不登校の息子とビョーキの母

不登校の息子との現在、統合失調症の母との過去

昼夜逆転には意味がある(2)

2017-12-26 10:33:28 | 日記
夏休み最後の日に息子は、
「宿題が終わらなければゲームはやめろってお母さんが言ったから、
どうせ今日が最後だから思い切りゲームするんだ」
などと妙な言い訳をしながら、宿題を放り出してゲームを始めてしまいました。

要するに学校に行かない口実です。

「なんでもお母さんのせいにして!」
と私はキレました。

でも、口実をつけるだけまだましかもしれません。こんなこともありました。

休み始めて間もない頃、夫が息子を無理に立たせて学校へ連れて行こうとしました。

「ほら、行くよ」

すると息子は、その瞬間に眠ってしまったのです。
まるで力ずくで学校へ行かされるという恐ろしい現実から眠りの中に逃げ込むように。

「何してんだよ、起きろよ」

夫も最初は息子がふざけているのかと思って、苦笑しながら起こそうとしました。
けれど息子は一瞬で深い眠りに落ちてしまっていました。

私も夫も、それほど厳しい親ではなかったと思います。
成績を叱ったこともなく、習い事もやりたがればやらせ、
やめたがれば無理強いはしませんでした。

それでも「学校にだけは何が何でも行かせなければ」という常識にとらわれていて、
知らず知らずのうちに子供にそれを強いていたのでしょう。

どんな口実を付けても絶対逃げられない時、人間は身体症状に逃げ込むか、
死を選ぶのではないでしょうか。

あの時の私と夫は、学校に行かないことを許さない親でした。

それに比べると、二度目の時は、息子が「今日から昼夜逆転する」と
宣言できるくらいには話の通じる親になっていたのだと思います。

とはいっても息子の昼夜逆転宣言に、あの時私は泣いて反対しました。
昼間寝ている姿を見ることは、統合失調症の母を思い出して怖かったし、
高校には行けると思っていたのにそれさえダメになる、
この子の未来がずっと閉ざされてしまうと思いました。

息子の本当の望みが社会からひきこもることなら、ゲームとか昼夜逆転といった、
目に見える症状をしらみつぶしに矯正していっても徒労でしょう。
別の症状が現れるだけです。

親にできることがあるとすれば、
安心してゆっくり休めるようにしてやることくらいなのかもしれません。

「一体いつまで休めば元気になるの?」
と、悲鳴を上げたくなることもありますが。



昼夜逆転には意味がある(1)

2017-12-19 09:55:18 | 日記
一度立ち直ったかに見えた息子がまた昼夜逆転を始めたのは、
前回と同様「友達の通る時間に起きていたくない、友達から逃避したい」
という気持ちが作用していたような気がします。

というのは、その前に友達とトラブルがあったからですが、それはまた今度書きます。

「俺、これから昼夜逆転する。高校に入ったら戻すから」

中三のある日自分でそう宣言して、結局高二が終わろうとしている今も完全には戻っていません。

心を閉ざしていた息子との関係が少し好転した頃、
「高校に入ったら昼間起きるんじゃなかったの」
とからかうと、
「お母さんがお酒をやめられないのと同じで俺も昼間は起きられないんだよ」
と返されました。何でも母のせいにしたがる息子です。

結局、高校にはほとんど通っていません。
もちろん昼夜逆転のせいばかりではなく、学校という集団自体がダメなのかもしれませんが。

「高校に入ったら戻す」とか条件をつけるのは、
そうしないと親が受け入れないと思うからでしょうか。
それとも、自分では本当にできると思っているのか……。

息子が三歳の時だったか、ある日突然「僕、今日からおねしょしない」と言い出したことがありました。
前日まで盛大におねしょしていたので、(まさか)と思っていたのですが、
本当にその日からぴたりとおねしょが止まったのです。

(なんという意志の強い子だろう)と、その時は尊敬したのですが、
小学一年生のプール開きの日からおねしょが再開し、三年生からホルモン治療をしてやっと直りました。

まるで今日の息子の姿を予言するかのようなエピソードです。
できないことを無理にやって、結局こじらすみたいな……。

学校も、今思えば最初から苦手だったのでしょう。

「お母さんは家にいられて、いいな」
などと出がけに言ったことがあります。

「お母さんだって、子供の頃は学校に行ったよ」
と言って送り出しましたが。

夏休み明けに学校を休み、「夏休みの宿題が終わったら登校する」と言っていた時も、
息子はまったくスピードを無視してバカ丁寧にノートを埋めていました。

「何でもいいから一日一ページ勉強」という宿題だったのに、
「丸写しは怒られるから……」
などと言って、わざわざ理科の実験までしています。
夏休みの終わり頃、一歳上の姉が心配していろいろアドバイスしました。

「私なら美術の宿題を後回しにするよ。絵は美術の最初の授業で出せばいいんだから」

何を言われても息子は要領の悪い自分のやり方に固執しました。
まるで宿題を終わらすのを恐れているかのようでした。


昼夜逆転が一日で直った!?

