
獣害史上最大の惨劇・三毛別ヒグマ事件復元地。北海道 苫前町字三渓。
2022年6月21日(火)。
早朝、道の駅「はぼろ」から出発して、苫前(とままえ)町の三毛別(さんけべつ)羆(ひぐま)事件復元地を目指した。ナビに従い苫前市街地の北東を迂回して古丹別から三毛別へ進んだ。
5㎞手前に事件のヒグマを射殺した現場に近い、射止橋がある。この辺りの奥には現在は民家はない。
射止橋と三毛別川周辺。
射止橋と三毛別川周辺。
北海道のクマの恐ろしさを知ったのは、1996年に百名山を始めたときで、山での遭難事件の書籍を読んだときに、1970年7月、日高山系カムイエクウチカウシ山(略称カムエク)で起きた福岡大学ワンダーフォーゲル部の学生3人がヒグマに殺された事件が紹介されていた。テント内のザックの食料を狙ったクマから学生がザックを取り返して刺激したことが原因であり、一度獲ったエサへのクマの執着心が原因とされていた。
1999年ごろ、北海道の百名山のうち幌尻岳だけが未踏になったとき、ヒグマが多い区域と知った。そのころ、三毛別羆事件を扱った『羆嵐(くまあらし)』(吉村昭)を入手して読み、胎児をはらんだ女性が食われるという内容に衝撃を受けた。
その後、テレビでは数回アニメなどで紹介されたのを見ているので、最近は認知度も上がっているようだ。
車道は事件復元地が終点で、数百m前から未舗装になり、終点から先は閉鎖されている。
三毛別羆事件の現場近くにある石碑
なぜ被害者は女性と男児に限られていたのか…7人死亡の最悪獣害「三毛別事件」で未解決なこと(抜粋)
2022/11/11プレジデントオンライン 中山茂大 ノンフィクション作家・人力社代表
「日本最悪の獣害事件・三毛別事件の加害熊は、事件の前に『人間の味』を覚えた可能性がある。まず男児の味を知り、次に女性の味を覚えるといった風に、食の嗜好を変化させたのではないか」
熊は「以前に喰ったものをしつこく好む」
・大正3年 北竜村
明地勇(13) 男児 死亡 食害
・大正4年 深川村
谷崎シャウ(42) 女性 死亡 食害
谷崎武夫(18) 男性 重傷
・大正4年 苫前村太田家
蓮見幹雄(6) 男児 死亡
阿部マユ(34) 女性 死亡 食害
・大正4年 苫前村明景家
明景梅吉(当時1) 男児 死亡(3年後)
明景ヤヨ(34) 女性 重傷
長松要吉(59) 男性 重傷
明景金蔵(3) 男児 死亡 食害
斉藤春義(3) 男児 死亡 食害
斉藤巌(6) 男児 死亡 食害
斉藤タケ(34) 女性 死亡 食害
胎児(0) 不明 死亡
一見して明らかだが、食害されたのは男児と成人女性に限られている。一方、大人の男性は食害されていない。
「人間の女」に異常なまでの執着
三毛別事件の第1発見者である太田家の雇い人、長松要吉は、明景家に避難して熊に襲われた。だが、加害熊は彼に一撃を加えたのみで、深追いしなかった。明らかに「排除」が目的であり、加害熊は長松要吉を食物と見なさなかったのである。
また、谷崎武夫は18歳で、成人と男児の中間くらいの年齢だった。加害熊は、1年前に明地少年を襲い、男児の味を求めていた。そこで、加害熊は、男児に比較的近い年齢の谷崎武夫を襲う目的で出現した。しかし、谷崎武夫を襲う前に、逃げ遅れたシャウを手近な獲物として襲った。
そこで女性の味を知り、加害熊の嗜好は、「男児」から「女性」に変化したのではないか。
そのため、これ以降、加害熊は「女性」を最優先に狙い、その次に「男児」を狙うようになったと思われる。
加害熊が「人間の女」に異常なまでの執着を持っていたことは、吉村昭の『羆嵐』でも語られている。
また、『エゾヒグマ百科』には、次のような事実が確認されたという。
「また不思議なことに、どの農家も婦人用まくらのほとんどがずたずたに破られ、特に数馬宅では妻女アサノ専用の石湯タンポ(中略)を外まで引出し、つつみ布をズタズタにかみ切り、3キログラム余りの石をかみくだいてあった。(中略)ヒグマは最初に食害したものを好んで食おうとし、これを襲撃することが多く、この事件でも婦女をはじめ、婦女が使用した身の回り品にまで被害が及んでいる」(前掲『エゾヒグマ百科』)
動物のオスは「人間の女」を好む。筆者がネコを飼った経験からもそれは明らかである。
三毛別事件において、蓮見幹雄少年は食害されなかった。加害熊は家屋をのぞき込み、幹雄少年の姿を認め、捕食目的で押し入った。
少年を一撃し、いざ喰おうとした時、物音に気づいて阿部マユが顔を出した。熊はマユの姿を認め、「人間の女の匂い」を感じ取ったので、食害の対象を変えたのである。