不登校の息子とビョーキの母

不登校の息子との現在、統合失調症の母との過去

職場はイジメの温床です

2018-10-30 16:52:58 | 日記
仕事の帰り際、パート仲間のヨシカワさんに呼び止められました。
「このあと、ちょっと時間いい?」

定時が7時のところ、その日は残業してもう8時でした。
家族の夕飯は温めるばかりにして用意してきたものの、私もお腹がペコペコです。
一刻も早く帰りたかったのですが、
「いいですよ」
と言いました。よほど大事な話があるのだろうと思ったのです。

もしかしたら、ヨシカワさんも辞めるのかもしれない。
梱包システムの導入により、このところ立て続けに何人もが辞めていました。

ヨシカワさんは50代前半くらいに見えますが、実のところはもっと行っているはずです。
「派遣会社に口止めされてるから」と言って誰にも教えないところを見ると、
もしかすると60以上なのかもしれません。リストラの対象になってもおかしくないのです。

明るくて人当たりのいいヨシカワさんが私は好きでした。

ひと気のなくなった食堂で差し向いに座ると、
ヨシカワさんはニコニコしながらチョコパンを取り出しました。

「半分食べない?お腹すいちゃったでしょう」
「あ、ありがとうございます」

残ったチョコパンを口に運びながら、ヨシカワさんはこう切り出しました。
「カドタさんから、何か聞いた?」

「えっ、何をですか?」
もしかして、辞めるのはヨシカワさんではなくカドタさんなのでしょうか。

「何も聞いてない?ほら、Nさんってカドタさんと親しいみたいだから……」

確かに朝礼の時などに私がよく言葉を交わすのはカドタさんです。

「いえ、親しいと言ってもプライベートの話はあんまり……」

「あら、そうなの」
ヨシカワさんはホッとしたように一人でうなずき、こう続けました。

「実はこの前みんなでお昼を食べてた時、私が何の気なしにこう言ったのよ。
『カドタさんって、タバコも吸わないのになんで5階でお昼食べてるのかしら』って」

食堂は2階と5階にあるのですが、5階のほうには喫煙所があるのです。
ちなみに私たち梱包のセクションは3階なのですが、
このところ棚の入れ替えで毎日のように2階に駆り出されているので、2階でお昼を食べる人が多いのです。

ただ5階のほうは事務的にずらりと平机が並んでいる2階と違い、
ソファ席でおしゃれな雰囲気になっています。
タバコを吸わない私はほとんど行ったことがありませんが、ゆったりくつろぎたくて行く人もいるでしょう。

それがどうかしたのでしょうか。

「それをハシグチさんがカドタさんに言ったのよ。なんで5階で食べるのかしらって私が言ってたよって」
「はあ」
「そうしたらカドタさんが何て言ったと思う?『何それ悪口?』って答えたの!」

ヨシカワさんはこちらにぐいと身を乗り出しました。

働いたら負けなのか

2018-10-23 11:05:23 | 日記
不登校の息子がよく言っていた言葉に、『働いたら負け』というのがあります。
あるニートの人がテレビのインタビューで言った言葉らしいです。

ちなみに高3の今はめっきり口にしなくなりました。
センター試験にも出願しなかったし、就職活動をしているわけでもないようですが、
将来どうする気なのか知りたいものです。

私が一切口出ししなくなったので、言い訳する必要もなくなったということでしょうか……。

ただ『働いたら負け』という言葉には、一理あると思います。

もちろん息子に働いてほしくないということではなく、人並みに就職してほしいし、
それが無理でもバイトくらいしてほしいです。

ただそれはあくまで世間体がいいからであって、働いたほうが幸せだとか、
働く人が「勝ち組」だと信じるからではありません。

私が心の一方で「働いたら負け」という言葉にうなずけるのは、
今の社会が「頑張れば頑張るほど搾取される社会」だと感じているからです。

パート先の倉庫で、梱包部門の私たちは、ピッキングや棚移動の部署へと毎日たらいまわしにされています。
手作業だった梱包に機械が導入されて、人手が大幅に余っているのです。

私たちはどうでもいい暇な仕事をさせられて時間を持て余しているのに、ピッキングの現場では
「残業にご協力をお願いします」とリーダーがメガホン片手に声をからしています。
仕事があるならやらせてくれればいいのに……。

いい年をしたオバサンたちを再教育して働かせるより、
すでに仕事を習得している人を残業させたほうが効率がいいとの考えなのでしょう。

同じ給料をもらうのが申し訳ないような簡単な仕事もさせられますが、
だからといって「得をした!」と喜ぶ気分には全然なれず、
自分が無用の人間になったような物寂しさを感じるばかりです。

