真夜中の2分前

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日韓GSOMIAは安全保障に寄与するのか?

2016-11-27 20:37:24 | 安全保障
 ついに日韓とのGSOMIA(軍事情報包括保護協定)が、締結・発効にいたった。
 韓国のパク・クネ政権は、国内の反対を押し切って締結に踏み切り、これによって防衛に関する情報などが日韓の間で共有・管理されることになる。
 この動きをアメリカも歓迎しているというが、果たしてこれが本当に北朝鮮の脅威に対する正しい対処法なのだろうか。私には疑問である。

 だいたいいまのパク・クネ政権の悲惨な状況をみていると、彼らに軍事的な機密情報を知らせてほんとに大丈夫なのかと思うが、たとえこの状況がなかったとしても、私はこの日韓GSOMIAというものに批判的だ。

 そもそも日韓の関係というのは、どうにもぎくしゃくする。
 日本の自衛隊の艦船が韓国に行くと、旭日旗がどうとか船の名前がどうとかいうことでひと悶着起きる。また、有事の際に日本が在韓邦人を救出するのに必要な情報を、韓国側は渡さないといっているなど、歴史認識問題や領土問題などを背景にした対立が解消しない状況が続いている。これではGSOMIAを締結したことが本当に日本にとってプラスになるのか疑問ではないか。

 そして、もっと根本的な問題として、当ブログのかねてからの主張である「軍事的な同盟関係を結ぶことが抑止力になることなどない」ということもあらためていっておきたい。

 だいたい、これまでの経緯を考えれば、これで朝鮮半島の情勢が改善するとはとうてい考えられない。
 北朝鮮の核・ミサイル開発は、日米韓がプレッシャーをかけていることに対する反応として起きていることであって、ここで日韓がさらに協力体制を強化すれば、北はむしろこれまで以上に核やミサイル開発をハイペースで進めようとすることになるのは疑いようがない。
 “抑止力”という同じ理論をもったままで逆の立場に立って考えてみれば、これは簡単に分かることだ。今回の動きは、北朝鮮からすれば「日本と韓国が結束してわれわれに軍事的圧力をかけようとしている。それならこっちは、国を守るためにもっと抑止力を強化しなければ」ということになる。それが北をさらなるミサイル発射や核実験に駆り立てる――ということのほうがよほどありそうだ。


 そして中国も、さっそく日韓GSOMIA締結に反発している。これが「地域の安定を損なう」というのである。
 少し前に「核の傘」に関して書いた記事とも関わってくるが、中国は彼らの「核抑止」理論に基づいて、核抑止体制を崩すものとして、日米韓が進めるミサイル防衛に強く反発している。ゆえに、先日アメリカが韓国へのTHAAD配備を決定したことも、批判している。
 これが単に文句をいうだけなら別にいいのだが、残念ながらそういうわけにもいかない。なぜなら、北朝鮮問題の鍵を握っているのは中国だからだ。
 北朝鮮の暴走を抑えるためには中国の力が必要だといわれるが、日米韓が協調してミサイル防衛を進めると、中国がそれに反発して対北包囲網の足並みが乱れるという問題がある。実際に、それがあるために北朝鮮に一致して圧力を加えるということができないという状況は現にあるのだ。日韓GSOMIAが、そういは、その足並みの乱れをさらに深刻なものにしかねない。そして、北朝鮮はその乱れをすかさずついてくるだろう。こういった点からしても、日米韓が軍事的な協力を深めることが日本にとってプラスであるとは思えない。むしろ安全保障環境をより悪化させるおそれさえあるのではないか。

フィデル・カストロ死す

2016-11-27 17:55:05 | 海外
 団結した人民に対しては、いかなる人間も勝つことができない
                                   ――フィデル・カストロ


 カストロが死んだ。
 1959年のキューバ革命からおよそ70年。じつに、90歳の大往生である。

 以前から健康不安がささやかれていたから、このことで特にキューバで混乱が起きるということはなさそうだ。むしろ問題なのは、カストロが晩年に関係改善を進めていた相手であるアメリカのほうだろう。

 トランプ氏が次期大統領に決定したことで、関係改善にむけて動いていたアメリカとキューバの動きが逆戻りするのではないかという懸念が出ている。

 実際、トランプ氏はカストロ死去の報に「残忍な独裁者が死去した」と述べ、オバマ大統領がキューバへのさまざまな制裁措置を緩和した大統領令を覆す可能性も示唆している。さすが、「壁を作るのは得意」と豪語するだけのことはあって、無闇に対立を作り出すことにかけては並ぶものない次期大統領だ。
 そのような対決的姿勢に逆戻りすれば、斜陽のアメリカにまた一つ不安要素がうまれることになるだろう。
 かつてキューバ革命のとき、アメリカは徹底的にこの新生社会主義国家に干渉したが、その結果、逆にキューバを完全に社会主義陣営に追いやる結果になり、それがキューバ危機にもつながった。その歴史の教訓に鑑みれば、対立の先にはアメリカにとっても不利益な結果しかないのはあきらかなのである。

 トランプ氏は、キューバを残虐な独裁国家と認識しているのかもしれないが、そのキューバにあるグアンタナモ基地でアメリカは何をしてきたのか。
 キューバを“保護領”化する過程で奪い取ったこの基地で、アメリカは世界各地で捕まえた“適性戦闘員”を拘束し、ろくな裁判も受けさせず虐待を行ってきた。グアンタナモ以外にも、アブグレイブやバグラムのことを考えれば、アメリカにキューバを独裁国家呼ばわりする資格はないのである。

 ……とトランプ次期大統領の話をしていても気分が悪くなるだけなので、ここで話をカストロに戻す。
 20世紀の初頭にアメリカの“保護領”となったキューバでは、外国資本と大地主による搾取、そしてそれと結託したバティスタ独裁体制が国民を苦しめていた。
 そこに現れたのが、フィデル・カストロである。弁護士であったカストロは、革命家チェ・ゲバラとともに、バティスタ体制打倒のための闘争を開始する。わずか135人ではじまった戦いは、5年ほどでキューバ全土に拡大し、バティスタ打倒に成功したのだった。
 この闘争の過程でカストロが民衆を鼓舞するために語ったのが、冒頭に引用したフレーズである。
団結した人民に対しては、いかなる人間も勝つことができない――重みのある言葉だ。もちろん革命後のキューバの社会主義体制にはほめられない部分もいくつもあったろうが、ひどい独裁体制がその前にあったということも忘れてはいけない。それを武装闘争で倒さなければならない状況があってのキューバ革命であり、だからこそカストロは革命家として名を馳せてきたのである。