2017年1月5日 聖教新聞
最後まで光った負けじ魂
新春の風物詩である第93回箱根駅伝(2、3日)で、創価大学は往路9位、復路13位で総合12位に入った。初出場した2年前に比べると、総合タイムを11分3秒も縮めた。さらに、区間1桁順位の選手が5人も誕生し、躍進を遂げたのである。ここでは、中継所を中心に、選手たちの大激闘の軌跡を追った。
2日午前8時。大山憲明選手(3年)が、創価のトップランナーとして、東京・大手町をスタートした。途中苦しみながらも、トップとの差を1分7秒にまとめ、17位で鶴見中継所へ。ムソニ・ムイル選手(1年)にタスキを託す。ムイル選手は「花の2区」で物おじせず、好走を見せた。
【戸塚中継所(2区―3区)】午前10時13分、ムイル選手がものすごい勢いで中継所に飛び込んできた。蟹澤淳平選手(3年)とのタスキリレー。手元のラジオはムイル選手の「7人抜き」の快走を伝えていた。
25分後、ムイル選手に取材した。普段から口数は多くないというが、やや緊張気味だった。
初めての箱根で先輩から受け取ったタスキに、何を感じたか聞いてみた。
「心が震える思いでした。タスキというものは、本当に大切なものだと聞かされてきましたから。絶対、次に託さなければならないと思いました」
また、他校のエースと勝負する重圧については「前の人を見て走ることだけ考えていたので、気になりませんでした」と。さらに、「この経験を生かし、もっと良いパフォーマンスをしたい」と次への決意を語っていた。
◇◆◇
3区の蟹澤選手の力走は往路の大躍進の流れを確かなものにした。そして、4区のセルナルド祐慈主将(4年)も続いた。
――13キロ付近。テレビ中継は、主将が駒沢大学の4年生エースを捉えた場面に切り替わる。駒沢のエースと言えば、過去3大会で区間賞2回の実力者。しかし、表情は崩れ、まさかのブレーキ。好走する主将は彼に迫る。その瞬間、何かを語り掛けるように、背中をポンとたたいた。プレスルームは「オー!」とどよめく。主将は2年前、駒沢の夏合宿に参加。「僕も余裕はありませんでしたが、尊敬する選手だから、頑張ってほしかった。“一緒に走りたい”との思いで鼓舞した」と。紳士的な行動はメディアでも話題を呼んだ。
その後、主将はさらにペースアップし、チームを5位にまで押し上げた。
【小田原中継所(4区―5区)】「セルさん!」。江藤光輝選手(3年)が視界に入った主将に向かって叫んだ。首を左右に振り、渾身のラストスパートをした主将。江藤選手の姿を捉えると、右手でガッツポーズし、タスキを渡した。
――レース前、主将は江藤選手に語った。「絶対、貯金をつくってタスキを渡すからな!」と。2年前、5区を経験し、その過酷さを身で知っているからだ。
午後0時21分、江藤選手はその思いをかみしめ、中継所を後にした。標高差約840メートル。上れば上るほど、ペースは崩れていった。それでも粘りの走りを展開。創大は、堂々の往路9位でフィニッシュした。
【芦ノ湖(6区スタート地点)】3日午前6時45分、作田将希選手(2年)は、久保田満ヘッドコーチとジョギングしていた。
作田選手は創大の応援団の待機場所に向かう。「復路のスタートを切る大切な6区。応援よろしくお願いします!」。寒さを吹き飛ばす熱い歓声と拍手が広がった。そして、作田選手は、大声援を背に、6区のスタート地点へ。午前8時5分過ぎ、山下りは始まった。しかし、途中、足の皮がむけてしまう。さらに足はつり、まともに動かない。「限界」の文字が頭をよぎる。でも、「タスキをつながなくては……」。その思いだけで走った。
【小田原中継所(6区―7区)】作田選手の目に、古場京介選手(2年)の姿が映る。午前9時7分、タスキは渡った。
――取材のため作田選手を待つと、スタッフの肩を借りながらやってきた。走り終えた感想を聞くと、「自分が、自分が……」と言葉に詰まる。15秒ほど沈黙。「自分が走り切って順位を守らなければいけなかった」。悔しさがにじみ出ていた。9位から14位に。これも箱根の厳しさ。この経験は未来の糧になろう。
◇◆◇
7区の古場選手は、故障明けで、思い通りに走れない時間帯が続いた。それでも後半は、執念の走りを見せ、15位で8区の米満怜選手(1年)につないだ。
【戸塚中継所(8区―9区)】午前11時21分、米満選手は、区間3位の激走で三澤匠選手(3年)とタスキリレー。「途切れない声援と、先輩の三澤さんの姿が目に入り、最後まで力が入った」と。直後、取材に応じてくれた米満選手の表情には、まだ少し余裕があるようにも感じた。夏からフォームを改良して臨んだ箱根。道中、「監督とコーチから『お前ならやれる!』とげきを受け、勇気が湧いてきた」という。順位を三つ上げ、チームを12位に押し上げた。
【鶴見中継所(9区―10区)】初出場時、この中継所で繰り上げスタートを経験したのが、アンカーの彦坂一成選手(4年)だ。タスキを受ける直前、落ち着いた表情で、軽いランニングや上体を沈めるストレッチなど、入念に準備を重ねていた。
その頃、三澤選手は、前を走る大学を必死で追っていた。そして気力を振り絞り、中継所に駆け込む。
午後0時34分、彦坂選手にタスキが渡った。
【東京・大手町(ゴール地点)】「最後まで後輩につなげる走りを頼むぞ!」――運営管理車から聞こえた瀬上雄然監督の言葉が、彦坂選手を奮い立たせた。最終盤、前を走る帝京大学の背中を捉えた。鶴見中継所では、帝京とのタイム差は2分以上。最後は、13秒差まで追い詰めた。ゴールテープを切るまで、歯を食いしばり、走り抜いた姿は、創大の負けじ魂を象徴するシーンだった。
午後1時46分、12位でフィニッシュ。創価のタスキが、初めて大手町に戻ってきた瞬間だった。10区間217・1キロ、団結のタスキリレーを見せた創大。今春、卒業するセルナルド主将は語る。「後輩たちが、さらに強いチームをつくってくれると確信します!」
もう1週間前の記事になるけど、何回読んでも鼓舞されるねぇ。