今日のひとネタ

日常ふと浮かんだことを思いのままに。更新は基本的に毎日。笑っていただければ幸いです。

赦す人 団鬼六伝  大崎善生著

2015年06月27日 | ブックレビュー

 たまたま書店で文庫の新刊として見かけたので買ってみました。大変面白かったです。団鬼六先生はもちろんSM小説の大家で「花と蛇」とかは誰でもタイトルくらいは知っていることでしょう。

 私はというと何年か前まで「ダンキロク」だと思ってたくらいで、作品を読んだこともなければご本人に関する知識もほとんどありませんでした。意識するようになったのは、将棋が好きだった父が何年か前に「団鬼六先生の本読んだことあるか?」と聞いてきて、何やら将棋関係の小説が大変受けているらしい話を知り、「SMだけの人じゃないんだ」と思ったのがきっかけ。また、やはり何年か前に愛川欽也氏がテレビで鬼六先生のことを「私は昔からよく知ってたんだけど、この人があの団鬼六だっていうのを聞いて驚いたんですよ」と言ってたのを聞いてまた興味を持ったと。なんかいろいろな面を持っていそうで。

 この本は作家で以前は雑誌「将棋世界」の編集長も努めていた大崎善生氏が、晩年の鬼六先生に密着取材した上で書き上げたもの。大崎氏のことは恥ずかしながらまったく知らなかったのですが、吉川英治文学新人賞も受賞した人気作家なんですね。もちろん鬼六先生の波瀾万丈の人生があってのことですが、作品として素晴らしいのは大崎氏の力によるところでしょう。

 団鬼六がどういう人だったかというのはこの本を読んでいただくのが一番わかりやすいのですが、文学作品でデビューしSM小説を書き、生活のために英語教師をやり、SM雑誌を作り、映画を作り、将棋雑誌も作り、一旦断筆したのち将棋がテーマの小説で復活し、またSM小説でも受けて…と、ざっと足跡をたどるだけでもこれくらい。

 なにしろ儲けては散財し、成功したと思ったら騙されて、また一山当てたと思ったら不採算事業に手を出してということで、結局没後には借金が残ったそうですが、とにかく仲間を集めてワイワイやるのが大好きだったそうです。東日本大震災の直後に山梨県の温泉に仲間を集めてツアーに行き、バスが土産屋につくたびに「客もおらんのに立ってる売り子がかわいそうや」と、両手の紙袋いっぱいになるような買い物をしたというエピソードにも、そのお金の使い方の代表的なもの。とにかく豪快な人だったようです。

 鬼六先生の小説はまったく読んだことがないので、ここで紹介されているものでいくつか読んでみたいのがあります。将棋の真剣師の話もそうですけど、相場師だったお父さんのことをテーマにしたのとか、若くして突然自殺した最後の愛人についての話とか。さっそく探しに行かなきゃ。…いや、もちろんついでに「花と蛇」も…。