「どう、元気?」
話題が見つからなくて間の抜けた質問をすると、
「元気よ。Nちゃんは?」
母は相変わらず、にこにこと私の顔を見ながらながら答えました。
「元気」
ふと見ると、部屋の隅に、薬の袋が山と積まれています。
「ね、もらった薬、飲んでんの?」
「え、飲んでるよ」
「じゃ、それは? 余ってるの?」
「うん、だってすごく沢山くれるんだもん」
母は、自分のせいではないというように口をとがらせます。
「くれたらくれただけ、全部飲むんじゃないの?日数分もらってるんでしょ」
「なんか、余計にくれてるみたいよ」
そんなはずはありません。母は時々こんなふうに、ぬけぬけと人をだますことがあるから要注意です。
「朝、昼、晩と、決まった時間に食事しないから忘れちゃうんだよ」
非難がましく言うと、
「うーん……でも、薬飲むと、頭がボーっとしちゃうのよね……眠くなっちゃうの」
と母。やはりわざと飲まないようにしているようです。語るに落ちるとはこのことです。
「飲まないと治んないよ」
「病気じゃないんだよ、お母さん」
本人がそう思っているところが病気なのです。
「耳が痛くなっちゃうよ、また」
「耳が? なんで、お母さんそんなこと言ったっけ?」
最初に発病したとき、母は、『耳が電波でひっぱられて痛い』と、しきりに訴えていたのですが、
もう覚えていないようです。
「前、さんざん耳が痛いって騒いでたじゃん。先生に言ったの?薬飲むと眠くなって困るとか」
「言わない」
母はけろりと答えます。
「言ったほうがいいよ。先生は聞かないの、調子はどうですかとか」
「聞くよ。聞くから、『まあまあです』って言うと、『そうですか』って……」
なんか、頼りない先生だなあ。
その時母が急に眉根を寄せて、何かに耳をすませているような表情になりました。
――『ヒデノリ』か、また……。
私はため息をつきました。
話題が見つからなくて間の抜けた質問をすると、
「元気よ。Nちゃんは?」
母は相変わらず、にこにこと私の顔を見ながらながら答えました。
「元気」
ふと見ると、部屋の隅に、薬の袋が山と積まれています。
「ね、もらった薬、飲んでんの?」
「え、飲んでるよ」
「じゃ、それは? 余ってるの?」
「うん、だってすごく沢山くれるんだもん」
母は、自分のせいではないというように口をとがらせます。
「くれたらくれただけ、全部飲むんじゃないの?日数分もらってるんでしょ」
「なんか、余計にくれてるみたいよ」
そんなはずはありません。母は時々こんなふうに、ぬけぬけと人をだますことがあるから要注意です。
「朝、昼、晩と、決まった時間に食事しないから忘れちゃうんだよ」
非難がましく言うと、
「うーん……でも、薬飲むと、頭がボーっとしちゃうのよね……眠くなっちゃうの」
と母。やはりわざと飲まないようにしているようです。語るに落ちるとはこのことです。
「飲まないと治んないよ」
「病気じゃないんだよ、お母さん」
本人がそう思っているところが病気なのです。
「耳が痛くなっちゃうよ、また」
「耳が? なんで、お母さんそんなこと言ったっけ?」
最初に発病したとき、母は、『耳が電波でひっぱられて痛い』と、しきりに訴えていたのですが、
もう覚えていないようです。
「前、さんざん耳が痛いって騒いでたじゃん。先生に言ったの?薬飲むと眠くなって困るとか」
「言わない」
母はけろりと答えます。
「言ったほうがいいよ。先生は聞かないの、調子はどうですかとか」
「聞くよ。聞くから、『まあまあです』って言うと、『そうですか』って……」
なんか、頼りない先生だなあ。
その時母が急に眉根を寄せて、何かに耳をすませているような表情になりました。
――『ヒデノリ』か、また……。
私はため息をつきました。