最近はUCIの6.8kgという重量制限を楽々と割り込んでしまう軽量バイクが続々と登場し、CERVELOの「S」シリーズやSPECIALIZEDのVENGE、SCOTTのFOILのように軽量化より空力を追求しようという傾向が見られるようになっています。こうしたバイクは0.1秒を競うプロのスプリンターにとっては大きなメリットがあることは間違いないのですが、アマチュアやホビーライダーにとっては、0.1秒の速さなど無縁の長物でしょう。そこで速さより快適性を重視したコンフォート系ロードバイクが登場することになるのです。
アップライトなジオメトリーや幅広のタイヤというのはホビーライダーが長い距離を走る上で重要な要素であることは確かですが、どこまで速度を犠牲にするかということとのバランスの取り方が非常に難しくなることも事実でしょう。例えば25km/h程度の速度でまったりと平地でクルージングを楽しみたいという方であれば、引張弾性率が高くない廉価カーボン糸を使用したモデルでも十分だと思います。価格の高いカーボンフレームは総じて引張弾性率が高いのでまったりと走りたい人には少し硬過ぎると感じるかもしれません。あまりトルクをかけない走りをするのなら剛性よりしなやかさを重視した方がいいと思います。が、30km/h以上の巡航速度やある程度のヒルクライムを考えるならあまり引張弾性率の低いカーボンフレームでは剛性が足りないと感じてしまうはずです。カーボン素材としては30t以上の引張弾性率を持つHM(ハイモジュラス)カーボンが理想でしょう。GIANTでいうならADVANCED SLクラス、PINALLEROならQUATTROの30HMクラス以上、CANNONDALEならハイモッドということになります。自転車メーカーは数多くありますが、カーボン素材を明らかにしているところは非常に少ないというのが実情です。勿論、カーボンフレームは素材が全てではありません。例えばGIANTのADVANCEDモデルは東レのT-700カーボンが原糸ですから、素材の分類からすればHMではありませんが、自社でプリグレブから製造する数少ないメーカーとしてのノウハウがHMクラスに匹敵する軽さと丈夫さを生み出しているのです。逆にカーボン素材を明確にしているPINALLEROですが、総じてフレーム重量が重いのが気になります。CANNONDALEやCERVELOが単体重量が600g台のフレームを発表しているというのに、PINALLEROのフラッグシップモデルであるDOGMAのフレーム重量は950gというのですから・・・
純粋なHMクラスのカーボンバイクの場合、フレームセット価格が40万円から50万円というのが相場で完成車になると70万円から80万円という価格になります。そういう意味では30HM12Kの完成車で298,000円というPINALLEROのQUATTROは安いと思ってしまいます。同じ105仕様の完成車でCANNONDALEのSYNAPSE CARBON5は279,000円、DEFY ADVANCED3は273,000円、SPECIALIZEDのROUBAIX ELITEは260,000円なのですから・・・これらのバイクに使用されているカーボンは純粋な意味でHMに分類されるものではありません。
今日、剛性を高めるためにBBを大口径化する傾向が強くなっているのですが、PINALLEROは非対称フレームに拘り続けています。2011年モデルからトップチューブの下位径を1.5インチにしていますが、BBの径はそのままの状態です。PINALLEROの設計思想はカーボンという素材に拘り、カーボンという素材を前面に打ち出しているように感じます。確かにBB径を太く大きくすることでチューブの素材をより薄くしても剛性を損なわないというメリットがあることは確かですから、軽量化を図るのであればBBの大口径化は避けられないのかもしれません。その一方で軽量化の為に薄くなったチューブは縦の剛性は強くても、横からの衝撃には非常に脆くなることも忘れてはいけません。その点、PINALLEROのバイクはカーボンの持つ引張強度が十分に活かせる設計になっていると思います。特にDOGMAなどのフラッグシップモデルに採用されている東レの60HM1Kカーボンは極限の力を受けても破断せずに曲がるというのですから驚きです。カーボンは金属ではありませんから、極限値を超えると破断や破砕するのがこれまでの常識だったのです。いかに軽量でもCERVELOのバイクの脆さや危うさとはある意味対極をなしていると感じています。
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