お話を「薔薇物語」に戻しましょう。
Figure 24: Folio 1r with a quadripartite incipit in a Roman de la Rose, BnF fr. 1565, dated 1352 (パリ国立図書館フランス写本1565 fol. 1r°) から
左上:夢を見るわたし[21]、右上:身支度[89]、左下:袖を縫い合わせる[98]、右下:悦楽の園へ[629]
この絵は「薔薇物語」冒頭の口絵です。
原文の八音綴平韻の韻文を訳することは不可能なので、散文訳になっています。訳が進行するにしたがって散文の行数を表示することで訳文をまとめ上げる方式が取られています。
(以下の文章は、平凡社 薔薇物語ギョーム・ド・ロリス、ジャン・ド・マン作、篠田勝英訳。1996. から引用させていただきました。できれば全文ご紹介できればいいのですがここでは「薔薇の花」に関連する箇所だけを抜き出して引用させていただきました。このブログを読まれている方で、もう少し内容を知りたいと思われる方は是非時間をかけてお読みください。作者が書こうとした意味合いを考えながら読み進めると人生観が一変するほどに示唆に富んだ素晴らしい内容です。)
左上図の:“夢を見るわたし”に対する文章は『薔薇物語』21行以下に述べられています。ついでですので、薔薇物語を最初からご紹介しておきます。(カッコ内は行数を表しています)
『薔薇物語』ここに始まる。
I〈悦楽〉の園
夢と現実ーーーわたしの夢
『夢で見るのは絵空事や嘘偽りばかりと言う人がいる。けれども偽りどころか、あとになって真実とわかる、そんな夢を見ることがある。証人として、わたしは著作家マクロビウスを例に引こう。夢をあやかしとはせず、スキピオ王の見た夢のことを語った人物だ。夢が実現するなどと信じるのは愚かで途方もないことだと考えたり言ったりする者は、そうしたければわたしを狂人だと思うがいい。けれどもわたしとしては、夢は人々に吉凶を告げ知らせるものだと確信している。少なからぬ者が夜、それとわからぬかたちで多くの事どもを夢に見て、のちにその意味を明確に悟るからだ。 (1-20)
この世に生をうけて二十年目、〈愛の神〉が若者から通行料を取り立てる年齢のころ、ある晩わたしはいつものように床に就き、深い眠りに入っていた。そして夢を見た。とても美しく、わたしの気に入る夢だった。そこに出てきたものは、あとになってすべて夢のとおりにそっくりそのまま実現したのだった。』
(21-30)
上の21-30行を表す絵が、「左上:夢を見るわたし」に当たります。
主人公が寝ている左側には白いバラの花が描かれています。