多谷千香子法政大教授が日本記者クラブで講演。「パキスタンの2重基準」と部族が割拠するアフガンの特殊事情を知らない「米国の無知」によって、大混乱を招いたと指摘した。アフガンの内戦が本格化すれば、シリア、イラクの内戦と融合する懸念もあると明かした。

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2016年9月8日、中東アフガン情勢に詳しい多谷千香子法政大教授が日本記者クラブで講演し、近著『アフガン・対テロ戦争の研究 ― タリバンはなぜ復活したのか』(岩波書店)に基づいて、最近のアフガニスタンやアラブ社会の大混乱について語った。9.11テロ(米同時テロ)の復讐戦として始まった米国のアフガンでの対テロ戦争は、「パキスタンのダブルスタンダード(2重基準)」と部族が割拠するアフガンの特殊事情を知らない「米国の無知」によって、大混乱を招いたと指摘。タリバンを離脱したイスラム過激派がIS(イスラム国)との関係を強めている可能性があり、アフガンの内戦が本格化すれば、シリア、イラクの内戦と融合する懸念もあると明かした。発言要旨は次の通り。

世界は今、中東を中心に相次ぐテロに見舞われているが、元をたどれば9.11テロ(米同時テロ)に行き着く。その復讐戦として始まったアフガン・対テロ戦争で米国は2001年以来、1兆ドル超の巨費を投じ、14年間という史上最長の戦争を戦い、2千人以上の米兵が死亡した。

米国によるアフガン・対テロ戦争でタリバン政権が崩壊したが、パキスタンに協力を求めたことで状況が複雑化した。宿敵であるインド・ヒンズー勢力の伸長を警戒するパキスタンは、米国にはイスラム過激派弾圧を約束する一方で、実際はタリバン・イスラム勢力の支援を続けてきた。こうしたパキスタンのダブルスタンダードが「アフガン・対テロ戦争」の背後にあり、混乱に拍車をかけた。

米国はタリバンを政権から追い払えば民主主義が定着すると考えていたが、これは複雑な諸部族が割拠するアフガンの事情を考慮しない無知によるもので、事態は逆に悪化した。現状は、国内基盤が弱いガニ大統領の下でアフガン中央政府の権限はぜい弱だ。一方でタリバンは中央政府の腐敗や駐留米軍に反発する住民たちの支援を得て、次第に勢力を拡大している。

当初、タリバンのリーダー、オマルは9.11に反対し、オサマ・ビンラーディンをアメリカに引き渡そうとしていたが、アメリカは読み損なった。アル・カイダの大物に標的を絞る作戦に特化していれば、タリバン政権やフセイン政権が存続して社会は安定し、IS(イスラム国)が誕生することもなかったのではないか。 

ISとタリバンとは直接関係がない。しかしタリバンを離脱したイスラム過激派がISとの関係を強めている可能性はある。またイランと関係が深いアフガンのシーア派ハザラ人は、アフガンからイラン経由でイラク、シリアに移る可能性もある。アフガンが本格的な内戦に突入すれば、アフガン、イラク、シリアの内戦が融合することも考えられる。(八牧浩行)