〈スタートライン〉 「笑顔のママと僕と息子の973日間」の著者 清水健さん
2017年12月9日 聖教新聞
家の中の遊び場へ連れて行かれ、「動物フィギュアごっこ」が始まります。さらに最近ハマっているのは「かくれんぼ」。すぐに見つけると怒るので、「どこかな、どこかな」と探します。
その遊びをしながら朝ご飯、着替え、仕事の準備。時間に余裕がある時は、公園に連れて行きます。息子がはしゃぎ、一番楽しんでいる頃、仕事の時間に。「パパこれから仕事なんだ」と言うと、「いやだー」と大声で泣きだします。
“今まで遊んであげたのに”と思うのは親の都合……。“ごめんな”って思いながら、息子を抱き上げ、保育園へ。仕事の帰りが遅くなってしまう時は、保育園、母や姉夫婦に力を借りています。
帰宅後、ご飯を食べさせ、お風呂に。出ると、「ぼくは、はだかマン」と言って、服を着ないで走り回るんですよ。パパがいるから楽しいんでしょうね。でも、疲れているとつい叱ってしまう時もあります。これも親の都合。息子を寝かしつけた後、寝顔を見ながら一人で反省しています。子育ては、「する」と「手伝う」では全く違う。妻が元気だったら気付かなかったことかもしれません。
幼稚園探しに行った時のこと。「お母さんと折り紙をしましょう」という先生の一言に、つい下を向いてしまいました。また「おかあさんといっしょ」の番組タイトルで、複雑な気持ちになってしまったり。“こんなことで何気にしてんだ”って、小さなことなんですけどね。
――総務省統計局によると、シングルファーザーは、2010年時点で約20万人。社会的な理解はシングルマザーに比べて低く、制度設計も進んでいない。転職を余儀なくされたり、勤務時間の短い部署への異動を願い出たりする人も少なくない。
子どもを育てながら働くには、厳しい現実だと思います。
私も、妻の闘病中そうでしたが、例えば、今も携帯電話を手放せません。息子の体調が悪くなったら、僕が動かなければいけない。でも仕事もある。どちらも責任重大、そのせめぎ合いの日々です。
また、保育園やベビーシッターさんの費用など、当然のことながら経済面も厳しくなります。でも、妻がいないと会社からの手当はなくなるんです。“あれ、逆にお金掛かるんだけどな”って。
当事者になってしまって初めて知ることがいっぱいありました。本当に多くの方が「今」という現実と向き合っていて、その中、必死に踏ん張ろうってされているんです。大切な人のために。
――奈緒さんの闘病中も、またシングルファーザーとして奮闘し始めた頃も、清水さんは苦悩を周囲に伝えることができなかった。
皆が気を使ってくれるのが痛いほど伝わるんです。その時に「つらい」と言えればよかったんですが、「心配掛けないように頑張らなきゃ」と、無理を続けていました。今思えば、それが一番、格好悪い姿だったなって。
当初は、「大丈夫か」「頑張れよ」って声を掛けてもらっても、“何が分かるの?”って自分の中の小さな心が出てしまって。でも分かるんですよ。本当に自分のことを思ってくれているって。それなのに「苦しい」と言えなくて、だんだん勝手に孤立していきました。
昨年、妻の闘病の様子を『112日間のママ』に記しました。それを読んでくださった知人から頼まれ、自分の忸怩たる思いを講演会で語りました。すると、アンケートには、参加者の方々の苦しみの告白がたくさんつづられていました。
それまで「なんで自分だけ」と思ったこともありました。でも、カタチは違えど、多くの方が苦しみと向き合い耐えているという、当たり前のことに気付かされたんです。「苦しんでいるのは自分一人じゃない」と思えた時、自分がつくっていた殻が破れ、今の僕にできることがあるならば、思いを共有したいと思えるようになりました。
その翌月、笑顔の人が一人でも増えてほしい、入院施設の充実などをご支援できればと基金を設立。また、グッと我慢して「今」と向き合っていらっしゃる方々の思いを、少しでも感じてもらえるなら自分はどう思われてもいいと、講演活動を通し自分の気持ちを語っています。正直、人の苦悩を理解することは難しいです。でも、そうした方々に少しでも寄り添える人間でありたいと思います。
――人は、生きる上で、突然の悲運、思いもよらない出来事に直面することがある。その時、どう向き合い、乗り越えていくのか。
妻を思い出して苦しくなる時もある。育児も大変。でも、だからこそ出会えた人がいて、気付けたことがたくさんあるのも事実なんです。乗り越えなきゃと思って苦しんだ時もありました。でもやっと、そのままを受け入れていいんだなと思えるようになりました。つらくても大変でも、楽しいこともうれしいこともある。支えてくれる人がいます。
だから今は、皆ともっと笑っていたい。「今が幸せだ」って胸を張って言えるように生きてやろうって思います。
――シングルファーザーやシングルマザー、苦悩の渦中にいる人へ、清水さんはエールを送り続ける。
大切な人のためにも、自分を大事にしてほしい。やっぱり自分が笑顔でいなくちゃ、周りの人を笑顔にできない。
でも、人間そんなに強くない。だから一人で抱え込まないでと伝えたい。つらかったらつらいと言っていいと思うんです。助けてくれる人は必ずいますから。
だから、僕はあえて言いたいです。「大丈夫です。一緒に頑張りましょう」
しみず・けん 1976年、大阪生まれ。中央大学卒業後、2001年に読売テレビに入社。「どっちの料理ショー」などの番組に出演。09年からは、「かんさい情報ネットten.」の担当に。17年、読売テレビを退社。現在は、一般社団法人清水健基金の代表理事として、入院施設の充実、がん撲滅等への支援をする傍ら、講演活動を通し当事者の声を伝える活動をしている。
『つらい時はつらいと言っていいんです。』というタイトルで読んだ記事。
仕事は楽しいけど、………つらいなぁ。