〈幸齢社会〉 イライラしない過ごし方
2019年1月23日 聖教新聞
精神科医 保坂隆さん
誰にでも忍び寄る「シニア特有の感情」を自分でコントロールできれば、老後をもっと楽しめる可能性がありそうです。ちまたで話題の“キレる老人”などとは対照的な、イライラしない過ごし方を精神科医の保坂隆さんに聞きました。(写真は本人提供)
背景には、病を患ったり、配偶者や友人と死別したりするなど、高齢になると喪失感を抱きやすい点があります。中には「食べる量が減った」「お酒に弱くなった」と落ち込む人もいるでしょう。
高齢期は“失うことの多い時期”なので、気分が沈み、うつ状態に陥りかねません。自分に対する見方をさらに前向きにしないと、元気が湧きにくいのは当たり前です。
私は、がん患者の心をケアしていますが、病気になっても「あまり悲観的にならず、楽観的に考える」ことを勧めています。それは治療もせずに「そのうち治るだろう」という考えではなく、「治ると信じて治療に専念する」ことが重要だからです。
老後は、病気だけでなく、経済的な不安を抱く人も多いと思いますが、それも、まずは解決できると信じること。心配ばかりすると、脳の働きや体の免疫力が低下します。
感情のコントロールにも悪影響を及ぼし、イライラしてキレやすくなる場合も。心配事があっても、希望を持って頑張ることこそ“最も簡単な長寿法”と言えます。
なぜなら、性格を作り出す「脳」が、悲観的・否定的に考える傾向があるから。楽しかった出来事より、嫌な経験をよく思い出すのは、誰でも同じではないでしょうか。
楽観的な考え方に変えるには、脳に“主導権”を握られないように意識して、うまく誘導する必要があります。
「そんなの無理」という声が聞こえそうですが、実は、それも脳が発するネガティブなささやき。対処法は意外と単純で、全く“違うこと”を始めればいいのです。脳は、一つのことに集中する性質。お金の心配事があっても部屋を片付けたり、おいしい料理を食べたりすると、その不安を忘れてしまうでしょう。
また「大丈夫」「できる」「心配ない」など、肯定的な言葉を使うのも大切。心理学では、祈るかのように“強く思い込むと、現実化する”という考えもあるほどです。
“隣の芝生は青く見える”もので、ストレスを感じるようなら“見ない”のが一番。定年や誕生日、新年を迎えた時などに、他人と比べるのをキッパリやめましょう。自らの人生に集中すれば“自分の庭も十分に青い”と分かり、悩みは消えていくはず。
もちろん、近隣や友人との関係は絶たず、貢献できることには無理なく関わること。老後に自分を助けてくれる人は、ご近所さんかもしれず、日頃からの交流が大事です。慣れない人は、児童の通学を見守るボランティア活動などに参加してみましょう。
さらに家事を妻に任せきりの人は、自分の脳を怠けさせないためにも、片付けや買い物、掃除などを喜んで引き受けること。感情の老化防止に抜群の効果があります。
例えば、自分が落ち込んでいる時、その状況を知らない人から何か頼まれたりして、「こんな時に」といら立った経験はないでしょうか。
悩みは、周囲の人に聞いてもらうだけでも心理的な負担が減り、これを「カタルシス効果」といいます。語る相手は家族や友人のほか、ペットでもOK。悩みを“吐き出す習慣”を身に付けましょう。
一般的に、ストレスは対人関係によるものが多いのですが、最後まで1人で生きるのは困難。周囲との良好な関係を築く上でも、自身の感情は普段の“心のストレッチ”でほぐしておきたいですね。