(1)長時間労働を規制する労基法の改正~残業時間の上限規制を行うこと
現行法では36協定さえ結べば、「労働時間延長の限度等に関する基準」はあるものの、何時間でも残業をさせることが出来るしくみになっています。また平成10年の労働省告示で「特別条項付き36協定」があれば、届出している時間をオーバーできることになっています。この協定は、1年間を通じて閑繁期のある業種では1年のうち6ヶ月間は36協定をオーバーすることを認めるものです。但し、これも労使協定が必要とされています。事業者が36協定を守れないから緩和すると言う措置がとられてきました。すべての労働者に残業時間の上限制を適用し、トラック運転者に適用されている改善基準告示は法制化をする必要があります。
(2)改善基準告示の抜本改正と法制化
トラック運転者には、「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(7号告示)により、拘束時間、休息期間、運転時間などの規制が設けられています。しかし、労基法の適用除外規程としてのこれらの内容は、トラック労働者の長時間労働を維持する有力な根拠となっており、抜本的改正が必要です。特に、この基準は週44時間制の時を基本につくられた基準であること。
現行法である週40時間制を基本として、安全・安心運行の確保の観点から下記の見直しを要求していきます。
その際、ILO153号条約(日本は未批准)や過労死認定基準などとの関連から抜本改正を求めることです。
①告示に強制力を「労基法に明文化」
告示は強制力がなく、違反をしても罰則規定がないため、事業者の60%以上が何らかの違反を行っています。告示を労基法に明文化して強制力をもたせること。
②告示内容の基本を週40時間制に
告示内容はもともと平成元年の週44時間制を基本にしています。早急に週40時間制に合わせた改定をせまります。
③拘束時間を大幅に短縮
1ヶ月293時間、1日原則13時間、最大16時間の拘束時間は、週40時間、1日8時間の法定時間や時間外を定める告示にある4週43時間と比較して異常な長さです。他産業の規制並みに短縮します。国土交通省が了解をしている6日間出っ放し運行(1運行144時間)は、早急に告示との整合性を追及します。
④時間外労働に対する告示にトラック運転者も適用すること
時間外労働の上限に関する告示は、4週で43時間を基本としていますが、トラック運転者は除外されています。除外を撤廃させるとともに大幅短縮を求めます。
⑤休息時間、休憩時間の改正を
現在8時間と規程されている休息期間は、本人の居住地での休息の場合はさらに延長すること。長距離運行の場合など、休息・休憩が決められた通りの実施ではなく、仕事の都合で一方的に決められています。事前の休息・休憩時間を明記し、変更は基本的には認めないものとします。
拘束時間は労働時間と休憩時間を足したものとする考え方が一般的ですが、トラック運送の場合事業所外での休憩時間の取得が多く、また労働時間と休憩時間の区分をつけにくいケースが多く存在します。したがって、拘束時間=労働時間とする考え方が必要です。
⑥営業車両全車種に「運行記録計」(タコグラフ)装着義務づけで労働時間管理を
トラック運転者は事業所外での勤務となることから、労働時間管理が非常に困難です。こうしたことを「悪用」して、労働時間管理を放棄し、長時間労働・残業未払を放置する経営者も少なくありません。
乗務前後の労働時間管理の問題は残りますが、現在大型車両のみに義務づけられている「運行記録計」はトラック運転者の労働時間を客観的に把握・管理する有効な手段です。
国土交通省は「トラックにおける運行記録計の装着義務付け対象の拡大のための検討会」を2011年から開催し、2014年3月26日に開催された第4回検討会に於いて、事故が多発している車両総重量7~8トンの事業用貨物自動車への装着義務拡大の方向性を示し、平成26年度中に公布、平成27年度中の新車購入時に適用、平成28年度以降に使用過程車へ適用としています。
しかし、市内集配車や近隣県配送車などで多く使用されている総重量7トン以下の車両については除外されている事から、今後もすべてのトラック運転者の労働時間管理のために、営業車両全車種へ装着義務付けることが必要です。
(3)政府や業界・荷主に要求していく内容について
