福沢諭吉が郷里中津藩を飛び出したのは19歳、安政元(1854)年の早春だった。「一度出たらば鉄砲玉」と腹を固め、蘭学修行で長崎に向かっている。1920年の米国では、ウォルト・ディズニーが初めて起業した。「最も有名な米国人」の、サクセスへの第一歩は18歳だ。
▼心身は限りなく大人に近いのに、法の上では未成年。18、19歳は子供から大人への端境期といえる。ただし、今の若者も福沢らと事情はさほど変わるまい。多くが高校卒業を迎え、進学か就職か、家を出るか否かで立ち止まる。誰もが何事かを選び、決め、前に進む。
▼その端境期もまもなく「大人」扱いになる。選挙権年齢を「18歳以上」に引き下げる公職選挙法の改正案が、今国会で成立する見通しという。憲法改正や安全保障、少子高齢化社会など難問のフルコースに、約240万人の駆け出しの「大人」たちは鼻白むだろう。
▼独り立ちについて述べた福沢の言葉をはなむけに贈る。「みずから物事の理非を弁別して処置を誤ることなき者は(中略)独立なり」(『学問のすゝめ』)。一国の独立はそんな国民の気概の上に成り立つのだと福沢は説く。まずは分かりやすい反面教師を示しておく。
▼68歳にもなった「元首相」が、クリミア半島への訪問を計画中という。ロシアが力で版図に入れた行為を、日米や欧州は認めていない。そこに元首相が行けば「日本は追認」と取られかねない。理非を解さず処置も誤る。恥ずかしながら、そんな大人も日本にいる。
▼新たな大人たちが同じ轍(てつ)を踏む心配はないとして、元首相を含む今の大人が山積みにした負債を分担させるのは心苦しい。国の行く末を共に案じる身としては、心強い援軍の到来を喜びたいところだが。
3月8日 【産経抄】
<memo>
「英国流、質素で豊かな暮らし方」 出口保夫著 柏書房
昨日、図書館から借りて読んだ一冊である。内容は、ライフスタイルとしてのシンプルライフについて読みやすく記述してあった。
ハニーサックル (スイカズラ)