不登校の息子とビョーキの母

不登校の息子との現在、統合失調症の母との過去

息子の好きだった先生

2018-02-27 14:24:24 | 日記
友達にお金を盗まれ、心の支えを求めて訪れた適応指導教室のセンター長は、
息子の好きだったヨシノ先生でした。

40代くらいの女性で、快活な面白い先生です。父兄からも子供からも人気があります。

「ユウト君も最初は親切で来てくれたのだと思いますが、たまに面白くなさそうな顔をする時があったんです。
友達との関係が悪くなるのがイヤで、あまり来させないように担任の先生に頼んだのですが、
わかってもらえなかったみたいで。それどころか入れ代わり立ち代わり友達が来るようになって……」

学校に行かないだけで、息子は誰にも迷惑をかけていないのに、どうしてそっとしておいてくれないのでしょう。
やっぱりクラスに不登校児がいると、担任の評判が下がるのでしょうか。
ユウト君は担任との板挟みになって、息子が憎らしく思えたのかもしれません。

若くてかわいい女の先生に
「B君の所に遊びにいって、学校に来るよう誘ってあげてね」
と頼まれれば、むげに断ることなどできない子です。

(ユウト君って、意外に友達に影響力がないのね)
と思われることは、ユウト君のプライドを傷つけたかもしれません。
友達に絶対の人望があるという彼のセルフイメージを傷つけたのかも。
だからって、一緒に遊びに行こうと誘って一万円も用意させ、盗んでいくとは思いませんでした。

息子がゲーム制作の高校に行くと言ったことも、ユウト君の気に障ったのかもしれません。
中学生にとっては、ゲーム制作を勉強する高校なんてカッコよく見えることでしょう。

一通り事情を聞くと、ヨシノ先生はうーんと腕組みをして考え込み、こう言いました。

「ユウトはやってないな」

えっ、と思って私が先生の顔を見ると、先生は、
「ユウトがやるわけない。ショウタがやったか、片棒を担がされたかだ」
と確信ありげに言いました。

私は開いた口がふさがりませんでした。
じゃあ、私と息子がデタラメを言っているとでも言うのでしょうか。一体何のために?
元気に学校に行っている親友を妬んで陥れるためでしょうか?

確かにユウト君は印象のいい子です。ヨシノ先生も小学校時代、きっとかわいがっていたのでしょう。
でも、印象で人間のすべてを決められてはたまったものではありません。

へらへらと息子を言いくるめにやって来たユウト君の姿を思い出して、私はまた悔し涙がにじんできました。


息子が好きだった先生(1)

2018-02-21 10:17:33 | 日記
学校適応指導教室を訪れた私は、エノモト相談員に息子の近況について話しました。

「じゃ、高校は決まったようなものなんですね」
「いいえ、それが……」
私はため息をつきました。

「午前中に作品を仕上げて、午後持っていく手筈になっていました。
ところがゲームは仕上がったのに、それに添える短い説明文が書けなかったんです」

プログラムを仕上げる瞬間まで生き生きと楽しそうだった息子を見ていただけに、
「説明なんて、何書けばいいか分かんない」
と布団にもぐり込んでしまった息子の姿はショックでした。

「ここまで頑張ったんじゃない。適当でいいから書いて、出しちゃおうよ」
と私が懇願しても、とうとう息子は布団から出てきませんでした。

「文章を書くのが苦手なタイプですか?そういう発達障害もありますよね」
「いいえ、得意なほうではないですが、書けないわけではありません」

夏休みの宿題が終わらなかった時と同じです。課題を出せば高校が決まってしまう。
口では進学したいと言いながら、怖くなってしまったのではないでしょうか。

息子は元気になったかと思えばまた友達にどん底に落とされ、同じ場所をぐるぐる回っているようでした。

「それで、お友達とのトラブルというのは……」

「家に遊びに来てた友達が、息子の貯金箱からお金を取っていってたようなんです」

「よく来る子なんですか?」

「はい、一人は近所の幼なじみで、息子が休むようになってからもう一人を連れてよく来てたんですが、
二人で来た時に限ってお金がなくなって……」

「いくらなくなったんですか?」

「気がついただけでも最初に500円、二度目に2000円、三度目に一万円です」

金額を聞いて、エノモト相談員の表情が緊張しました。

「いたずらとしては見過ごせない金額ですね。私一人の手には負えない問題のようですから、
センター長にも話してもらってよろしいですか?」

「センター長って、どんな方なんですか」

「ヨシノ先生、ご存じじゃないですか?B君が通ってた小学校で去年まで教えていらした先生なんですけど」

ヨシノ先生なら知っています。子供たちに人気があり、息子も好きだった先生です。
ヨシノ先生なら、力になってくれるかもしれない。少し希望が見えたような気がしました。


母親がウツにならないために

2018-02-14 09:14:43 | 日記
私は久しぶりに相談機関に足を運ぶ決心をしました。

学校を休み始めてすぐの頃は何度か民間の支援センターにも行ったりしたのですが、
料金が高く効果もなかったのでやめたのです。

相談機関についてはまた他の機会に書きたいと思います。

私が相談に行ったからといって、息子が学校に行けるようになると思ったわけではありません。
このままでは私がうつ状態になってしまいそうでした。私がうつ状態になったら、息子を支えるどころではありません。

