(1)賃金制度の確立のために一求められる賃金体系
「トラック労働者なら誰でも年収500万円」をめざすためには、「安全・安心」なトラック運送を担保する「労働時間短縮」と、誰にでも判りやすい賃金体系を確立することが必要な課題です。
私たちは全産業並みの賃金水準と生計費原則にもとついた賃金体系のあり方を目標にしています。国土交通省の試算では「平成27年(2015年)には約14万人のトラック運転者が不足する」と予測してきましたが、それが現実化している現在、複雑で判りにくい賃金体系を簡素化し、それらを必ず全従業員に明示し、賃金の透明性を図ることがなければ、業界そのものの信頼性は失われることになります。ブラック企業からホワイト企業へ、業界全体が襟を正すことによってこそ、適正な運賃収受の道が開けてくるはずです。
(2)賃金体系がもつ機能と改善方向
①賃金体系の留意点
賃金体系は、賃金率の決め方(例えば基本給、出勤給の額・レートなど)と支払方法・形態(時間決めか、出来高・歩合か)がかたく結びついています。"ブラック企業"の定義には、時間外賃金の正当な支給がなされているかに、大きな要素があります。このことを考えた場合、「出来高賃金」の導入は限りなく抑え、また「歩合賃金」の率をできるかぎり低く抑えることが重要となります。
②賃金構成と基本給について
通常、賃金体系は、基本給、職能給、能率給(稼働給・出来高給)、家族手当、住宅手当など、いくつかの賃金項目によって構成されています。
貨物運送業においては、所定内賃金における基本給の占める割合が、他産業と比べは極端に低くなっているのが特徴です。
この基本給は、年齢、勤続などの属人的要素(個人的条件)、仕事に関係する職務、職種的な要素で構成されています。年齢・勤続・職能給が独立した賃金項目になっていたとしても、これらを全部包括して基本給として位置づけることです。基本給が賃金構成の中心部分である以上、基本給の構成要素、賃金率の決定基準を明確にしておくことが重要です。
③職能給について
職能給は職能資格制度を設定し、資格や勤務上の取りまとめなど責務の大きさによって「昇給昇格」するものです。職能給の昇給昇格が、能力・成績の考課によるものとして、企業の一方的な人事考課だけでなく、全従業員に納得できる内容とすることが、トラック産業の近代化や透明性を高めることになります。これまで、トラック運転手には、車種別の手当だけが主流でしたが、トラック産業の近代化、組織性の向上をめざした場合、経験年数等による職責による職能給制度を導入することも必要になるはずです。
④固定給と変動給
トラック、タクシーなどのように、能率給(歩合給など)の賃金形態がとられ、それが賃金構成のうえで一定の比重を占めるようになると、固定給部門と変動給部門の区分が使われています。
固定給とは、定額賃金(時間賃金)=基本給、職能、職種給など、それに家族手当、住宅手当などの生活補助給、その他を含めたものです。変動給は、能率・歩合給と残業・休日出勤などの時間外労働の割増賃金を含めたものを指しています。つまり、出来高の具合、残業の有無・長短の程度で賃金額が変動するから、変動給というのです。
固定給、変動給の区分は、経営者の立場からすれば、労務コストの計算、収益などの計画のうえでも大事な経営指標ではありますが、労働組合の立場からは、時間外労働の割増賃金を含めて賃金水準を計ることになり、感心できません。
しかし、現実に歩合給部分が賃金構成のうえで、一定または相当部分を占め、時間外労働の割増賃金部分にも依存する状態では、現在の賃金総額で固定給部門の比重を高め、変動部分を縮小させる一指標として活用する必要はあります。