大名行列のシーンは時代劇に欠かせない。加賀百万石の前田家では、行列の人数が4千人にも及んだ。とにかく荷物が多かった。武器から飲み水やしょうゆの入った樽(たる)まで運び、医者や料理人、大工も連れていた(『参勤交代道中記』忠田敏男著)。
▼日曜日に来日したサウジアラビアのサルマン国王(81)にも、1千人を超える王族や関係閣僚、使用人が同行していた。国王専用のエスカレーター式のタラップなど、荷物の量も桁違いである。東京都内の高級ホテルの客室が1200室、移動用のハイヤーも約500台が確保された。大名行列が街道の宿場町の経済を大いに潤したように、今回の訪問団がもたらす「特需」にも、期待がかかる。
▼46年前の昭和46年、アラブ諸国からの初めての国賓として来日したファイサル国王の随員は54人だった。皇居の夜会から宿舎に帰る途中雨に降られ、こんな言葉をもらしている。「雨だな。わが国には水が少ない。石油だけはあるんだが…」。当時石油価格は上昇を続けていた。国王は石油収入を社会インフラにつぎ込み、国の近代化を進めることができた。
▼サウジは現在でも世界最大級の原油埋蔵量を誇り、日本にとっても、輸入する原油の約3割を占める最大の供給国である。ただ長引く原油価格の低迷によって、財政悪化が進んでいる。
▼産業の多角化によって2030年までに石油依存から脱却する改革案「ビジョン2030」が、昨年ようやくまとまった。主導するのは、半年前に来日したばかりの国王の七男、ムハンマド・ビン・サルマン副皇太子である。
▼国王の豪勢すぎる旅にも、いずれメスが入るのではないか。栄華を極めた加賀藩も江戸中期になると、旅費の工面がつかなくなったそうだ。
2017.3.14 【産経抄】
<👀も> クロッカスが咲いた。普通タイヤに交換した。