仕事の帰り際、パート仲間のヨシカワさんに呼び止められました。
「このあと、ちょっと時間いい?」
定時が7時のところ、その日は残業してもう8時でした。
家族の夕飯は温めるばかりにして用意してきたものの、私もお腹がペコペコです。
一刻も早く帰りたかったのですが、
「いいですよ」
と言いました。よほど大事な話があるのだろうと思ったのです。
もしかしたら、ヨシカワさんも辞めるのかもしれない。
梱包システムの導入により、このところ立て続けに何人もが辞めていました。
ヨシカワさんは50代前半くらいに見えますが、実のところはもっと行っているはずです。
「派遣会社に口止めされてるから」と言って誰にも教えないところを見ると、
もしかすると60以上なのかもしれません。リストラの対象になってもおかしくないのです。
明るくて人当たりのいいヨシカワさんが私は好きでした。
ひと気のなくなった食堂で差し向いに座ると、
ヨシカワさんはニコニコしながらチョコパンを取り出しました。
「半分食べない?お腹すいちゃったでしょう」
「あ、ありがとうございます」
残ったチョコパンを口に運びながら、ヨシカワさんはこう切り出しました。
「カドタさんから、何か聞いた?」
「えっ、何をですか?」
もしかして、辞めるのはヨシカワさんではなくカドタさんなのでしょうか。
「何も聞いてない?ほら、Nさんってカドタさんと親しいみたいだから……」
確かに朝礼の時などに私がよく言葉を交わすのはカドタさんです。
「いえ、親しいと言ってもプライベートの話はあんまり……」
「あら、そうなの」
ヨシカワさんはホッとしたように一人でうなずき、こう続けました。
「実はこの前みんなでお昼を食べてた時、私が何の気なしにこう言ったのよ。
『カドタさんって、タバコも吸わないのになんで5階でお昼食べてるのかしら』って」
食堂は2階と5階にあるのですが、5階のほうには喫煙所があるのです。
ちなみに私たち梱包のセクションは3階なのですが、
このところ棚の入れ替えで毎日のように2階に駆り出されているので、2階でお昼を食べる人が多いのです。
ただ5階のほうは事務的にずらりと平机が並んでいる2階と違い、
ソファ席でおしゃれな雰囲気になっています。
タバコを吸わない私はほとんど行ったことがありませんが、ゆったりくつろぎたくて行く人もいるでしょう。
それがどうかしたのでしょうか。
「それをハシグチさんがカドタさんに言ったのよ。なんで5階で食べるのかしらって私が言ってたよって」
「はあ」
「そうしたらカドタさんが何て言ったと思う?『何それ悪口?』って答えたの!」
ヨシカワさんはこちらにぐいと身を乗り出しました。
「このあと、ちょっと時間いい?」
定時が7時のところ、その日は残業してもう8時でした。
家族の夕飯は温めるばかりにして用意してきたものの、私もお腹がペコペコです。
一刻も早く帰りたかったのですが、
「いいですよ」
と言いました。よほど大事な話があるのだろうと思ったのです。
もしかしたら、ヨシカワさんも辞めるのかもしれない。
梱包システムの導入により、このところ立て続けに何人もが辞めていました。
ヨシカワさんは50代前半くらいに見えますが、実のところはもっと行っているはずです。
「派遣会社に口止めされてるから」と言って誰にも教えないところを見ると、
もしかすると60以上なのかもしれません。リストラの対象になってもおかしくないのです。
明るくて人当たりのいいヨシカワさんが私は好きでした。
ひと気のなくなった食堂で差し向いに座ると、
ヨシカワさんはニコニコしながらチョコパンを取り出しました。
「半分食べない?お腹すいちゃったでしょう」
「あ、ありがとうございます」
残ったチョコパンを口に運びながら、ヨシカワさんはこう切り出しました。
「カドタさんから、何か聞いた?」
「えっ、何をですか?」
もしかして、辞めるのはヨシカワさんではなくカドタさんなのでしょうか。
「何も聞いてない?ほら、Nさんってカドタさんと親しいみたいだから……」
確かに朝礼の時などに私がよく言葉を交わすのはカドタさんです。
「いえ、親しいと言ってもプライベートの話はあんまり……」
「あら、そうなの」
ヨシカワさんはホッとしたように一人でうなずき、こう続けました。
「実はこの前みんなでお昼を食べてた時、私が何の気なしにこう言ったのよ。
『カドタさんって、タバコも吸わないのになんで5階でお昼食べてるのかしら』って」
食堂は2階と5階にあるのですが、5階のほうには喫煙所があるのです。
ちなみに私たち梱包のセクションは3階なのですが、
このところ棚の入れ替えで毎日のように2階に駆り出されているので、2階でお昼を食べる人が多いのです。
ただ5階のほうは事務的にずらりと平机が並んでいる2階と違い、
ソファ席でおしゃれな雰囲気になっています。
タバコを吸わない私はほとんど行ったことがありませんが、ゆったりくつろぎたくて行く人もいるでしょう。
それがどうかしたのでしょうか。
「それをハシグチさんがカドタさんに言ったのよ。なんで5階で食べるのかしらって私が言ってたよって」
「はあ」
「そうしたらカドタさんが何て言ったと思う?『何それ悪口?』って答えたの!」
ヨシカワさんはこちらにぐいと身を乗り出しました。