私自身が心に抱えきれないストレスを誰かに聞いてほしいという気持ちでした。

「この前伺った時は、高校には行けそうっておっしゃってましたよね。お友達とトラブルがあったそうですけど……」

相談員のエノモトさんが、気づかわしそうに聞きました。

「はい。普通の高校じゃなくて、ゲーム制作専門の私立高校ですけど」

「ゲームですか?高卒の資格が取れるんですか?」
エノモトさんは怪訝そうな顔をしました。

「はい。学費は高いんですが、大学に行かなくてもゲーム会社に有利に就職できるそうで……」

「進路が狭まりそうだけど、いいんですか」

「とりあえず受験勉強には興味がなさそうですし、好きなことを勉強したほうがいいと思いまして」

エノモトさんの懸念はもっともです。息子も以前ユウト君を誘ったら断わられたそうです。
ユウト君がたとえ行きたくても、学費も高く進路も限定される高校に行くことは、きっと親御さんが賛成しないでしょう。

私も、息子が普通に中学に行っていれば、学費のかからない公立高校を勧めたと思います。

「その高校に目標を決めてから、熱心にプログラミングに取り組んでたんです」

「学校に入る前からですか?」

「はい。入学試験を受けてもいいんですが、代わりに作文か作品を提出することもできるんです。
Bは自分で簡単なゲームを作って出したいと言いまして」

「それはすごいですね。できたんですか?」

「はい、できました。出願締め切りが何回かあるんですが、合格者が定員に達したらそこで終わりなんです。
早いうちに出してしまおうと、一昨日の締め切りにギリギリ間に合わせたんです」

「じゃ、高校は決まったようなものなんですね」

「いいえ、それが……」
私はため息をつきました。

学校適応指導教室へ

2018-02-07 09:59:58 | 日記
「友達にお金を取られたこと、学校に言ってみる?」

このまま泣き寝入りしたのでは息子が悔しいだろうと思って、私はそう聞きました。

息子はぶっきらぼうに
「盗ってないって言うんだから、盗ってないんだろ」
と言いました。

盗まれたといっても決定的な証拠があるわけではなく、ただ息子が
「二人が来た後に何度かお金がなくなった」と言っているだけです。

最後の一回の分はどうやら返してくれて、ふざけて持ち帰ったとでも言われたのか、
息子も言いくるめられてしまった様子です。

ユウト君たちがシラを切ったら私ももう何も言えないし、ご近所とも気まずくなってしまう。

告げ口を恨んで、息子に何か仕返ししてくるかもしれない。

そこまでしなくても息子のいない教室で、自分を正当化するために、
事実を都合よくねじまげた言い訳を言いふらすくらいはするでしょう。

「盗ってないのに、恩を仇で返されたよ。あんな家、みんなももう行かないほうがいいよ」とか。
息子にはもうかばってくれる仲間もいないのに。

そうなったら息子は、今まで同情してくれた子にまで、白い目で見られるようになるかもしれない。
「誰からも嫌われたことがない」と豪語する、社交性のかたまりのようなユウト君の言葉と不登校の息子の話、
どっちをクラスメイトが信じるかは火を見るより明らかでしょう。

そして息子は、大事な友達と決定的に気まずくなってしまう……
いいえ、大事な友達だと思っているのは、息子のほうだけだろうけれど。

きっと私たちは、今よりもっと孤立する。
この家は持ち家だし、引っ越すような余裕もなく、この狭い町でこれからも生きていかなければならないのに……

数日間、よく眠れない日が続きました。

そんなある日、学校適応指導教室というところから相談員が訪ねてきました。

不登校の子供の家を定期的に訪問している人で、以前にも息子の近況を聞かれたことがありました。
その時は友達が来てくれるので生活のリズムを取り戻し、高校には進学できそうだと話してありました。

「最近どうですか、B君は」
「ちょっと友達といろいろありまして、また朝起きられなくなって……」
通りすがりに近所の人の耳にでも入ったらまずいと思い、私は言葉を濁しました。

「ここではちょっと話せないんですが、今度センターに相談にうかがってもいいですか」
私は久しぶりに相談機関に足を運ぶ決心をしました。