弟19たちと漁から戻る父52
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ブルース・ウィルスが顔面パンチを喰らったような2枚目の父52は12歳のときから4つ上の兄56の手伝いで漁に出たこの道一筋40年のベテラン漁師である。父52は20歳で自分のボートを持ち、2年後母48と結婚した。そして2年後、長女の妻が出来たとき現在の家を買い、10年後には建て替えたのだから金を稼ぐ腕のいい漁師なのだ。聞けば当時、爆弾漁で魚を獲っていたというから魚も豊富にいたのだろう。
ところが10数年前から突然魚影が薄くなった。なんでもチャイニーズ系が経営する大型漁船の底引き網が近海の漁場まで荒らし始めたせいで漁獲量が3分の1にまで激減した。当然、家計まで圧迫する。それまで豊漁なら漁師仲間と毎晩町のセンターまで飲み歩いていた父52は思いもよらぬ不漁に神経をすり減らし、今までのように酒が飲みたくて、それで母48が実家を改装してサリサリ(雑貨店)をモグリで始めた。
幸か不幸かこのサリサリが当たって家計は潤ったが、父52はいつしか酒に溺れる日々となった。漁に出ても魚が少ししか獲れないから、潮が悪ければ朝から寝るまで家で酒を飲み続けアル中になってしまった。そんな父52に天罰が下ったのか、5年前、母48が病気で入院手術をした。そして翌年、母48は妹4を出産。これが転機となって生まれ変わり、父52は魚が少ししか獲れなくとも昔のように朝夕漁に出るようになった。
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フランシス君が父52と会ったのはアル中末期のときで、とにかく2人はソリが合わない。父52はフランシス君を「庄屋のボンボン、バカ息子」、フランシス君は父52を「アル中で程度の低いバカ親父」とお互い思っているようだ。2人の間に確執があることはミーティングを終え妻の実家に戻ったとき表面化した。
夕方、実家のテラスで妻と家の相談をしていると突然、父52がやってきて妻にいろいろ言い始めた。後で妻に聞いたところ「変な噂が立つからフランシスがいる隣村へは行くな」「フランシスに家を頼んだのか、あんなヤツに頼むと好き勝手にやられるゾ」。そして父52は実家の壁をドンドンと叩いて「家を建てるときはなぁ木が必要だ、オレの山の木を使うようフランシスに言っておけ、いいな」。すごい迫力だ。
慌てた妻はすぐさまフランシス君に連絡した。翌々日、フランシス君から木を伐採する連絡が入いるや、父52は再び妻に「それで木は足りるのか、もっと切ったほうがいい、フランシスに伝えろ」と言った。このとき妻に「設計図ができ、見積もりを取ってから発注」と言ったが妻は混乱してワケワカラン状態。
父52の「フランシスに好き勝手にやられる」という指摘は正しく、せっかく家で用意できる材木をわざわざ業者から買うことはないと考えたのだろう。しかし見積もりも取らずめくら発注するのは暴走で、やはり父52はフランシス君を快く思っていなかった。そして妻の思惑とは別次元になってしまった。
その後、木の伐採問題はダンピング工事と重なってより混迷の度を深めることになる。