不登校の息子とビョーキの母

不登校の息子との現在、統合失調症の母との過去

義母が突然キレました(1)

2018-07-25 14:36:01 | 日記
義母からスイカが送られてきてしまいました。私はあわてて夫にラインを送りました。

――おばあちゃんからスイカ
――了解。後でお礼しときます

早くお礼を言わないと、義母のほうから電話がかかってきてしまいます。
私は義母が怖いので、夫から電話を入れておいてほしいのです。

この前義母のことを“いい人”だと書きましたが、私は現在義母と付き合いがありません。
義母が突然キレたからです。
流行のアドラー先生の教えに、もろ手を挙げて賛成は致しかねる私ですが、
「目的があるから人は怒る」という指摘には、思わず膝を打ちました。

以前は年末年始はもちろん子供の春休み、夏休み、そのほか普通の週末でも、
暇を見つけては家族で義母の家に遊びに行っていました。

あれは忘れもしない、息子が学校に行かなくなる前のお正月でした。

大晦日から義母の家に遊びに来ていた私たちは、2日の晩に私の姉夫婦とホテルのビュッフェに行きました。
私たちの家は都心から遠いので、義母の家に泊まるついでに
東京での親戚付き合いを済ませてしまうことにしていました。

「遅くなるから、先に寝ててくださいね」
と出がけにも言い、最寄り駅に帰り着いた時にも夫が
「先に寝てね」
と電話を入れたのに、帰ると義母は起きていました。

中1にもなって私と一緒に寝る息子が、
「お母さん、眠い」
とせかすので、私は先に2階に上がらせてもらうことにしました。

「あら、シロがオシッコしたよ」
と義母が言いました。

シロはうちの飼い猫で、泊りがけの旅行なので連れてきたのです。
普段息子が寝る時間を過ぎていたので、私はリビングで飲み直している夫に
「シロがオシッコしたよ」
と言いました。

夫は聞こえなかったのか、返事をしません。
オシッコをしたと言ってもちゃんと猫トイレにしたので、
(一度息子を寝かせてから、戻ってきて片付ければいいか)
と思い、私はそのまま2階に向かいました。

布団に入り、息子がすやすやと寝息を立て始めた頃、階下から義母のすごい怒鳴り声が聞こえてきました。

「あれじゃ、駄目だよ」

何事かと私は耳をそばだてました。

困ったママ友の何でも共有病

2018-07-18 10:21:34 | 日記
私がランチに行かなくなってからしばらく後、地元のスーパーでアキコさんに出くわしたことがありました。
会釈をして行きすぎようとしたのですが、彼女はあわてたように追いすがってきました。

「今、ちょうど相談員さんの所に行くところだったの。ここで手土産を買おうと思って……」

相談に行く?ちょうどって何だろう、と思って、彼女の申し訳なさそうな表情を見てはっと気がつきました。
私のことを相談する気だったんだ。

「不登校のお母さんと時々ランチをしてたんですが、急に来なくなっちゃったんです。
何が気に障ったのか……」

きっと相談員さんはこんなふうに答えるでしょう。

「世間には、人の好意を素直に受け取れない人もいるんですよ。
あなたはいいことをしたんですから、気にしないで」

そう言われたアキコさんは気を取り直して、また困っている人を見つけては世話を焼くでしょう。
彼女は本当にいい人です。そして、私は第三者から見れば、ひねくれ者ということになるのでしょう。

私はアキコさんを、面白いうわさ話の種を探して私の居場所に踏み込んできた人みたいに感じていました。
でもアキコさんにしてみれば、知り合いがランチをしているから参加したかっただけなのです。
もちろん好奇心もあるでしょうが、悪意がなかったことは確かです。
むしろ私の味方になってくれるつもりだったのでしょう。

私もアキコさんを傷つけていたのです。

(私がアキコさんを仲間はずれにしたわけじゃない。私が仲間から外れただけだ)

と思ってみても、私の心は痛みました。孤独はあまり気にならない私ですが、罪悪感はこたえるのです。

私は集団が苦手です。人数が増えるほど、会話に割り込むタイミングが難しくなり、
みんなの話を聞いているだけになってしまうのです。
フユミさんとスミコさんと私の3人ならストレスなく話ができたけれど、
人一倍おしゃべりなアキコさんが加わると、私はほとんどしゃべれなくなってしまいました。

一対一で付き合っていた時、アキコさんは大好きな友達でした。
ランチに加わるのではなく、個人的に時々話を聞いてくれるだけだったら、私はどんなに救われたでしょう。

強く、正しく、親切なアキコさん。
トラブルを抱えている人が、周囲の人々と問題を共有したがるとは限りません。
できれば噂の的になりたくないと思う人もいます。

私は私の苦しみを世間に実況中継してほしくなどないのです。

大勢の人に取り囲まれていることで幸福を感じる人間ばかりではありません。
私だって友達は欲しいですが、たくさんの人が関わってくるのはかえって負担です。

せっかくの善意なら、こちらの喜ぶ形で与えてほしい。

「善意なんだから、文句を言うな」と言われるかもしれませんが……。

親切なアキコさん

2018-07-11 09:04:07 | 日記
「はい、これ、昨日巣鴨の友達の所へ行ったお土産」

次のランチの時、アキコさんはみんなに1つずつストラップをくれました。
有名なアニメのキャラによく似ているけれども微妙にかわいくないストラップで、
私はたぶん一生つける機会のなさそうな物です。

