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砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない A Lollypop or A Bullet (角川文庫) 価格:¥ 500(税込) 発売日:2009-02-25 |
にもかかわらずこの内容!OKを出した編集者の方には感心します。
私は桜庭一樹氏の作品はまず、『桜庭一樹読書日記』を読んでご本人に興味を持ち、それから『赤朽葉家の伝説』『少女には向かない職業』『私の男』と一般向けのものを読んでいきました。
でも、このジュニア向けの一冊は、桜庭氏のターニングポイントになった作品だと聞いていたので、以前から興味を持っていて、やっと最近読みました。
期待を裏切らない内容で、しかも一気呵成に読めますが、あおり文句に“青春暗黒小説”とあるとおり、かなり凄まじい内容で驚きもしました。
作品の冒頭、少女のバラバラ死体が山中で発見された、という新聞記事抜粋の体裁をとった短い文章が掲げられ、悲劇は最初に予告されます。
母子家庭で暮らす主人公の女子中学生が、転校生で、父子家庭の美少女と次第に心を通わせますが、当然物語はひとすじに悲劇へと駆け下りていくのです。
でも、なによりこの物語の悲劇は、“とても、愛していること”だというのが、思わずたじろがされるところでした。
作者の桜庭氏も、今年5月の朝日新聞のコラムで、このように書いています。
“彼女が殺される前に語った言葉「お父さんのこと、すごく好きなんだ」「好きって、絶望だよね」は、書いた本人である自分の胸の中で、今でも、過去からの鐘の音のように鳴り続けている”
以前アガサ・クリスティの『終わりなき夜に生れつく』の書評で、“女の幸福の一つは、愛している男の手にかかって殺されること”というような事が書いてあって少し驚いたことがあったのでしたが、“肉親への一途な愛”のための暗転を描いたこの物語は、さらに胸に重く響きました。
それでも、終末にはどこか、不思議な清々しさがあります。それが、桜庭氏が持っている本質からくるものなのか、それとも主人公の若さのせいなのかは分からないのですが。
その清々しさが、この暗黒の物語の一筋に光にも、赦しのようにも思えます。