鮎川玲治の閑話休題。

趣味人と書いてオタクと読む鮎川が自分の好きな歴史や軍事やサブカルチャーなどに関してあれこれ下らない事を書き綴ります。

埋もれた軍歌・その26 新日本の歌(朝日の巻/桃太郎の巻/花咲爺の巻/浦島太郎の巻)

2014-08-05 17:42:36 | 軍歌
はい、というわけで今回ご紹介する軍歌も底本は昭和5年『新進軍歌全集』です。例のごとく作詞者・作曲者・メロディは不明。


新日本の歌

朝日の巻

朝日かゝ゛やく日の本は
 富士の高峯(たかね)に正気(せいき)みち
わかき生命(いのち)の湧き出でゝ
 栄光(はえ)の歴史に三千年(みちとせ)の
礎かたき新日本(しんにほん)


宏(ひろ)く文化の粋をとり
 世界をてらす御鏡(みかがみ)に
国のすがたの崇(たか)きかな
 神武不殺(しんぶふさつ)の御剣(みつるぎ)に
正義の力漲(みなぎ)れり


今や大道(だいどう)おこるとき
 聖(きよ)き御玉(みたま)のたか光(ひか)り
登る朝日のてらすごと
 仁慈洽(あまね)くかゝ゛やきて
四海は一に帰せむかな

桃太郎の巻

海の国なる日の本は
 島また島につらなりて
世界文化の揺籃に
 桃か桜か栴檀(せんだん)か
双葉にかほる新日本


忠信(まこと)あふるゝ真心の
 凝りてゆかしき大和魂(やまとだま)
金鵄の光かゝ゛やける
 父祖建国の遺図(いと)をつぎ
崇(たか)き希望(のぞみ)に胸は燃ゆ


腰に着けたる吉備団子(きびだんご)
 正義に立ちて雄々しくも
世界教化の鹿島だち
 四海の民を友として
天地(あめつち)ひらけ道のため

花咲爺の巻

桜花(さくらばな)咲く日の本は
 竹の園生(そのふ)も民草も
聖(きよ)き努(つとめ)を励みつゝ
 萬(よろづ)の国と共栄の
花をば咲かす新日本


国に難(なやみ)の来(きた)るとも
 忍慈(にんじゅ)の前に力なく
灰燼(はひ)より出づる鳳凰の
 瑞気は四方(よも)にたなびきて
わかき生命(いのち)ぞ甦る


天の使の舞ひくだり
 花咲爺(はなさかぢぢい)はいさみたち
永久(とは)に栄(は)えよと灰まけば
 萬(よろづ)の民はことほぎて
花かむばしゝ全世界

浦島太郎の巻

恵(めぐみ)ゆたけき日の本は
 天(あま)つ日嗣(ひつぎ)の御位(みくらゐ)の
大地(たいち)とともに彊(かぎ)りなし
 龍宮城の海ふかく
恩愛ゆかし新日本


姫がかたみの玉手筥(たまてばこ)
 開けばかはる白髪(はくはつ)に
既往(すぎこしかた)を偲ぶれば
 天の岩戸に神々の
舞ひにし跡は今いづこ


時のながれの絶間なく
 廻りて茲(ここ)に三千年(みちとせ)の
わかき光の浦島が
 神にも似たる姿こそ
久遠(くえん)の生命(いのち)新日本



はい、長いですね。それぞれの「巻」は3番まであり、「巻」自体は4つあるのであわせて12番まであることになります。
最初の「朝日の巻」では三種の神器を歌詞の中に盛り込んであり、「桃太郎の巻」以下は若干無理やりな感じもしつつ桃太郎や花咲爺、浦島太郎といった馴染み深い日本の童話をモチーフにしています。
桃太郎については鬼と戦いやっつけるという内容から軍事的な宣伝と相性がよく、明治45年に出版された『新編軍歌集』(剣光外史・編)に「桃太郎の歌」が収録されているほか、大東亜戦争期には国策アニメーション映画として「桃太郎の海鷲」や「桃太郎 海の神兵」といった作品が作られています。そういった意味でこの「新日本の歌」に「桃太郎の巻」が入っていることはそんなに珍しくはないんですが、花咲爺や浦島太郎といった然程「軍国的」とも思えない題材が取り上げられているのは面白いかもしれません。
昭和5年という満洲事変以前の時期に出版された軍歌集に載っているにもかかわらず「四海は一に帰せむかな」だの「萬の国と共栄の」といった、後の東亜新秩序や大東亜共栄圏の思想につながる部分が見られる点もやや興味深いですね。

