TPP-2 メリットとデメリット 報道
➀ コメント
本報道は、素人には分かりやすく説明してある。
「米との2国間交渉では、不利になるが、多国間交渉では、米の譲歩を引き出す。」という考え方は、大いに説得力がある。
秋に臨時国会を開き、「大筋合意の内容」の説明を十分行えとの提言もある。
また、安保法制と同じようにならないことを祈るばかりだ・・・・。
21世紀型の自由貿易協定のもとそれぞれの国が恩恵を被るよう努力すべきと考える。
国内状況も考慮すべきだが、既得権を守るようでは、進歩はない。
規制改革を進めよう。
安くて、美味しいワインが待ち遠しい・・・・・・・・・。
② ダイヤモンド・オンライン 報道
TPPのメリットとデメリットをあらためて整理する
高橋洋一11 時間前
© diamond
紆余曲折の末ようやく大筋合意。環太平洋圏に巨大自由貿易圏が出現する
- メリットは輸出者と消費者にGDP増は累積3兆円“ではない”
やっと環太平洋経済連携協定(TPP)が大筋合意になった。TPPで日本のメリットとデメリットはどうなるのだろう。
正直に言えば、これまでの政府間交渉の結果は国民に開示されていないので、政府からのインサイダー情報がない限り、正確な論評は現時点で不可能である。したがって、筆者がTPP交渉参加を押してきた理由が現時点で変わっているかどうかをチェックするにとどめたい。
メリットは自由貿易の恩恵だ。これは経済学の歴史200年間で最も確実な理論だ。ただ、自由貿易でメリットを受けるのは輸出者、そして消費者だ。この点で、今回の大筋合意に対しても賛同意見が多い。一方で、デメリットになるのが輸入品と競合する国内生産者だ。自由貿易の恩恵というのは、メリットがデメリットを上回ることを言う。
このロジックは、2011年2月11日の本コラム(「TPPで農業を自由化すると日本の農業は本当に壊滅するか」)に書いてある。そこで示した通り、一定の経過期間を設ければ、農業が壊滅することも避けられる。
さらに、自由貿易のメリットの具体的な計算について、内閣府の試算では「概ね10年間で実質GDP3兆円増」となっている。TPP反対者の多くは、この正確な意味を理解せずに、「10年間累積で3兆円」と思い込んでいる。有名な経済評論家も、10年間累積で3兆円なので、年間3000億円にすぎないと反対していた。
この種の計算は古くから行われてきており、先の本コラムに書いてあるような経済学の比較静学を使う。TPP前の状態と、TPPを実施して輸入量が増え国内生産者が減少するという調整を経た後の状態を、比較するわけだ。こうした計算は、国際機関でも行われている。そこではいろいろな国からの参加者があるので、どこの国も極端に有利にならないように、比較的公正な計算となっている。内閣府の試算もそれを参考にしている。
筆者なりのイメージを含めて言えば、10年くらいの調整期間後を現在と比べると、輸出者、消費者のメリットとしてGDPが6兆円増加し、国内生産者のデメリットとしてGDPが3兆円減少し、それが毎年続く。政府試算の「概ね10年間で実質GDP3兆円増」とは、「概ね10年後に今よりGDPが差し引きで3兆円増加し、それが続く」というもので、「10年間累積で3兆円」ではない。
もちろん、これは単純化された前提になるが、大筋合意でも、日本の農産物の例外は5項目と限定的なので、メリットの数字が大きく変更されるとは考えられない。
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- 反対派の懸念点はほとんど杞憂ただし政府の十分な説明が重要
デメリットとして、TPP反対派が懸念していたものは、アメリカの言いなりになってしまうということだった。さすがに自由貿易におけるメリットがデメリットを上回るという定量的な部分は否定できないので、貿易ルールがアメリカ有利になって、日本がデメリットを受けることが強調されていた。
その代表例として、ISD条項(国家対投資家の紛争処理条項)を考えよう。筆者は、これを重大な問題と考えていない。というのは、これまで日本は25以上の国と投資協定を結んでおり、その中に既にISD条項は入っているが、対日訴訟は一件もない。一方で、世界では同条項による訴訟は400くらいあり、訴えられている国は国内法整備が不備の途上国が多い。ISD条項は投資家や企業が国際投資で相手国に不平等な扱いを受けないようにするためのものだから、日本のような先進国では有利に働く。
これまでの報道では、ISD条項がTPPの交渉で大きな問題になったということを聞いていない。実際には、投資協定の書き方がどうなるかであるが、従来と同じだろう。であれば、心配する必要はない。
