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あらためての記-血管肉腫と心タンポナーデ(15)

天国の草原に居る兄ちゃんって

こんな感じ?…

■2012年6月14日(木)の記/その日②

その日、寝る前の習慣で、主人は水割りを、私はお風呂上がりのビールを楽しんでいました。今夜は珍しくアルファも私たちに付き合って起きています。気付けば日付は変わり6月14日午前12時を過ぎました。遅くなった、早く寝なきゃと思いながら『アルファ~オシッコに行っておいで~』と、いつも通り彼に声を掛けました。

アルファは途中から室内犬になった犬ですが、いつの頃からか私の横で一緒に寝るようになり、教えた訳でもないのにトイレは庭に出て済ますようになっています。特にこのトイレに関しては一度の失敗もなくほんとに始末の良い犬でした。

私の声に応じて、アルファは庭に出ようとしていましたが、廊下の途中でピタっと止まり、突然私の方を振り返ったのです。その途端、目が合って、数秒ほど見つめ合う格好になりました。私は、直感で『あっ』と息が止まりそうになりながら『アルファっ?』と反射的に声が出ましたが、その声とほぼ同時に、アルファはヨロヨロと私の元に歩いて来てドタっと倒れ込んでしまいました。両手でアルファの身体を抱きかかえましたが、これまで起きた二度の心タンポナーデの時と様子が違っています。どう違うのかを説明するのは難しいのですが、これもその時の直感だったとしか言いようがありません。咄嗟に、もうダメだ、とうとうその時が来た、と思ったことを今も鮮明に覚えています。

アルファは、はぁはぁと荒い息づかいをして四肢を突っ張らせていましたが、やがて横になってそのまま目を閉じようとしていました。これまで心タンポナーデを起こした時は、アルファの目はしっかりと見開き、一点を見据えて、仁王立ちの様相を呈していましたが、今回は身体も起こさず目を開けようとしません。

体温が急激に下がり、アルファの全身が冷たい。すぐにタオルケットで包んでやりましたが、そんなことはもう何の助けにもならなくて、恐らく血圧も下り、意識もなかったろうと思います。30分ほどそんな状態が続きましたが、やがて大きく息を吐き出したかと思うと、コトっとアルファの首は折れました。

全身の力が抜け、お腹のあたりも動いていず息づかいも聞こえない。アルファは絶命したのだと分かりましたが、私はまだ彼の身体を抱いたまま、名前を呼び続けていました。すると、驚いたことに、一瞬、アルファは息を吹き返し、頭を上げて今まで聞いたこともない鳴き声で「キュイーンっ」と一声発したのです。主人は、アルファはまだ生きている!と言いましたが、それがアルファの最期でした。

 

思えば、初代のアルファが亡くなって後、どうにもならない喪失感を埋めてくれたのが、この二代目アルファでした。彼は初代の代役だったのに、気が付けば私には掛け替えのない存在になっていて宝物でした。勿論初代のアルファを忘れることはありませんが、目の前に居るものに情が移るのは致し方のないことで、これが生きているモン勝ちと思う所以(ゆえん)です。

命は永遠ではないし、何にでも終わりは来るのだけれど、それでもアルファはもっと生きたかったに違いないし、私のそばにまだ居たかっただろうに、こんなに不本意に命を絶たれてどんなに悔しかっただろう…、こうして彼に思いを寄せれば、あの最期の一声は無念の声だったかも知れません。

2012年6月14日午前1時10分、こうして二代目アルファは10年と20日の生涯を閉じましたが、長患いをすることもなく最期まで生き抜いたまことにあっぱれな犬生でした。

-完-

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