薔薇のお話に戻ります。
Ayten Altintas(1948-)イスタンブール大医学部医学史倫理学部名誉教授作成 https://www.researchgate.net/publication/283600420_Turkish_rose_A_review_of_the_history_ethnobotany_and_modern_uses_of_rose_petals_rose_oil_rose_water_and_other_rose_products/link/5881cef3aca272b7b441830e/download から;薔薇の花からのオイルの抽出方法、オイルの作用機序と作用場所、その確認方法について。
ローズウォーターの効用とその確認と方法
エキス/エッセンシャルオイルの種類 |
作用 |
方法 |
水性および/またはエタノール抽出物 |
催眠薬 |
ペントバルビタール誘発睡眠時間 |
水性および/またはエタノール抽出物 |
鎮痛剤 |
ホットプレート、テールフリック、酢酸、およびホルマリンテスト |
水性および/またはエタノール抽出物 |
鎮咳薬 |
クエン酸法 |
水性および/またはエタノール抽出物 |
気管支拡張薬 |
モルモット気管鎖のカルシウムチャネルの阻害 |
水性および/またはエタノール抽出物 |
心拍数と収縮性の増強 |
分離したモルモットの心臓 |
水性および/またはエタノール抽出物 |
抗炎症薬 |
カラギーナン誘発ラット足浮腫 |
水性および/またはエタノール抽出物 |
下剤 |
強制経口投与および腹腔内注射による便秘ラット |
水性および/またはエタノール抽出物 |
抗神経叢 |
日焼け防止係数(SPF)の決定 |
水性および/またはエタノール抽出物 |
老化防止 |
成虫のショウジョウバエの死亡率 |
エタノール抽出物(R.centifolia) |
鎮咳薬 |
二酸化硫黄ガスによって誘発されたマウスモデル |
水性アルコール、エタノール抽出物、エッセンシャルオイル |
酸化防止剤 |
食細胞活性による遊離基活性の測定 |
メタノール抽出物 |
抗糖尿病薬 |
α-グルコシダーゼ活性の測定 |
メタノール抽出物 |
抗リパーゼ |
ブタ膵臓リパーゼによるトリオレインエマルジョンの濁度の低下 |
メタノール抽出物から単離されたフラボノイド化合物 |
抗HIV |
HIV-1MNに感染したC8166ヒトTリンパ芽球様細胞およびHIV-1IIIBに慢性的に感染したH9ヒトT細胞リンパ腫細胞に対する抗HIV効果 |
エッセンシャルオイルとアブソリュート |
抗菌剤 |
ディスク、十分拡散、微量希釈法 |
エッセンシャルオイル |
抗けいれん薬 |
WistarラットにおけるPTZ(ペンチレンテトラゾール)誘発性発作ラットにおける扁桃体電気キンドリング発作 |
エッセンシャルオイルとフェニルエチルアルコール |
神経保護、記憶力増強 |
アセチルコリンエステラーゼ(AChE)に対する阻害71 |
クロロホルム抽出物 |
神経保護、認知症の治療 |
神経突起伸長活動試験 |
薔薇のつぼみからのシアニジン-3-O-β-グルコシド |
心血管機能 |
アンジオテンシンI変換酵素阻害 |
フレッシュフラワージュース |
肝の保護 |
抗酸化活性試験 |
R. x damascena抽出物を含むハーブ点眼薬 |
眼科疾患 |
臨床試験 |
私見ですが、「上で示された効用とこれまでに述べてきたR. x damasceneの内容を鑑みると、R. x damasceneの花びらには上皮に働きかける薬効があるのでは。」と思えます。
上皮(皮膚の表皮,口腔,食道,肛門管の重層扁平上皮細胞。腎盂、尿管の粘膜、膀胱の粘膜の移行上皮。小腸内壁を覆う粘膜上皮。血管やリンパ管の単層扁平上皮。胃や腸の粘膜の単層円柱上皮。消化液や汗などを分泌する腺上皮。)は外気にさらされている皮膚だけではなく、口から肛門に至る消化器官内壁、肝細胞や尿細管上皮など分泌や吸収機能を担う実質臓器表面の細胞も含めて上皮と考えます。そうであれば上の表で示された内容に納得がいきます。
ローズオットー、アター、ルーまたはローズエッセンスとして知られるローズオイルは、R. x damascenaの花びらから抽出したエッセンシャルオイル(精油)※です。ローズオットーは水蒸気蒸留によって抽出され、ローズアブソリュートは溶媒抽出または超臨界二酸化炭素抽出によって得られます。
