〈ヒューマン〉 健康社会学者・気象予報士 河合薫さん
2017年1月27日 聖教新聞
どう前に進むか…
傘はそのためにある。
全日本空輸を経て、気象予報士に。テレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科で健康社会学の博士号を取得。メルマガ「デキる男は尻がイイ――河合薫の『社会の窓』」を好評展開中。
〈「日経ビジネス オンライン」でコラムを担当中。健康社会学者として、過重労働や拝金主義など現代の諸問題の本質に切り込む主張は痛快である〉
――「健康社会学」はどのような学問ですか。
健康社会学とは、人間と環境との関係性に注目し、ヘルスプロモーション(人々が自らの健康とその決定要因をコントロールし、改善することができるようにすること)の在り方などを考える学問です。現代の諸課題を解決するヒントが詰まっていると思います。
――なぜ、この研究を始めたのでしょう。
かつて私は、気象予報士として、テレビのお天気キャスターを務めていました。その中で「生気象学」(気象現象が人間に与える影響を研究する学問)に関心を持ち、8年間、独学で勉強しました。それを生かし、「体調予報」を加えたお天気コーナーは好評で、1冊の本にもなりました。その後、「人と気象」の枠を超えて「人と環境」の関係性を研究したいと思い、大学院に入りました。以来、産業ストレス等に着目し、働く人々に調査を重ね、より良い組織の在り方などを研究しています。
――今、求められる会社組織の在り方とは?
誰にだって、“雨”の日があります。たとえ雨が降っても、傘があれば、何とかなる。かつての日本社会には、家族や地域という“安心の傘”がありました。戦後、企業も人と人の結び付きを大切にしながら、発展してきた。しかし、今の世の中には、その傘が小さく、また少なくなっています。「傘を貸して」と言いづらくなっている。多くの人々が「負け組」「君はダメ」とレッテルを貼られてしまうのを恐れ、大雨の中を歩き、無理を重ねているのです。過重労働に伴う痛ましい事件はその象徴でした。
私もたくさんの雨に遭遇し、そのたびに傘を借りて、今があります。コラムでも書いていますが、組織の中で「傘を貸して」「傘を使って」と言い合える強い信頼関係を築いてほしい。傘があれば、前に進めます。その存在が、皆に本来備わっている力を引き出すのです。これからも、働く人々の声にならない声を代弁する思いで、自分なりに言葉を紡いでいきたいと思います。
客室乗務員、気象予報士、博士、執筆家……多彩なキャリアを持つ河合さん。「その原動力は」と尋ねると、「モチベーションは高くない」と意外な答え。「ただ、やりたいと思ったことに、精いっぱい取り組んできた」と。意志のあるところに道は開ける、と心から感じた。(差)
自分にも、前の会社で傘を貸してくれる人がいれば…。
って、いつまでウジウジ考えているんだか。