不登校の息子とビョーキの母

不登校の息子との現在、統合失調症の母との過去

友達が牙をむいた(3)

2018-01-31 10:37:38 | 日記
私が疑わしそうな顔をしているのを見て、ショウタ君はとりつくろうような笑いを浮かべながら帰っていきました。
私はホッとしました。
息子のお金を取ったのは、やっぱりショウタ君だったんだ……。

ところが、しばらくするとショウタ君は、今度はユウトを連れてやってきました。

今度はユウト君があの変なニヤニヤ笑いを浮かべながら
「B君いますか?」
と猫なで声で聞くのです。

「さっき寝てたんだけど……」

私はユウト君にはどんな態度を取っていいのかよく分からずに口ごもって、
とりあえず息子の部屋に様子を見に行きました。息子はもう起きていました。

「ユウト君とショウタ君、来たけど」

「ああ」
息子はこともなげにうなずきます。

(家に上げていいのかな?)
私は心配になって、
「外で遊ぶ?」
と聞きました。

「うん」
息子は気負った様子もなく立ち上がりました。

ところが玄関へ向かうと、
「お邪魔しまーす」
と言いながら二人がもう上がり込んできました。

それは珍しいことではなかったのです。ユウト君はいつも自分の家のように我が家に出入りしていたのですから。
そのユウト君が連れてきたので、ショウタ君も最近は気軽にうちに上がり込んでいました。

「今日は外で遊べば?」
私はおずおずと言いましたが、
「まあまあ、まあまあ」
二人はへらへら笑いながら、戸惑う息子の背中を押すようにして息子の部屋へ入っていきました。

しばらくして二人が笑い合いながら出ていくと、息子が私のところに一万円札を持ってきて差し出しました。

「どうしたの、これ。あの子たちが返してきたの?」
と聞きましたが、息子は何も答えませんでした。

(やっぱり、ユウト君もグルだったんだ!)

とてもショックでした。
学校に行けなくなった息子は、もうユウト君にとっては仲間ではなく、見下していい存在だったのです。

かばってくれる仲間ももういない息子をどんなに踏みにじっても、それは愉快な武勇伝にしかならないのでしょうか。
それとも、不登校児と遊んでやるのだからお金をもらうくらい当然だ、ありがたく思えとでも言うのでしょうか。
親同士も知っている家でお金を盗んでいっても、大目に見られると思うほど……。

息子の傷をえぐるのが怖くて、また私自身も深く傷付いて、私は息子にそれ以上何も聞けませんでした。


友達が牙をむいた(2)

2018-01-23 09:42:48 | 日記
「なくしたお金はお母さんがあげるよ」

お金がなくてイベントにも行けないのではあまりに息子が不憫で、私は1万円をあげました。
けれどイベントの当日、息子は「起こしてね」と言った時間に
いくら起こしても起きられませんでした。

学校に行かなければならない時間に、どうしても起きられなかったように……。

それでも私はユウト君を信じていました。

ユウト君が息子のお金を取るはずがない。

ユウト君は息子が一番気を許していた友達でした。
すぐ近くに住んでいるので、小さな頃から知っていて、小学校に入ってからは毎日同じ通学班で学校に通いました。

小学生の頃は毎日のように近くの公園やお互いの家で遊んでいましたが、
中学に入ってからはそれぞれ部活があるので放課後遊ぶことはほとんどなくなりました。
ユウト君の入ったテニス部は朝練があるので、通学も別々になりましたが、相変わらず仲は良かったようです。

1年の時は同じクラスで、2年になってからもテスト期間など朝練のない日は一緒に通学していました。
親御さんとも地域のつながりでよく知っている仲でした。

(ショウタ君と二人で来た時にお金がなくなると言っていた。こんなことをするのはショウタ君では?)