2017-12-13 08:57:01 | 日記
昼間眠っている息子を見ていると、私は統合失調症の母を思い出して
自分まで気が変になりそうでした。

「起きてよ。昼間は起きないと」

統合失調症患者との暮らしは地獄です。あんな日々がまた来るかと思うと、
とても耐えられそうにありませんでした。

私は布団の端からのぞいている息子の細い指を握りました。
「お母さん」
息子は助けを求めるように言い、力なく私の手を握り返しました。

この子は楽しくてゲームをしているんじゃない、
自分ではどうしようもないところまで追い込まれているんだと思いました。

思えば私は、
「学校を休んでゲームばかりして、生活リズムを崩してたら自分の得にならないよ」
と息子の自覚を求めるばかりで、強制することのない母親でした。

物わかりのいい親を演じたかったのかもしれません。

口うるさいと思われたくなかったし、かといって
子供をうまくおだててやらせるということも下手でした。

でも大人だって強制されないとできないことはあるし、
それが本人のためになることならすべきなのかもしれない。

「わかった。自分じゃ直せないんだね。お母さんが昼夜逆転を直してあげる」

私は思いきってゲームの電源コードを隠しました。
家から出られなくなった息子が、コードを買いに行けるはずはなく、
コードを返す条件で朝7時に起きることを約束させました。
あんなにリズムを崩していたのに、たった1日で息子の昼夜逆転はぴたりと治まりました。

甘い物ばかり欲しがるところも母の症状が激しかった頃に似ていたので、
砂糖を食べさせないようにし、脳に栄養を補給するサプリも試しました。
何が効いたか分かりませんが、息子はぐんぐん元気になっていきました。

自分の作戦が成功したと思い、私も元気が出てきました。

この頃はまだ私は、母親として子供をいい方向に導いていけるのだ、
いや、導くべきなのだという考えを持っていたような気がします。

これから約半年後、息子は再び昼夜逆転の生活に戻ります。

昼夜逆転と甘い物の関係?

2017-12-06 08:34:01 | 日記
不登校の息子に少しでもゲーム以外のことをさせ、昼間起きている時間を増やすために、
DVDを借りて息子と一緒に観ていた時期もありました。
ある日半分も観ないうちに息子が舟をこぎだしました。

「眠いの?」

いったんDVDを止め、そっと声をかけると、息子ははっと顔を上げて、
「くそ眠い」
とぼそっと言うとふらふらと自分の部屋に戻っていってしまいました。

仕方なく続きを見ようとして、息子が食べていたお菓子の袋に目が止まりました。

(あれっ、昨日開けたのに……)

ほとんど空になっています。

引き寄せて中を覗き込むと、大小取り交ぜたクッキーが30個くらい入っていたはずなのに、
もう数個しか残っていません。

そういえば、最近やけにおやつの減りが早いと感じていました。

私はふと統合失調症の母のことを思い出しました。

精神に変調をきたした頃から、母は異常に甘い物を摂取するようになったようです。
中高生の頃は母親にあまり関心を抱いていなかったのでよく覚えていませんが、
コーヒーにやたらと砂糖を入れるので驚いた記憶があります。

母は私が高2になった頃からか、ずっとこたつで寝ているだけの生活になっていきました。

その時は病気だとは本人も家族も分からなかったので、
家事もしないで怠けていると思って腹が立ちました。
でも実はその時母は幻聴と戦っていたのです。

不登校になる少し前から、息子は都会を怖がるようになりました。
林立するビルのそばに行くと、ビルが倒れてきそうで怖いと言うのです。
夏休みに私の姉夫婦と渋谷に行った時も、着いたとたんに帰りたがって困りました。
その時はわがままだと叱ったのですが、今思うと幻覚だったのかもしれません。

統合失調症は遺伝するケースも多いし、そうでなくとも10人に一人がかかる病気です。
母と息子は性格も顔もよく似ています。昼間寝てばかりいる息子の姿に、
病んだ母の姿がダブって、私まで気が変になりそうでした。

「お願い、昼間は起きて夜は寝ようよ。狂って死んだ私のお母さんを思い出すよ」

眠りこけている息子の枕元で私は泣かんばかりに懇願しました。