グァム島での惨事を思うに、現代はまさに荒天の世だと実感します。
内田樹先生と光岡英稔氏の対談本「荒天の武学」の中に出てくる“シラット”と呼ばれる東南アジアの伝統武術を駆使した超絶アクションが、世界中の映画ファンの間で話題騒然となったインドネシア発のノンストップ・バトル・アクション「ザ・レイド」を鑑賞しました。麻薬王が支配する高層アパートに強制捜査(レイド)に入ったSWAT隊と、各階で待ち受ける無数のギャングとの壮絶な死闘を、多彩かつハードなアクションと容赦のないバイオレンス描写で描き出しています。
臨月をむかえ、自宅で待つ愛する妻のもとへ、是が非でも帰らねばならない主人公が、絶体絶命の状態に追い込まれながらも、最後まで闘い続けるというストーリー。物語としては、別のからみもありますが、シンプルなアクション映画ながらも、シラットという武術のすごさは十分に感じられる内容でした。「スタントマンの命が安い」と感じるアクションシーンの連続。ハリウッドでリメイクが、決まったというのも素直にうなずけます。
内田先生は、私にくださったメールなかで、「『ザ・レイド』は、悪役がいくらぼこぼこにされても、ぴょんぴょん起き上がってくるので、なんか費用対効果の悪い格闘技だなあ・・・という印象を与えたことはシラット的にはマイナスだったのでは」、「トニー・ジャーは『一撃必殺』でしたから、『ムエタイ、つよい・・・』という印象でしたものね」と書かれておいででした。
確かに、あれだけの技やパンチやキックを決められても、まだ起き上がってくるところは映画としては仕方ないかなと・・。
グァム島の事件をみても、突然の危機的状況の中で、どう振舞うべきか、いかにして生き延びるかを考えさせられました。
慎んで、亡くなられました方々のご冥福を、お祈りしたいと思います。
◆荒天の武学
「武術とはきれい事では済まない状況を如何にきれいに解決できるか。そこに存在意義がある。」日本、アメリカ、中国と、数多くの武術を経て、ハワイで11年武術指導者を勤め「争闘の世界」を歩いた韓氏意拳の光岡英稔と、武道家であり思想家の内田樹の対談。身体感覚を語りながら今の私たちの状況を語り、自然や時間を語り、生き物としての人間を語っておられます。哲学的なお話も随所に。深いです。武道に興味のない方でも、読まれる価値のある内容です。印象に残った言葉を、次に。
・「共有される時間」という制約条件からどうやって自分を解き放つか。
・無時間は「時間というメジャー」では測れない。でも、その時間では計測できないところから出来事が立ち上がってくる。
・武道の本質は時間の外にある。
・結局、最終的に武術で問われるのは「私がどこまで覚悟ができているか」を稽古を通じて見ていけるかということです。しかし、これがいちばん難しい。なぜなら覚悟を稽古するということは、シミュレーションや想定で固めて「覚悟を決めたからオレは大丈夫だ」と自分に信じこませるのとは違うからです。ポジティブ思考とか自己啓発的なものではなくて、覚悟とは、字の通り目を覚ませということです。目を覚まして悟れということだから、はっとするところを常に見ていかないと覚悟の稽古にならない。そういう自分の中の変化を見、自分をずっと省みていくことで、周りの状況がとっさに変化したときでも、それに対応できる自分というのをつくっていくことはできると思います。
◆ザ・レイド
インドネシアのジャカルタ。スラム街にそびえる高層アパートは、麻薬王タマ・リヤディが支配する悪の巣窟となっていた。そんな中、警察はリヤディを逮捕するため建物への強制捜査に乗り出す。新人警官ラマを含む20人のSWATチームによる奇襲作戦が決行され、隊員たちが各フロアを順次制圧しながら、リヤディの部屋を目指して上っていく。しかし、作戦はリヤディに筒抜けとなっていた。一行は退路を断たれてしまい、次から次へと押し寄せる凶暴な犯罪者たちの攻撃で、一人また一人と仲間を失っていくラマたちだったが…。
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