トラック運輸の長時間労働は、企業内での取り組みだけでは解決できないことも多く、政府や業界、荷主に対して改善を要求していく内容が相当あります。その際、政府当局の出している法律、通達類、指針・提言などを積極的に活用していきます。
①運輸業界または荷主業界ぐるみでの時短を
環境対策(公害)の推進のために、トラックの一斉休日の推進を図ります。その場合、荷主業界にも呼びかけが必要です。
②深夜・早朝の時間帯での輸配送の規制
社会全般が24時間型となっている中で、トラックも24時間の稼働が求められています。このことが原因で長時間労働となっている現状を規制していく方向で22時00分から5時00分までの深夜・早朝の荷受や配送の規制を確立していきます。
③手待ち時間の解消
荷主の都合による時間指定や無理な着時間指定、生産量・取扱量に比較して入出荷施設の貧弱なところは、手待ち時間が発生していることから、国土交通省や荷主団体などを通じて改善を求めるとともに、直接荷主に対して施設の改善や、円滑な入出荷ができるよう求めていきます。また、独占禁止法の優越的地位の濫用の適用、荷主勧告制度をはかって、厳しく追求していきます。
また、4月24日の横浜地裁相模支部による「手待ち時間は労働時間」とする判決の実効確保、業界全体への波及と荷主団体への周知を行うことも重要です。
⑤消費者の意識を変える啓蒙活動
ネット通販などの「送料無料」表記など消費者に誤解を与えかねない販売方式や、「わがまま運びます」式の消費者ニーズにこびたやり方は、業界が抱える諸問題(安全・安心、賃金・労働条件)の改善の必要性をアピールし、消費者物流に対する正当な対価の支払を啓蒙していきます。
⑥労働基準法の遵守と抜本改正、法違反に対する行政指導の強化
労基法違反・告示違反等の法令を無視した業者には、的確な指導を行うとともに、悪質な業者に対しては認可取り消しを含め厳しい罰則を求めていきます。
結論が先延ばしされている、1ヵ月60時間以上の時間外割増率1.5割増への変更を、例外なく全ての企業に適用させるよう求めていきます。
⑦交通渋滞などの改善
幹線道路の整備と、きまって渋滞する箇所の早期の改善を要求していきます。また、マイカーの総量規制、時間帯規制などの実施で交通渋滞の緩和を図ります。
(4)企業内で解決が可能な内容について
①時間短縮の計画
トラック部会として時短計画を提起できるように計画します。当面、職場内では、36協定締結時に総労働時間短縮にむけた協議を行います。
②週休2日制の拡充と休日増・連
続休暇の設定トラックの職場では、仕事の性格から1日当たりの労働時間を減らすのが困難な場合が多くあります。週休2日制の拡充を中心に休日を増やし、年間休日数の増加をめざします。平成25年で完全週休2日制導入は全産業では46.0%、運輸業では25.6%に留まっています。トラックの職場では週40時間制の対応として、変形労働時間制を導入する企業が多くあります。その場合には、1日単位の労働時間を変動させるのではなく、年間休日数の変動で対応しているところが多くあります。いわゆる年間変形休日を設定しています。年間の変形労働時間は、労使協定が必要です。労働基準監督署に届出を必要としますが、年間休日のカレンダーを添付することになっています。それらの点検を行い、年間での休日を増やしていきます。
③労基法や告示の遵守、安全衛生法にもとつく36協定の締結
労基法・改善基準告示の遵守はもちろんですが、労働者の安全と健康の面からも過労死認定基準を前提にした36協定を締結します。
④変形労働時間制は原則として反対です
変形労働時間制とは1ヶ月もしくは1年単位で、所定労働時間を変動させるしくみです。季節の繁閑に合わせて、1日の労働時間を変え残業手当の支払を削減することも狙いのひとつとなっています。職場に提案があった場合は、なぜ変形労働時間制を導入しなければならないのかの労使協議が必要です。その上で対応することです。
⑤賃金体系の改善
低賃金が長時間労働を生む構造をなくすため、賃金体系を歩合制主体から時間賃金制に転換します。賃金体系の中で固定給部分を増やし、残業割増率を増やすことによって残業単価を引上げ、その分の残業を減らします。完全歩合給の体系のところは、当面、総額の6割以上の保障を協定し、その後固定給に転換させます。
⑥労働時間短縮中期計画の策定
労働時間短縮は、賃金の改善も必要とすること、所定労働時間だけでなく時間外労働時間の短縮も必要となることから、どのような時短を進めるのか、企業の実情とあわせて計画的に進めることです。