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遊覧日記 (ちくま文庫) 価格:¥ 546(税込) 発売日:1993-01 |
以前持っていった本が案外重かったので、これは気軽に読める軽いエッセイ、と思い選びました。
けれど、どうしてどうして。とてもそんな気軽な本ではなかったのです。
内容はタイトルの通りに、筆者がひとりで、あるいはお嬢さんと、気軽に出かけて、あちらこちらを遊覧して歩いた日記風エッセイです。
軽妙な、かつ品格ある文章で、仄かなユーモアもありますが、するどい残酷さもある。しかも、悪意を含みません。見たままを書いている。子どものように無垢、とも言えます。
解説に明快に書かれていますが、ときにおそろしい、とも思える文章もある。解説に引用されているくだりも印象的ですが、私は『青山』という章の結びもひやりとした。削ぎ落した文章も凄くて、自分だったらもっとセンチメンタルな表現になるだろうな、と思ったり。
面白かったのは『京都』の章。とても愉快なので内容は伏せますが、お嬢さんのいらだちもすごく共感できた一方、気になることを訊かずにおれない、子どものように無邪気な人だ、とちょっと感動したり。
そうして、最後の『あの頃』の章では、抒情、というか、ノスタルジアというか、こちらの胸にもしんと迫ってくるものがあって、今までの酷薄なくらいの鋭い文章が嘘みたい、と思ったり。
こんなふうに遊覧してみたい、と思うには私にはハードルが高すぎますが、なんとなく、自分もあちこちをさまよったような気分にさせてくれる一冊でした。