欲しいと言っていた日記帳を持って
待ち合わせの場所へ急いだ
どこに行こうかなんて決めていなくて
何となく?東京タワー
気が遠くなりそうな高さと
隙間無くある建物
人の気配が感じられないような
不思議な感じがした
それから浅草へ
…会話が途切れるのが不安だったのか
それとも
気持ちを隠すためだったのだろうか
たくさんの人の中に紛れるように歩いていた
一人で前を歩いている背中を見ながら
見失わないように少し早足で歩いた
…人込みの中
その背中が見えなくなりそうになった時
少しの不安が心の中に…
思わず後姿に名前を呼んだ
…
私は
私の口から出た名前にはっとして
動けなくなった
気がついて戻ってくる姿
何ともいえない顔を今でも覚えている
私は
その時
その場所にいない人の名前を呼んでしまった
無意識に…
多分一番驚いたのは自分自身かも知れない
気のせいだと言い訳をして
何も無かったように歩き始めたけれど
心の中の気まずさは消えない
…帰り際
駅の隅のベンチ
その日始めての二人っきりに
少し話をして帰った
ただ…
ごめんなさいを言うためだけに
過ごした一日
名前を間違えた事は
恥ずかしくって
ずっと内緒の
…
筈だった
のに
…
15年以上も経ってから
不意に言われた
あの時
私が呼んだ名前の主に
「名前、間違えたんだって?」
…
…
「……えへっ」
その名前の主は…
今
いつも傍にいて
名前を呼んだら
すぐ振り向いてくれます
もう名前を間違うことはないでしょう
多分ね…