![]() |
うそつきの天才 (ショート・ストーリーズ) 価格:¥ 1,260(税込) 発売日:1996-11 |
物語を創りだすためには、自分の血の通った経験に裏打ちされた、物語のタネ、が必要なのではないかと。
それで、連想したのがこの本です。
ウルフ・スタルク『うそつきの天才』。児童文学です。
この作家に興味を持ったのは、『シロクマたちのダンス』という本のあらすじを読んだことからでした。
シロクマ、とは主人公の少年のお父さんのあだ名で、あらすじ紹介はこんな文章だったかと思います。“ぼくは、自分の家族はけっこう上手くいってると思ってた。クリスマスの少し前、お母さんがお父さん以外の人の赤ちゃんを妊娠してると分かるまでは……”
ちょっと“え~~~っ!”という感じでした。子ども向きの本です。図書館の子ども室にあるのです。なのにこういうテーマ?
趣味程度ですが自分でも童話を書くので、内外の児童文学を知りたい、読みたいと思っている時期でした。外国作品は日本のものとはテイストが違う、とは思っていましたが、それにしても驚きでした。
けれどその一方で、子どもだましの子どもの話なんて、いやだ、と思っていた時期でもあり、これで良いんだ、そうだよね、書き方には慎重さとデリケートさが必要だけど、子どもの本だって、大人向けと同じテーマを盛り込んだっていいんだ、とも思いました。
けれどいまだにその『シロクマたちのダンス』は読んでいなくて、買ったのは『うそつきの天才』だったという……
たぶんこれは自伝的なエピソードだろうと思い、物語を創りだすひとの最初のきっかけ、みたいなものに興味があったのです。
こんな話です。主人公はうそをつくのが得意で、つくり話も自在に思いつけるのです。小学生である彼は、作文の宿題が結構ありますが、いままで困ったことがなかった。うそばかり書いて、しかもけっこういい点をもらえていたのです。
ところが、彼のうそを見破る先生があらわれて、いっこう良い点がとれなくなる。そして、自分の他愛ないうそからとんでもないトラブルに見舞われて……という話で、結末もなかなか愉快。
軽いタッチの話で、期待したほど物語のタネについて書かれてはいないのですけれど、教訓的なだけではない味わいがあります。
この作家の『おじいさんの口笛』という本も大好きで、こちらはしみじみとした感動のある話ですけれど、やはりいわゆる教科書的“いい子”が主人公でないのがイイのです。
![]() |
おじいちゃんの口笛 価格:¥ 1,575(税込) 発売日:1995-02 |
おじいちゃんにおこずかいをもらった友達がうらやましくて、老人ホームにいって孤独な老人に孫をよそおって近づいて、自分たちもおこずかいをもらおうとするちゃっかりした悪ガキ的少年二人が主人公。
それが思わぬ方向に動いて、少し悲しいけれど、透明で爽やかな結末に辿りつく。
忘れられない印象のある1冊です。