価格が高く、有機合成の出現にもかかわらず、ローズオイルは今でも香水で最も広く使用されているエッセンシャルオイル※です。ローズエッセンシャルオイルは二重蒸留で作ります。それは何千もの成分からなる複雑な混合物です。分析技術と方法論の開発で組成の解明が次第に知られるようになってきました。
※ エッセンシャルオイル(精油)という言葉は、これまでもいくたびか出てきましたが、非常に紛らわしい表現です。ここで整理しておこうと思います。
インドのカナウジで行っていた、水蒸気蒸溜を思い出してください。カナウジでは低温でゆっくりと、4-6時間かけて薔薇の花びらを蒸していましたね。エッセンシャルオイルは、水蒸気といっしょに気化して、水蒸気と一緒に出てきます。水蒸気を冷却すると、エッセンシャルオイルは水の上に浮かんで(水よりも軽い)オイルと水の2層になります。上澄みがエッセンシャルオイルで、下がローズウォーターです。
即ちエッセンシャルオイルは非水溶性で、水よりも比重が低く、揮発性の油成分ということになります。(非水溶性と言っても100%ではありません)オイルの抽出方法にはこだわりません。水に溶けませんが、アルコール、二硫化炭素、石油エーテル、脂肪油などに溶ける親油性です。
薔薇の匂いにはどのような化学成分が関与しているのか、調べようと思います。
” Specification of Fragrance Ingredients of Bulgarian Rose oil ” にダマスクローズの香りに関して次のような説明があります。
ブルガリアローズオイル、ローズウォーター https://tokuhain.arukikata.co.jp/sofia/2009/06/post_27.html
『ブルガリアローズオイルの主要成分は含有量が最大55~65%にも及ぶ3 種のテルペンアルコール(テルペン:terpene とはイソプレン※を構成単位とする炭化水素。これにアルコール基が付いたのがテルペンアルコール)で、このアルコール類が「バラ様の香り」を決定づける芳香成分となっています。 なかでも、ブルガリアローズオイルの 1/3 を占めるシトロネロールは、抗アルカリ化、抗酸化、抗熱作用のある非常に安定した化合物で、この特性はオイル全体の安定性と共に、品質や香りの変化を伴わずに長期保存、使用の可能性をある程度決定づける非常に重要な要素となっています。主要成分を除いた構成成分の内、15~17%は各々の含有量が1~3%の様々な化合物からなり、さらに残りの構成成分は、その多くが 0.1% 程度など、1% 未満の微量成分で占められています。ブルガリアローズオイルにおけるフェニルエチルアルコールの含有量は、通常およそ2%となっており、それを基準に別の抽出方法や溶剤抽出法などにより得られた他のローズオイルと区別することができます。例えば、ロシアタイプのローズオイルのフェニルエチルアルコール含有量は70%以上、別のタイプのローズアブソリュートは55~60% 以上あり、こうした化合物の芳香はバラ様ではあるが、低含有量のブルガリアローズオイルの方が透明感があり、心地よく香ります。 ブルガリアローズオイルの構成成分中のオイゲノールとメチルオイゲノールの存在は、かすかな “ぴりっとした辛み” と “オリエンタル” なノートを与え、ベースとなるローズの花束の香りをより際立たせています。セスキテルペンアルコールのファルネソールは穏やかで、心地よい、リンデンやスズラン及びローズの花々のようなフローラルノートを持ち、ローズの香りを引き立てています。オイルの香りの特色に関わる重要なものはそれだけではありません。エステルとアルデヒド、ゲラニル酢酸、シトロネリル酢酸及びその他を主とするエステル類は、ローズの香りのベースとなる、フルーティーさやフローラルさなど、多彩なニュアンスを与えています。さらに、含有比率が非常に小さい微量成分であっても、私たちが香りを感知する事の出来る重要な成分です。中でもβ- ダマセノンやβ-イオノンは、香りへの貢献度が非常に高くなっています。 精油成分を含んだブルガリアローズの花弁の中で合成され、水蒸気蒸留法で抽出される多彩で豊かな化合物。その複雑な構成が生み出すノート(香調)、ニュアンス、陰影の全てにおける極めて豊かな香りの幅、それがブルガリアローズオイルのあの完全なる芳香を創出しているのです。』
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