月の晩にひらく「アンデルの手帖」

writer みつながかずみ が綴る、今日をもう一度愉しむショートショート!「きょうという奇蹟で一年はできている」

Locus of my days

2014-02-16 20:37:36 | 春夏秋冬の風



昨日の雪は降り止んでも、今日も風が冷たい。
それでも山は、もう春の準備を始めている。
木々がピンク色にぼんやりと色づいてきたから。

昔、学校の卒業式とかで、誰かがいっていらした。
「サクラという花を染めるには、
あの可憐な花びらをどれだけ集めても染めることはできないのです。
サクラの花が咲く前の1・2カ月前。
冬の最中にあって、サクラの木々は花の準備をはじめています。
木々がピンク色に。ほんの少しの時期。色が入るんです。
枝の中に、そうサクラ色の準備がはじまるんです。
それを染料として採ってサクラ色に染めています」と。

私はこれを聞いた時に、驚きとともに
サクラの花だけではなく、木々そのものを見るようになった。
桜の木、樹皮や芯材、小枝、花芽。樹齢150年もいきた木々でも「若さがあって素直」な枝でないといい色には染まらないそうだ。



さて、Nがイギリスに旅立ってからもう6日目になる。

仕事はそれなりにあって忙しくしているのだが、
それでも、なんて日々が味気ないんだろうか。
一日のうち、僅かな時であっても
「キャッキャ!」と盛り上がる相手がいないというのは、やはり味気ない。

そういえば、Nがお腹にいた時(妊娠中)それはもう、幸福で幸福で。ばかばかしいくらいに、世界が美しく見えた。

夏の楓の色、土のにおい、通り雨、夏の花火…。
お腹が前にどんどん迫り出してくる10月10日まで、ものすごい元気で。あちらこちらに行きたくて仕方なくて、めちゃくちゃ、いろんな人にあつたし、活動的な妊婦だった。

食欲もすごく旺盛で。
たった今、自分がおいしいものを食べていながら、次に何を食べようかと想像を巡らせて、ともかく食べたくて。食べられることがうれしくて、仕方がなかった。

体の中に「生命」を宿すというのは、これほどに
自分が生命力をおびるのかと、とても神秘的なものを感じた。

そういえば出産の前日。陣痛がやってきているというのに、
入院中のベッドのなかで
「いちじくと、苺のショートケーキ、プルーン…。それから、ま、なんでもいいから私の好きそうなもの買ってきて。
出産を終えたら食べたいの。お願いね!」とパパに張り切ってリクエストしたのを思い出す。

それが、実際にNが私のお腹から抜けて出た途端に、
一気に夢が覚めた。
まわりの景色はそれなりにキレイには見えるけれど、浴びるほどの幸福な気持ちが、消えた。
Nがすぐ横にいて、わくわくはするのだけれど
Nがお腹にいた時のような活気が消え失せた。

出産後、ものすごい好物オンパレードを持ち運んだパパは、
「ごめん、もう欲しくないの…」と私がいうのを聞いて、肩を落とし、ため息をついた。

今、ふとそんなことを思い出す。
あれは、Nがお腹にいて、私の中から食欲をかきたて(食べ物を欲求し)。
Nのパワフルな好奇心!元気が、あれほど私を突き動かしていたのだろうかと思う。


毎日、淡々と仕事をして、充実はしているのだけど。
世の中がえらくシーンとしている。盛り上がらない日常である。

それでも最初はえらくNのことが心配で仕方がなかった。
3日もSNSが繋がらず音信不通だと、あれこれよくないコトも思ったりして。
だけど、3日目の朝。NからLINEが。
それから彼女のブログアドレス(留学を機会に開設した、Nのブログ「Locus of my days」 )が私とパパのもとへ送られてきて、不安は安心に変わる。



一日目から、すでに五日進んでいる。


すごいなぁ~。世界は近い。
イギリスのノリッジまでは、9時間も時差があるのに、
その時差を飛び越えて、「今」にすぐ繋がる時代なのである。

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2 コメント

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ホッとひと安心ですね! (しろくま)
2014-02-16 21:09:16
随分と心配だったでしょう~
これで仕事にも集中できますねっ!
ブログの更新が待ち遠しいですね~
愉しみが増えて良かったネ!
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Re:ホッとひと安心ですね! (アンデル)
2014-02-19 21:19:41
そうですねー。やたら、真面目にかいているんでこちらがビックリ。
彼女は私のブログなどみないから、自分流です。
朝8時半から5時半まで、終日授業。
そのあとコンピュータ室で、Wi-Fiにつないで大急ぎで書いてるようです。
だから、スピード文章。
6時半にはごはんだから。
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