張するのではありません。
「遺伝子の突然変異によって環境に適した種が残る」ことを主張するだけです。
→ 結果論

環境からの入力を利用してロボットが主体的な選択行為をするには
(1)先ず入力物理量を測定器などで情報化し
(2)その情報に基づいて複数の選択肢の中の一つを選択する論理的操作が必要です。

選択という概念は、動物の行動の主体性と密接に関係します。
餌と敵が見えたとき、餌を取るか敵から逃げるかの二者択一に迫られます。
下等な動物ほど選択肢の数が少なく、高等な動物ほど選択肢の数が多いです。
この選択行為が動物に可能になった時点でその動物に意識が誕生したと想像できます。

選択の自由が全くないのが決定論です。
決定論という言葉を聞くと
(1)物理的決定論を思い浮かべますが
(2)数学や論理学を含む情報則で記述される情報的決定論もあります。

高等動物やロボットは、情報駆動型制御システムです。
これらの現象を説明するには
(1)物理則による説明
に加えて
(2)情報処理/推論/計算/学習など情報に関係する情報則による説明
の二元論が不可欠です。

詳細は、パソコンサイト 情報とは何か 情報と物質の関係から見える世界像 を是非ご覧ください!

クオリアの解明 「クオリアは感覚野による受容器情報の読み取り結果である」

2022-01-14 16:33:35 | 感覚(クオリア)
クオリアは、受容器情報を読み取った結果生じるものです。
その根拠をガスセンサーとの対比を用いて説明します。

ブログでは、「物質現象に情報が関係している」と言える必要十分条件は次の4条件が満たされているときに限ることを提案しています。

(1)物質現象として情報の定義と創発がなされている
(2)情報を表現する情報表現物質が生成されている
(3)情報の読取り機構がある
(4)読取り結果の利用がある

これらを情報概念の基本的要件と名付けます。
これは、情報概念の科学的定義と言えます。

因みに、脳科学における情報概念は極めて曖昧なものです。

器械系と生体系における情報の役割を比較するために簡単な例としてガスセンサーと嗅細胞からなるシステムを次のようにモデル化します。
(器械系の過程)
ガスがガスセンサーに入ります。
ガスセンサーは特定のガスを検出すると、その情報をパルスで表現して出力します。
その情報表現物質が情報の読取り器に入ります。
読み取り器は読み取った情報”ガス検出!”を出力します。

(生体系の過程)
ガスが嗅細胞に入ります。
嗅細胞は特定のガスを検出すると、その情報をパルスで表現して出力します。
その情報表現物質が嗅覚野に入ります。
嗅覚野は読み取った情報を”ガスの臭いのクオリア”として出力します。

器械系の過程と生体系の過程とは上のモデルで確認できるように対応関係があります。

結局、臭いのクオリアは嗅覚野によるガス情報の読取り結果であると推測されます。
そのクオリアによって動物は行動を決定します。
クオリアにはこのような合理的裏付けがあることが分かります。
クオリアに哲学者が言うような神秘性を感じる必要はありません。

一般に感覚野は、前述のような受容器情報の読み取り器官としての役割があります。
感覚野にこのような機能が備わっているのは、生命の進化によるものなのです。

哲学者が何故物質からクオリアが生じるのかを問う(ハードプロブレム)のであれば、その問いの前に何故物質から生命が誕生したのかを問うべきなのです(第2のハードプロブレム)。




「脳という物質から何故意識が生じるのか」という問いはナンセンス!

2022-01-08 10:50:45 | 人工知能・意識
哲学や脳科学の分野では「単なる物質である脳から何故意識が生まれるのか」という問題提起をします。
チャーマーズはこれをハードプロブレムと呼んで、この問題に取り組むべきだと主張しています。

しかし、脳は単なる物質ではありません。
生きている物質です。

科学は、未だに生命の謎を解明していません。
人間は、生命体です。
脳は、その生命体の一部です。

物質から何故生命が生じるのかという問題が解けていないのに、生きている脳から何故意識が生じるのかを問うのはナンセンスそのものです。

科学者は、意識の謎に取り組む前に生命の謎に取り込むべきです。
そうしないと本末転倒になるからです。

哲学者や脳科学者はこのような状況をどう捉えているのでしょうか。


クオリアは受容器情報の認識結果である

2022-01-07 09:44:47 | 感覚(クオリア)
外部からの物理的刺激が受容器に入り、その刺激量がしきい値を超えるとパルス列を生成し感覚野に送ります。
これらのパルス列は、各受容器に入力された物理的刺激(光や音の振動数、分子の種類など)の情報を運びます。
これらのパルスは単なる電気的パルスではありません。

周知の通りこれらのパルス列はどの受容器でも同一形式です。
一方、受容器に対応する感覚野にはそれらのパルス列が運ぶ外部刺激に関する情報を認識する機能があります。
その機能を実現した結果生じるのがクオリアなのです。
これがクオリアの正体です。

外部からの様々な物理的刺激に関する情報を感覚野が認識した結果、光に対するクオリア、音に対するクオリア、味覚に対するクオリアなどが生じるのです。

これは、受容器から来る同一形式のパルス列に物理的刺激の次元(光の波長、音の波長など)を等価的に付与したことによるものと解釈できます。
つまり、次元の等価的付与は結果的に同一形式のパルス列にそれぞれ異なる意味を与えるていることになります。

以上のことは、測定器の機能とよく対応しているのです。
測定値自体は、基準量と入力量との比なので無次元です。
測定者がその測定値情報に物理量の次元を付与することによって測定値にその意味を与えているのです。

パルス列が運ぶ受容器情報に次元を付与するクオリアと、測定値情報に次元を付与する測定者との間にはこのような対応関係があります。

感覚野が持つクオリアの機能は、脳の進化の過程で得られたものです。
感覚野のクオリアは、高度な意識の原始的形態です。

脳の進化に伴い言語機能を獲得すると、より高度な意識の形態が可能となったのです。

クオリアのないロボットには測定値に物理的次元を付与する機能はありません。
ロボット内部にあるのはあくまでも情報だけで、情報を超えるものは有りません。
言うまでもなく、意識に相当するものもありません。

哲学においてクオリアはハードプロブレムとされ様々な議論がありますが、それらは机上の空論と言えます。

しかし、クオリアには先に述べたような合理的根拠があるのです。
クオリアに神秘性を帯びさせるという悪習は直ちに無くすべきです。