真夜中のカップらーめん

作家・政治史研究家、瀧澤中の雑感、新刊情報など。

いでよ、平成の高橋是清

2011-03-19 21:14:46 | Weblog
たとえば。
それまで仲の悪かった異性から突然、
「結婚しよう!」
と告白されたら、びっくりだろう。
それもいきなり「電話」で。

今回の菅氏の谷垣氏に対する入閣依頼は、そういうことである。

わたしは本ブログで、自民党の協力を得るべきだと主張してきた。
協力を受ける以上、相手が呑める環境にするべきなのは当たり前だ。

ところが。
政権側にまったくその気配がない。
世論が政権批判を強め、野党との協力を求めている状況を見て、
実に卑怯な手を使ってきた。
最初から条件も何も提示せず、ただ協力を求める。

言い方を変えれば、
「内閣に入れてやるが、何でも言うことを聞けよ。予算も通せよ!」
と、呑めない条件を押し付けてきた。

「オレは協力を求めたが、自民党が断ってきた」

そういう形をつくりたかったことが見え見えである。

なぜそう言えるのか。

第1に、もし菅氏が本気なら、条件を提示したはずである。
第2に、もし菅氏が本気なら、大枠の下交渉を行うはずである。
第3に、もし菅氏が本気なら、電話ではなく、少なくとも官邸で直接話し合ったはずである(二人の直接対話は震災後何度も行われているのに、入閣の話はこれまで皆無)。
第4に、もし菅氏が本気なら、仙石氏の起用は行わないはずである。

野党が問責決議でクビにした仙石氏を、官房副長官として再起用した。
「あんた方野党がクビにした仙石さんは、私ら民主党政権には必要だから、野党の意向なんか関係なく、また内閣の一員にしますよ。誰を使おうとこっちの勝手だ!」

野党にケンカを売っておいて、野党に協力を求める。
口では「国難だ、一致協力だ」と言いながら、行動は正反対のことをする。

卑怯である。

一方の谷垣氏。
こうした申し出に対して、なぜ条件を付けなかったのかわからない。
たとえば。

「国難だ。閣内で協力しよう。ただし、期限は三カ月。協力できる内容は震災関係のみ。予算は必ず自民党と協議し、子ども手当、高校無償化などは盛り込まない。そして7月をめどに解散・総選挙を行う」

こういう条件なら、国民も自民党党内も納得できた。しかし、谷垣氏はそうしなかったようである。

かつて田中義一内閣で金融恐慌を立て直す際、高橋是清は蔵相を懇請され、最初は断ったが、次のような条件で引き受けた。

「30~40日間なら引き受けよう。それで財政は安定できる」
実際、財政は安定し、42日間で高橋は蔵相を辞任した。

こういう見事さを、谷垣氏に求めるのは難しいかもしれない。
なにせ、こんな状況下で増税を菅氏に進言したというのだから、呆れはててモノが言えない。
経済の素人だって、震災後の混乱の中で増税すれば、購買意欲を削ぎ、景気が冷え切るくらいのことはわかる。

蛇足だが、高橋是清は金融恐慌の際、銀行の取付騒ぎを防ぐため、片面しか刷っていない紙幣を銀行の窓口に山ほど積み上げて、国民の不安を取り除いた。両面刷っている時間がもったいなかったのである。

高橋は、「銀行はつぶれないぞ!お金はあるから、あわてるな!」と叫ぶよりも、現金を見せた方が国民が安心することを知っていたのだ。

どこかの無能大臣たちのように、
「節電しろ!さもないと大停電だぞ!」
と国民を脅したり、
「たくさん物資はあるんだ!買占めなんて不見識なことはやめろッ!」
と説教を垂れて、国民に安心を与えるどころか不安をまき散らす阿呆とは、
まったく違う。

こういう素人衆には、ぜひ歴史を学んでほしいが、しかし、手遅れなのだろうか。
平成版・高橋是清の登場を、望んでやまない。