人当たりのいいユウト君と違って、ショウタ君はやんちゃなところのある子です。
近所に住んでいますが、息子が不登校になるまで家に遊びに来たことはなく、最近になってユウト君が連れてきた子でした。

次の日の放課後、ショウタ君が珍しく一人で遊びに来ました。

「B君、いますか」

「今、寝てるので」
私はわざと丁寧な口調で言いました。

不登校の友達の家を親切にわざわざ訪ねてきてやったというように満面の笑みを浮かべているショウタ君の顔を、
私は黙ってじろじろ見つめました。

やましいところがあるなら、疑われているということがこれで十分伝わるはずだ。

これで来なくなるようならショウタ君が犯人だったのだろうし、
これ以上の被害がなければ盗まれたお金のことは諦めようと思いました。

友達が牙をむいた

2018-01-16 08:23:19 | 日記
数日後、ユウト君は何事もなかったかのように、先生に頼まれたと言ってプリントを持って来ました。

「すみませんね、僕もここんとこ忙しくて」

変わらない彼の笑顔を見て、私はホッとしました。
数日来なかっただけで、私はすっかり息子が友達に見放されたと思い込むとは。
つくづく自分の心の弱さを思い知りました。

学年が変わると、新しい担任の指示なのか、他の友達も入れ代わり立ち代わり来るようになりました。
時には友達同士がブッキングするほどでした。
息子は中学校にはもう行く気はないけれど、進学はしたいと言っていました。

中学校に誘う努力が無駄になればなるほど、ユウト君は面白くないでしょうし、
息子との関係は気まずくなっていくでしょう。

私は担任に、もう友達に家に来るよう頼まないでほしいと伝えました。
ユウト君が来たければ来てもいいし、無理して来てもらって関係を悪くしたくなかったのです。

私の心配をよそに、それからも頻繁に友達は遊びに来ました。
先生の指示で来ているとは限らないし、ぱったり友達が来なくなるというのもそれはそれで心配なので、
重ねて担任に言うのもためらわれ、様子を見ているしかありませんでした。

「お母さん、お金がなくなった」

3年生の6月頃だったと思います。
部屋でオオタ君という友達と遊んでいた息子が、階下で仕事をしていた私の所へ来てそう言いました。

オオタ君が帰ってから私も一緒に息子の部屋を探しましたが、見つかりません。
「お金はどこに入れてたの」
「この貯金箱」
と息子が示したのは、乾パンの入っていた缶で、誰でも簡単にフタが取り外せるようになっていました。

「一体いくらなくなったの?」
と聞くと、
「一万」
と言うではありませんか。

「えっ、そんなに?」
「明日ユウト君たちと東方のイベントに行こうと思って準備しといたのに」
友達も好きな同人誌のイベントに行くつもりだったようです。

「お金は今日なくなったの?」
「わかんないけど、昨日ユウト君に見せた時はあった」

まさか今日来たオオタ君が?イヤな疑念が頭をよぎった時、
「ユウト君とショウタ君が二人で来た後に限って、金がなくなってるんだよな……」
息子が首をひねりながら言いました。

「えっ、今までにもなくなったの?」
「うん。この前みんなが来てた時、五百円玉がなくなったって、言ったじゃん。
あの後も二人が来てた時、二千円なくなった」

顔から血の気が引いていくようでした。

不登校の息子と友達とのトラブル(2)

2018-01-10 07:59:45 | 日記
11月半ばから冬休みが明けるまで、ユウト君は文字通り毎日のように来てくれました。

冬休み中は、朝早くから我が家に入りびたり。
大晦日は他の友達2人と、近くの山にご来光を拝むと言って出かけました。

しばらくぶりに遊びに来てくれた彼を見た時は拝みたいほどありがたかったのですが、
あまりに来るので負担でもあり、心配にもなってきました。

「部活休んで来たんじゃない?Bは勝手に休んでるんだから、あなたは自分の生活を大事にして」
と言っても毎日来ます。
大好きな友達と毎日会えて、息子もとても元気になりました。