ISD条項以外にも、懸念点があるだろう。重要なのは、条約の国会承認や国内法の整備での国会審議で、十分に政府から説明を受けることだ。筆者の感覚では、従来からある話なら解決法が既にあるし、たいした話にならないことが多い。新規の話があれば別だが、TPPのような多国間交渉では、まとめるために、すべての国で新規の話を避け、どこかの国で前例のあるものになる傾向がある。もしすべての国で新規の話であれば、これまでの交渉で問題になっているはずだ。
TPPは多国間交渉であるから、対アメリカという観点では、二国間交渉より有利だ。今回の交渉でも、知的財産権において、最後までアメリカにオーストラリアなどが抵抗して、日本は結果として漁夫の利を得ている。
むしろ、アメリカは知的財産権保護などで妥協したので、同国議会がTPPを認めるかどうかが心配になるくらいだ。
なお、このアメリカの事情については、ノーベル賞学者クルーグマンのブログに興味深いことが書いてある。クルーグマンは、知的財産権で米国企業有利にしようとしている点でTPPに消極的だった。ところが、米政府(ホワイトハウス)から、今回の交渉ではかつてと米政府は変わったと説明されたという。米国企業や共和党の怒りを見ると、この点が確認できるとしている。
アメリカ議会は同国政府から情報を多く得ているので、そこで今回の大筋合意についてアメリカとして譲りすぎという意見が多いのは、日本には朗報かもしれない。ただし、日本の国会もしっかりと政府から情報を得て、条約の国会承認や国内法の整備での国会審議を行わなければいけない。ここが最後の山である。アメリカ議会は議会承認を行わないことも珍しくない。
いずれにしても、多国間交渉によって、米国の尖った意見が緩和されて少なくなっていくというTPP推進論者の見立てのほうが、これまでのところやや分があるようだ。今後具体的な事項の詳細がわかれば、TPP反対派が懸念していたことはほとんど杞憂ということになるだろう。
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- 割を食うのは中国と韓国TPPは中国の民主化も促す
しかも、アジアに日米同盟を基軸とした高度な自由貿易圏ができることの意義は大きい。目先の話であるが、これで割を食うのは、TPPに参加しなかった中国と韓国である。両国ともに、経済に陰りが出ている中、TPP自由貿易圏で輸出を伸ばすチャンスを失ってしまった。実のところ、TPPが大詰めで大筋合意にこぎつけたのは、中国の台頭について各国首脳が危機感を持ったからだ。自由貿易のルールを誰が担うのがいいかと言えば、中国が支配するよりも今の西側自由貿易体制のほうがマシだろう。
さらに、いずれ中国と韓国はTPPに参加せざるを得なくなるが、特に中国については民主化を促せるので、日本の安全保障の観点からもメリットがある。
まず、先週の本コラム(「集団的自衛権の行使容認が日本を平和にする根拠」)で、中国の民主化は日本の安全保障に貢献できることを数量的に示したので、TPPが中国の政治の自由を促すことを言おう。
中国はこれまで自国経済への影響からTPPへの参加は消極的だった。TPPでは貿易だけでなく投資の自由化も含まれていたからだ。中国は一党独裁社会主義であるので、生産手段の私有化を前提とする投資の自由化を基本的に受け入れにくいのだ。
このため、中国は自国ルールでの自由貿易圏にこだわっている。中国が主導してAIIB(アジアインフラ投資銀行)の設立に精力的だったのは、自国ルールがどうしても欲しいからだ。
逆に言えば、中国にとって自国ルールでの自由貿易圏がなくなった以上、民主化覚悟で、TPPに参加せざるを得なくなったわけだ。
経済的な自由を求めれば、政治的な自由も後からついてくるというのは、フリードマン『資本主義と自由』(1962年)に書かれている。そこで、自国ルールが通用しないTPPしか選択肢がないなら、民主化も必定ということであろう。
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4. 景気対策と合わせて臨時国会で急ぎ経過説明をすべき
こうした長期的な外交戦略論もあるが、何より具体的な事項の詳細の情報も欲しい。そのための絶好の場は臨時国会である。ただし、総理の外遊などから、臨時国会が開催されない可能性もあるようだ。
消費増税の後遺症が残り、中国の不安要因がある今の景気状況を考えると、GDPギャップから少なくとも10兆円以上の景気対策が必要である(財源は外為特会。詳しくは、2015年8月27日付け本コラムなど参照)。そのためには臨時国会を開くべきだ。TPP関連法案が間に合わないと政府は言っているようだが、日本関係に限れば、かなり前にTPP交渉は実質的に終わっている。秋の臨時国会に合わせて法案準備をしてきたので、対応可能という声も聞こえてくる。
TPPは国会承認が必要なのだから、経過説明という名目で短期間開催して、同時に景気対策などを行うのが望ましい。
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