邪魔者扱いに耐えかねて自分から辞めた人もいます。

一時間に何個梱包できたかの実績が毎週貼り出され、職場の雰囲気はぎすぎすしています。

生産性がいい人の胸中はどうでしょうか。自尊心が満たされると同時に、
「私ばっかり必死に働いて、暇そうにしてるオバサンたちと同じ給料って、どういうわけ?」
と思っているのではないでしょうか。

生産性の低い労働者を締め出しているのは、生産性の高い人たちなのです。
皮肉なことにそれが自分たちを過労に追い込んでいるとも気づかずに……いいえ、気づいてはいても、
リストラ候補に回されるのが怖くて手を抜けないというのが本音かもしれません。

もしかしたら息子は、
「このまま社会に出たら俺も否応なく『無用の者』に分類されてしまう。そんなのイヤだ!」
と、怯えているのかもしれません。

不登校の息子は現代の貴族です

2018-10-16 10:27:07 | 日記
私が1カ月ほど前に働き始めたばかりの物流倉庫で、今リストラの嵐が吹き荒れています。

製函機(箱を組み立てる機械)を担当しているギンさんに昨日現場で会ったら、
「あたし、クビだって。自分から言ったんじゃないよ、会社から言われた」
と悔しそうに言っていました。

ギンさんは61歳です。年齢も高いほうだし、製函機は「仕事ができない人が行くところ」という噂もあるので、
「やっぱり……」という思いもありましたが、やはり衝撃でした。
小さくてかわいいおばあちゃんで、私はギンさんが好きだったのです。

私がバイトを始める少し前に、梱包部門にGASというシステムが導入されました。

簡単に言えば梱包する荷物の量に応じて大雑把に箱の大きさが決まり、
機械の指示に従って商品を仕分けていくと、一度に10個とか20個の梱包ができるシステムです。

それまでは荷物の大きさと量を見て、人間が箱を選んで組み立て、一つ一つ詰めて発送していたのです。

このシステムの導入により、熟練した技術者が育ってくれば、
以前は1時間に10個程度しかできなかった梱包が60個もできるようになるというのです。

生産性が上がれば、人が余るのは当然の成り行きです。
既に何人もが退職を言い渡されたり、閑職に追いやられるなどの仕打ちに耐え切れず自ら辞めていきました。
私も『明日は我が身』と、不安な日々を送っています。

国は「60になっても70になっても働け、男も女も働け」と掛け声だけは厳しいですが、
実際には生産性の低い人間は職場を追い出され、高齢になればなるほど再就職は難しいのが現状です。

どうせえっちゅうねん。

そもそも機械化が進むということは、「機械に仕事を任せて豊かな暮らしを享受したい」という夢を
かなえるのが目的だったはずなのに、なぜこんなに「機械に仕事を奪られる!」と
戦々恐々としなければならないのでしょう。

学校にも行かず、好きなゲームやプログラミングばかりしている息子を見ると、
貴族とはこのようなものではないかと思えてきます。

私のような凡人は、三カ月も仕事がないと焦燥でいてもたってもいられなくなります。
とても貴族にはなれそうにありません。

ヒキコモリ主婦、バイトへ

2018-10-09 10:45:35 | 日記
ついつい息子に余計な一言を物申したくなってしまう自分の鬱屈した気持ちを昇華すべく、
ついでに娘の学費も稼ぐべくバイトを始めることにしました。

何を隠そう私はヒキコモリです。

全然出かけられないというわけではなく、買い物や銀行はもちろん、子供が小さい頃は行事の付き添いや子供会の当番、
自治会の仕事、時にはお友達の家にも付き添って遊びに行きました。

ですがそういう付き合いが私にとってかなり負担だったことは事実です。

2人の子供を中学校に入れて、やっと子供会から解放されたかと思いきや、
今度は息子の不登校で学校や相談機関へとまた足しげく通わなければならない羽目になりました。

そういう気の重いお出かけに比べれば、バイトのほうがまだマシです。運動にもなってお金も稼げる。
長年の座業で肩こりや便秘、膝の痛みに悩まされていたため、体を動かす仕事をしたい気持ちもありました。
なにせ世の中には、お金を払って運動する人さえ大勢いるのですから……。

