海に囲まれた島国では、太古、自分達の住む岩の洞窟の中は、龍神様の御神体であり、雨風から守ってくださる、有難い場所でございました。
洞窟から竪穴住居などを作る技術を習得して居住環境が改善したのは随分前のことのようですが、地上を神々がお造りになる地球上の時間にしたら、ほんの僅かな時間といえます。
特に鍾乳洞は、暑さ寒さを調節する地上でも稀有な場所であり、水が滴り水を蓄えるだけではなく、火を起こせばすぐに温まる利点がありました。
地球を練り固めた龍神様のお身体がそのまま洞窟になった場所がございます。その洞窟に住む太古の民の悲しい話、その中に、鬼神界を司る女神の一柱シテの話がございました。
シテが肉体を持って現世に現れた頃は、人々は船を作り、縄を依り網ができ、魚を取る生活をするようになっておりました。
赤子を産んでも、病により長く生きることができる子はわずかでした。
船の技術は、海で隔てた陸を繋ぎます。だんだんと、穏やかで争いのない世界から、海を隔てて渡ってくる民と土地を巡り戦い、地上を武力で制圧した覇者がのさばる世界へとかわっていったのでした。
龍の御神体である洞窟に住む民に、ある日、大勢の言葉の違う民が松明を片手に押しよせてきました。
残虐この上なく、戦いを知らない民は蜘蛛の子を散らすように逃げたのでした。その姿がまるで、蜘蛛のようでしたので、逃げた民を反発する民として、ツチクモなどと名前をつけ、侵略者は虐げ続けたのです。
あるツチクモと呼ばれ、侵略者に差別された一族に、美しい女の子シテがおりました。
大切な家族を目の前で失い、襲われた少女シテは、生きることに絶望し雪山から、身を投じて命をたってしまわれました。霜で真っ白くなった女の子の姿は哀れでした。
神々は、その様な悲劇を二度と繰り返さない様にと女人が山に人が入るのを後々禁止する伝説を人々に残させたのでございます。
自ら命をたったシテの魂は、その山に残って天に上がるのを拒否し続けてしまわれたのです。
夏の暑い中、心の汚い者が入山すると、恐ろしい蜘蛛の妖怪に姿を変えて襲い食べてしまうのです。
また、雪山では、凍え死んだ美しい姿をみせ、雪山の美しさを汚す者の視界をさえぎる雪女へと姿をかえました。
悲しみのどん底で凍えた少女の心は、復讐心を捨て改心することを選ぶまで長い年月がかかりましたが、ゆっくりと時間をかけて心の霜を溶かしたのでした。
今では、雪山が静かに土の中の生命をゆっくり育むように、鬼たちの御魂に残る真っ直ぐな霊魂に働きかけ、改心を静かに見守り、悲しみのどん底にいる迷える御霊の霜を溶かす手伝いを鬼神界でしています。
鬼神界とは、怨み、憎しみ、そして、無限の悲しみをかかえたまま命を終えた魂が引き寄せられるところでもありました。
鬼神界に送られる魂の悲しみを共に引き受け改心を願う女神の一人がシテなのでした。
【画像はお借りしました。】