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文士料理入門 価格:¥ 1,050(税込) 発売日:2010-02-28 |
元来、食いしん坊で、したがって童話や小説に出てくる食べ物が気になる方でした。
でも、それが小説の背景や空気に密接につながっている、というのが分かってきたのは遅ればせながら二十歳を過ぎた頃で、だから、この本の中ほどにある角田光代氏のエッセイは、じつに共感できるものでした。
角田氏は“登場する食べものに留意しながら読むことで、読書の楽しみは断然広がった。(中略)そこに描かれた食べものは、どうしたってそれでなければならない。スパゲティはスパゲティでなければならず、握りめしはサンドイッチでは代用できないのだ”と書いていますが、たしかにそういうことが分かってくると、小説自体の味わいも断然、深くなってくるのです。
そうして、料理のシーンがたびたび出てくる作品を書く作家(この本の場合、文士。この言い方も味わいがありますね)の日常食も気になってくる。
と、いうわけで、この本を図書館の書架で見つけて、いそいそと借りてきたのでした。
ことに印象に残ったのは幸田文の文章。
知人から枝豆のあまからく煮たのをもてなされた話を聞いて秋を感じ、秋のあらしまでは、枝豆本来の味を名残り惜しんで、塩うでで味わったものだ、というエピソードは、いかにも季節を感じさせ文章に品もあり、強く心に残りました。
もちろん、他の作家の方の文章や料理も興味深く、その人がどんなものを食べているか知ることは、そのひとの無防備な部分、本質のようなものにひそやかに触れる気がしました。
森茉莉の愛する繊細な香草のオムレツ、宇野千代の奇妙なこだわり、向田邦子の“うまいもの”への情熱、武田百合子のほのかなユーモア。食べものはそのひとをあらわす、かたちあるプロフィールのよう。
そうして、この本の著者は古書店と居酒屋を兼ねた『コクテイル書房』をやっておられるとか。(本が出版された時点)
この、「文士料理」が食べられるのかな、いつか行ってみたい……そんなことも思った本でした。