当時読みあさっていた本の中には、「いいタイミングで背中を押してやることも大事」とよく書かれていました。
今がその時かもしれない。3学期が始まる前日、私は思い切って息子に言いました。

「明日から学校に行けば?これ以上休むと勉強も分からなくなるし、よけいに行きづらくなるんじゃない?」

けれど結局3学期にも息子は学校へ行かず、ユウト君もぱったり来なくなってしまいました。
これだけ励ましてもダメなら、もう学校に誘っても無駄だと思ったのでしょうか。

ユウト君が来なくなって数日たった晩、私は家の前に止めてある車の中で一人で泣きました。
泣いている姿を子供たちに見られたくなかったのです。

友達にも見捨てられたと思ったら、もう息子は学校へ行けないと思いました。
あんなに毎日来ていなければ、少しくらい来なくても見捨てられたと思わずに済んだのにと、
ユウト君を逆恨みもしました。

ユウト君は、息子が学校に行かないので、面目がつぶれたのかもしれない。
ちょっと調子のいい子だから、もしかしたら担任に、
「僕が学校に来させてみせますよ」ぐらいの大風呂敷は広げたのかもしれません。

夜遅く帰ってきた夫が車の中にいる私に気づいて、ドライブに連れ出してくれました。
あてどなく一時間も走ったでしょうか。私の涙はなかなか止まりませんでした。

見捨てられたと感じたのは私でした。ほんの少し息子が傷つくことも、その時の私には恐怖だったのです。
少しでも傷つけたら、また学校への復帰が遅れると、気ばかり焦っていました。

実のところ息子は少しがっかりしたようではありましたが、ユウト君が来ないからと言って、
私のようにわあわあ泣いたりはしませんでした。

不登校の息子と友達とのトラブル(1)

2018-01-02 14:28:18 | 日記
不登校の息子のところにユウト君が頻繁に遊びに来るようになったのは、
息子が昼夜逆転から立ち直り、元気を取り戻し始めた11月半ば頃からだと思います。

「『俺、遊びに行っちゃだめなの?』って、ユウト君が言ってますよ」

そう担任から言われたのは、二学期の三者面談でのことでした。
三者面談といっても息子は学校に来ることを拒否していて、私だけが行ったのですが。

「悪いとは思ってるんです。プリントを持ってきてくれてたのに断っちゃって、
それっきりだったので……」

「彼、寂しいんだと思うんですよね」

担任はいかにも思いやりのある教師のように言いました。

「今度、ユウト君に、遊びに行くよう頼んでみてもいいですか」

私は迷いました。

前にも書いたように、息子が昼夜逆転に陥ったきっかけは、
ユウト君が近所の子と息子の噂をしていたのを聞いてしまったからです。
担任にも、息子が友達に会いたがらないということは伝えてありました。

「そうですね、友達の力を借りたいのは、山々なんですが……」

「お母さんも、猫の手もつかみたい気持ちでしょうね。分かります」

いや、つかみたいのはワラだけど。

この担任はいまいち信用できないのです。

息子が休んでから一カ月の間に電話を一度くれただけだったし、
一学期にも息子と小さなトラブルがありました。
厳しくて宿題も多いので、息子も、一学年上の娘も嫌っています。

夏休み前の保護者会では、一年の時から休んでいるS君を引き合いに出して、

「うちのクラスはS君の影響でお休みする子が増えてますが……」
と言ったと、あとでママ友から聞いたS君のお母さんが怒っていました。
まるで自分に責任はないと言わんばかりの言い方です。
不登校が病気みたいにうつるとでも言うのでしょうか。

それはともかくユウト君は、息子が何カ月も学校に戻らないので
心配になってきたのかもしれない。
やっぱりいい子なんだ、突然学校に来なくなった子のことを
友達と噂するのは普通だし、ユウト君には悪気はないのだと思いました。

息子もやっと昼夜逆転が直って元気を取り戻していた時だったので、
私も友達の力に賭けてみたいと思い、今なら友達に会えそうだと担任に伝えました。