森選手が乳酸にかなり拘っているようだったので、少し調べてみました。「乳酸は疲労物質ではない」というのが現在の定説になっているからです。且つてはサイクルロードレース中継では毎日のように耳にしていた言葉のひとつが「乳酸」でした。もう10年以上も前のことです。それが、最近全く耳にすることが無くなっているのです。サイクルロードレース界で「乳酸」は最早疲労物質では無くなっているのです。
これは、科学的にも実証されていて、マラソンなどの持久系の競技ではレース後の乳酸値は高くないことが明らかになっているのです。筋グリコーゲン(糖)の分解時には乳酸も同時につくられます。乳酸は酸素の供給される活動や運動(日常生活動作やジョギングなど)よりも無酸素性の激しい運動(短距離走など)でより多くつくられますが、身体には乳酸を一旦中和させてから、ミトコンドリアで酸化してエネルギー源として再利用する働きがあるのです。
乳酸はエネルギー源として再利用されるのですが、クライマーにとって「パンプ」と呼ばれる状況があるようで、この「パンプ」の原因が「乳酸」だというのです。疲労して乳酸が発生すると、血管の外で体液が生成されて筋膜内の圧力が増加し、前腕がパンパンに張ってくる状況をクライミング界では「パンプ」と呼んでいるようです。
「パンプ」は「パンプアップ」のことで。もともとトレーニング用語のひとつだそうです。筋肉がパンパンに張って来ることを思い浮かべると良いのかもしれません。ある意味、体内に乳酸が極限まで溜まった状態といえるのかもしれません。やがて、ミトコンドリアで酸化してエネルギー源として再利用される前の状態なのでしょう。例えば50mダッシュを2回・3回と繰り返したり、自転車で激坂を登っていると脚がパンパンになり動かくなる状況を思い浮かべて下さい。
クライミングは自転車と同じ持久系スポーツだと思っていたのですが、大きな思い違いをしていたようです。クライミングは瞬発系の高負荷の要素があるスポーツでした。自転車競技ならヒルクライムレースに近いのかもしれません。常に重力に抗い続けるのは大変です。ヒルクライムでも「脚が売り切れる」という言葉がありますが、限界を超えると脚が動かなくなることを指します。クライミングでは腕がそうなのでしょう。
とはいえ、辛いからといって大好きなスポーツを辞めてしまう人はいないはずです。そこで、自分の乳酸発生閾値(LT値)を知ることをお勧めします。この乳酸が発生する運動量を知っておくことで、長くそのスポーツを楽しむことができるようになるはずです。
自転車の場合は心拍数で管理するのが一番手軽です。正確にはパワーメーターを使って脚への負荷を確認する必要もあるのですが、そもそもパワーが限れているホビーライダーには高値の花です。どのギアでどのくらいのケイデンスなら心拍数はこの位という目安を知っていれば、脚が売り切れることはないのですから。
クライミングにもLT値を上げない技術的要素があるようですが、それは森選手が言っていたように、体幹や足の踵を上手く使い、腕に係る負荷を軽減させることのようです。ボルダリングを苦手とする森選手はアスリートとしてのLT値があまり高くないのかもしれません。それが「乳酸との戦い」という言葉に現れていたのかもしれません。スポーツクライミングではボルダリングが瞬発系、リードは持久系のように見えますが、実はリードも立派な瞬発系の競技なのです。森選手の持つ攀じる力とスタミナはリードでより活かされるということなのでしょう。
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