電車道
夜の9時頃に
なんとなく散歩する
人通りのない電車道
空気が冷えてくると
よれよれのアスファルトに
だんだん近づいてくる
ハイヒール
コンなのかカンなのかケンなのか
若い歩幅がおいついてくる
コンコン カンカン ケンケン
昔 戀をしていた時
待ち焦がれたおとだ
戀をおいてきぼりにした今
コンカンケンをあつめて
コツコツ コツコツにビブラートがついて
いい音がするものだと
ほれぼれしていると
しせいのいい赤い薔薇が
おいこしていった
たちどまって
星の少ない夜空をみて
またビブラート付きのコツコツコツに
傾聴する
電車はこない電車道を
かたちだけ残っていた戀の手をひいて
道連れにしてあるく
ベートーヴェン・ピアノソナタ「月光」が
いいねえ きれいだねえ
ほんとうにそうでしょうかねえ