そもそも自分がヒキコモリでは、息子に「外に出ろ」と言っても説得力がありません。

もう学校に行ってほしいとは思いませんが、せめて買い物くらいは自分で行けるようになってほしいのです。
座りっぱなしの生活が死を招くと言いますし……。

それまでも私は働いていなかったわけではありません。
子供が生まれてしばらくは家事と育児に専念していましたが、ここ10年は在宅で字幕翻訳の仕事を請け負っていました。

翻訳というのはヒキコモリにはうってつけの仕事です。

例えば翻訳の仕事を始めた時からお世話になっているコーディネーターさんがいるのですが、
私とは10年間一度も顔を合わせたことがありません。
電話も最初の頃に数度したきりで、お仕事の依頼から納品まですべてメールで成立してしまいます。

息子も将来はそういう在宅の仕事を見つければいいんじゃないかと思います。

翻訳は語学をマスターしなければ無理なので、ためしに日本語字幕の仕事を手伝わせてみたことがありましたが、
あまり性に合わないみたいですぐ投げ出してしまいました。

そのかわり息子はプログラミングやゲームに興味があるので、
そういう方面で仕事を見つけられたらいいんじゃないかと思っています。

私はその方面には何の知識もつてもないので、完全に本人次第というところですが。

最低限の生活費が国民全員に支給されるというベーシックインカムの導入もささやかれている昨今ですから、
ヒキコモリとはいえ決して未来は暗くはないと信じつつ……いいえ、祈りつつ、
母は老体に鞭打って肉体労働にいそしんでいます。

母ってつらい。


不登校の息子との会話

2018-10-02 10:33:32 | 日記
息子と長い時間一緒にいると、お互い話題が尽きてきます。

ただでさえ高3の息子と母親の間で、それほど会話が弾むわけもありません。

長いこと心を閉ざしていた息子でしたが、今は落ち着いて居間で家族と過ごす時間が増えました。
せっかくだから楽しい時間を過ごさせてやりたいのに、残念ながら私も息子と同じコミュ障。
コミュ障同士の間を持たせてくれる最強のツールは、何と言ってもテレビとペットです。

私「今日は、シロ(猫の名)が白いね……」
息子「そうだね……」

もちろん昨日も明日もシロは白いわけですが、不登校の息子には学校の話もタブー、将来の話もタブー。
倦怠期の夫婦のように猫のことくらいしか話題がありません。

それからテレビ。
先日、2人でテレビを眺めていたら、ひき逃げ事件の実録が放映されました。

テレビ「犯人は被害者をはねたあと、400メートルも直進してからUターンして現場に戻りました。
その間に後続のトラックにはねられて被害者は死亡。法律では、人をはねた場合、
運転手は直ちに安全な場所に停止して被害者を救護する義務があり……」

息子「すぐ停まってれば、助かったかもしれないのに」
私「一瞬、頭が真っ白になっちゃったんだろうね」
息子「そういう人は、運転なんかしちゃダメなんだよ」
私「でも分かんないな、私でもパニクっちゃって、すぐ冷静に停車できないかも」
息子「ちゃんと覚悟のない人は、免許なんか取るべきじゃないよ」

自分のことを批判されたようで、私はついカチンと来ました。
私に免許がなかったら、どうするの。病院へ行く時も、たまに登校する時も、私の送り迎えで行くくせに。

「もし本当に悪い人だったら、そのまま逃げたはずだよ。一瞬気持ちが動転したことをそんなに責められる?
あなたは何の覚悟もないから、何にもしない」

息子は口をつぐみ、ふいっと自分の部屋に戻っていってしまいました。

しまった。久々にまた、地雷を踏んでしまった。

こういうことをぽろっと言ってしまうのは、やっぱり今でも私の心の中に、学校には行かなくてもいいから
免許を取るなり仕事をするなり、息子に活動してほしいという期待が潜んでいるからなのでしょう。

それに比べてペットの話は無難です。

シロは私がベランダに洗濯物を干しに行くと一緒についてきてしまうのですが、一緒に部屋に戻るとは限りません。
ベランダに敷き詰めてあるすのこで爪を研いだり、日向ぼっこをしたりして楽しんでいます。

幸せそうなのでそのまま放っておくと、入りたくなった時にニャアニャア鳴いて呼ぶのです。

息子「お母さんに閉め出されたニャン!って言ってるよ」
私「自分で出たがったくせに……((笑))」

我が家の末っ子のようなシロの前では、息子の心もほぐれるようです。
不登校児に限らず、難しい年ごろの子供との会話に詰まった方は、ペットをネタにしてみてはいかがでしょうか。