それでも「善意なので」受け取らざるを得なくて、「ありがとう」と笑顔を浮かべざるを得ない。

彼女はよくこんなふうに小さなプレゼントをくれます。
不思議なことにこのプレゼントを1つ受け取ってしまうと、続けて差し出された善意も
断りにくくなってしまうのです。

これがアキコさんの『社交術』です。
もともと私がいたはずの場所を魔法のように自分のテリトリーに変えてしまって、
あっという間に座の中心人物になっている。

私はいつの間にかお客さんみたいに、みんなの楽しそうなおしゃべりを
聞いているしかなくなってしまいました。

「うちなんて、毎朝揉みあいよ。トシは学校行かないって言い張るし、
私は『ホントに行かないつもりなの?』って」

アキコさんを見ていると、確かに私は無力な母親だと思えてきます。
アキコさんもこんな私が歯がゆいようです。

トシ君は昔からきかん坊で、いじめられた子供の親から苦情が来ると
アキコさんがこぼしていたこともありました。

うちの息子とはいわば正反対。

同じように力ずくで学校に行かせたら、きっと息子は逃げ場を失って自殺したんじゃないでしょうか。
私がパソコンを禁止した時、手首を切って私の部屋の入口に“I want PC”と血文字で書いた息子です。
命をネタにゆすられては親は手も足も出ません。

うちの息子の扱いの難しさを無視して、熱意のない親みたいに言われても困ります。

そもそも「不登校なんて大したことじゃないのよ」というアキコさんの言葉が本音なら、
なぜ毎朝トシ君とバトルを繰り広げるのか分かりません。休ませればいいんじゃない?

「最初の保護者会の時に、さっそく同じクラスのお母さんたちと友達になっちゃったの。
ライン交換したのがひい、ふう、6人も」
「さすがはアキコさん、積極的ねえ」

「部活は決めたの?」
「担任の先生がサッカー部の担当で、熱心に誘ってくださってね……」

それから、名前もろくに知らない地域の人たちや、アキコさんとスミコさんの親戚のうわさ話。
「ねえ知ってる?Kさんが……」
「そういえばOさんとこのG君が……」

よその子の活躍を黙って聞いているだけのランチはとてもつらいものでした。

今まではスミコさんも同じ立場だったけれど、この春から週に5日高校に通い始めたとのこと。
いきなり一般の高校ではなく、不登校児のための高校ですが、週に5日行くのだからうちの息子とは大きな違いです。
これからはランチの話題の中心は高校生活の報告になるでしょう。

しかも話したいことがどれだけあるのか、いつまでたってもみんなのおしゃべりは終わらないのです。
お店のランチの時間が終わり、店員さんがさりげなくプレッシャーをかけてきてもかまわずに、
4時間近いランチが終わる頃には私はもうへとへとになっていました。

(もう、来るのはやめよう。私にとっては唯一の世間とのつながりだったけど、もう無理だ……)

私はがっくりうなだれて帰途につきました。

不登校は面白いうわさ話の種

2018-07-04 10:20:13 | 日記
せめて高校で不登校になってくれたら、こんなに好奇の目にさらされることはなかったのに。

息子の通う中学校は近在で一番規模が大きくて、学年に4クラスあります。
特にうちの近所は子供が多くて、小学校の時は通学班の人数が多すぎて2班に分けていたほどです。

市内にはあと2つ中学校があり、ほぼ持ち上がりなので私はほとんど接点がないのですが、
アキコさんを始めとする社交家たちの活躍により、息子が不登校になったという噂は瞬く間に市内に広まったようです。

スーパーで声を掛けられ、道を歩いていても呼び止められ、ある時などは自分の家の車庫に車を止めようとしている時に、
近所のママ友がやはり車で通りかかって呼び止められました。

スルスルとウィンドウを下ろした彼女は、好奇心ではち切れそうな顔で、
「こんにちはあ。子供たち、元気?」
と大声で叫びました。

あっちも、こっちも、動いてる車の中なんですよ?

私はバックで車庫入れ中だし、あっちは私に話しかけるために道の真ん中で車を止めちゃったので、
事故る心配まではなかったけど。

どんだけ、興味津々なの?

私は唖然として、苦笑して会釈だけしました。
私は声が小さいので、相手に聞こえないかもしれないし、車の窓を下ろしてまで会話を続けたくもなかったので。

ママ友は私の顔を見て、(しまった、やりすぎたかな?)というような顔をして、会釈して走り去っていきました。

どうも「B君元気?」ではなく「子供たち元気?」と聞いてくるのが、「野次馬根性ではなくただの挨拶」と
アピールするポイントのようで、この言い方にはこの後もしょっちゅうお目にかかりました。

それから、アキコさんが「B君が不登校になったって言っときました」と手柄顔で報告してくれたイソベさんは。

私の手料理を受け付けなくなった息子のリクエストで、ある日私はマックへ買い物に行きました。

ポテトのLを頼みかけて、私に敵意を向けてくる息子がシェアするのを嫌がるだろうと思い直し、
割高だけどSを2つにしようかなどと考えていた時です。

フロアを掃除していた店員さんが小走りにやってきて、私の注文を聞いていた店員に
「私、代わるよー」
と言い、押しのけるようにして接客を代わりました。

私は特に気にせず、
「やっぱりLやめてポテトのS2つ……」
と頼みかけると、
「ハーイ、子供たちは元気?」
と店員が言うのです。

ぎょっとして見直すと、その店員はイソベさんでした。

仕事中なのに。
あなた、今、別の仕事してたでしょうが。
フロアの掃除してたでしょうが。

好奇心でキラキラ目を輝かせた邪気のない笑顔に、私は恐怖すら覚えました。