埋もれた軍歌・その25 殉難潜水艇

2014-08-03 06:25:02 | 軍歌
例によって例の如く『新進軍歌全集』よりの一曲ですが、今回は珍しくメロディが軍歌「陸奥の吹雪」と同じものだと判明しています。なお作詞者はいつものように不明な模様。


殉難潜水艇
      (陸奥の吹雪と同譜)


今をさかりと咲く花の
頃しも卯月十五日
君と国とに酬(むく)いんと
伎倆(ぎりょう)を磨く艇とゝも
新島辺(あたらしまべ)の波の間(ま)に
散りにし花ぞいと惜しき


潜(くぐ)りて進む水の底
命のつなと頼みして
閉塞弁の鎖切れ
漲(みなぎ)る潮(うしお)おこる瓦斯
常世のやみに襲はれし
あゝ第六の潜水艇


あはれ呼吸(いき)も迫り来ぬ
今はの際(きは)の束(つか)の間(ま)も
己(おの)が本分守りつゝ
勇士の最後かくなりと
乱れぬ様を世にとゝ゛め
斃れてやみし大和武士


はや是れまでと艇長の
責(せめ)を我身(わがみ)に負ひて謝し
功(てがら)は部下にと帰して揚げ
別れを告ぐる言の葉も
涙と血もて書きし文(ふみ)
読みては誰(たれ)か泣かざらん


十有三の艇員は
心を砕きひたすらに
部署を離れず退(しりぞ)かず
従容自若泰然と
職に殉じて潔(いさぎよ)き
覚悟のほどこそ雄々しけれ


あな勇ましの勇ましの
佐久間大尉を始めとし
花より清き大丈夫(ますらを)の
笑ふて眠る英魂は
天晴(あっぱれ)武士の鑑ぞと
千代萬代(ちよよろづよ)に歌はれん



既に大体の皆さんがお気づきだと思いますが、歌の題材となっているのは1910(明治43)年4月15日に起こった第六潜水艇の沈没事故ですね。
この事故の際に佐久間大尉以下十四名の殉職者が最後まで配置についたまま亡くなり、また艇長が事故の原因や殉職者遺族への配慮などを記した遺書を認めていたことは有名で、大和田建樹作詞、瀬戸口藤吉作曲による「第六潜水艇の遭難」という著名な軍歌も作られています。

埋もれた軍歌・その24 中隊家庭の歌

2014-08-01 17:10:40 | 軍歌
今回も昭和5年『新進軍歌全集』からの紹介です。作詞者・作曲者・メロディなどは不明。


中隊家庭の歌

抑々(そもそも)我らの中隊は
 恰(あたか)も一家の如くなり
一家親密ならざれば
 家勢振(ふる)はぬものぞかし
汝が属する将校を
 尊き父と思へかし
下士官等(とう)をば慈愛ある
 母と思ひて親(したし)みつ
上等兵は年長の
 兄と頼みて従へよ
汝が仰(あふ)ぐ上官の
 名誉は汝の名誉なり
汝が名誉は上官の
 名誉と思ひ励みつゝ
上下(じゃうか)心を一にせよ
 上下心を一にせよ
汝が尊ぶ上官は
 汝を忠勇義烈なる
国を守るの軍人と
 心を砕き明暮(あけくれ)に
汝に向(むかつ)て訓戒す
 他日汝が戦場に
光輝き名誉ある
 武功を立つるを希望して
熱心汝を教育す
 熱心汝を教育す
汝が親(したし)む同輩の
 非行は諌めて矯正し
善行あらば賞揚し
 汝も之に倣ふべし
疾病(しっぺい)危急は諸共に
 救護し之を看護せよ
全中隊の団結は
 戦地に於て唯一の
武器の威力の夫(それ)よりも
 遙かに効あるものなるぞ
汝が従ふ上官は
 汝が身体(しんたい)健全に
能(よ)く耐へ忍ぶの勇気をば
 心密かに渇望す
汝の勇気健康は
 汝が日頃活発に
運動するに如(し)かざるぞ
 冱寒(ごかん)を冒(おか)して訓練し
炎暑を凌(しの)ぎて野に山に
 演習するは汝等が
国家に対する本分ぞ
 汝が忠節盡(つく)すには
汝が熱心撓(たゆ)まざる
 奮励心(しん)にありと知れ



長い!(憤怒)
数えてみたら50行ありました。本来は複数番に分かれているのかもしれませんが、今回底本とした『新進軍歌全集』ではこのままの書かれ方です。
内容としてはよく帝国陸軍の兵役生活において「中隊長はお父さん、分隊長はお母さん」と言われていた、というのをそのまま歌にしたような感じです。但し、、この歌では「汝が属する将校」が父、下士官等が母という扱いになっていますが。