日銀が、国の重要文化財に指定されている本店本館(東京都中央区)の免震化工事を進めている。本館は関東大震災にも耐えたが、6年前の東日本大震災を教訓に、震度7の首都直下型地震にも耐えられる構造に強化することにした。
▲日銀は、金融システムの安定や「円」という通貨の価値を維持する役割を担う「通貨の番人」である。昨今は黒田東彦(はるひこ)総裁が「異次元」と胸を張った金融緩和ですっかり名をはせた。そうした機能を十分発揮するためには、文字通り足元の安定が欠かせないということだろう。
▲121年前に完成した本館は、東京駅などで知られる建築家、辰野金吾(たつのきんご)が設計した石積みレンガ造りの洋風建築だ。重文だから建物自体はむやみに改造できない。そこで文化庁とも相談し、地下6メートルにある土台ごと免震化することになった。
▲本館は3階建てとはいえ、頑強な造りのため重さは東京スカイツリーの鉄骨総重量の2倍に達するそうだ。設計業者も「これほど大規模なのは初めて」と言っているから、この工事もやはり「異次元」らしい。
▲もっとも、肝心の金融政策は量的緩和に加えてマイナス金利という奇策まで投じたものの、年2%の物価上昇目標は依然として見通せない。加えて海の向こうからは、トランプ米大統領が「円安を誘導している」とクレームを付けてきた。
▲アベノミクスをほとんど一本足で支えてきた黒田日銀は、正念場を迎えているようだ。本館を上空から見下ろすと漢字の「円」に見える。建物もそうだが、本物の「円」の価値こそ揺らいでは困る。金融政策の「免震化工事」もお願いしたいところだ。
2017年3月13日 毎日新聞 東京朝刊 余録
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