引き返すタイミング逃した 木内登英・元日銀審議委員インタビュー
Yahoo news 2025/1/30(木) 時事通信
金子勝@masaru_kaneko
【失われたターニングポイント】2014年7~12月に開いた日銀の金融政策決定会合の全議事録が公表された。副作用を指摘する反論がたくさん出て、採決は5対4だった。そこで引き返すチャンスを失い、その後8年以上も金融緩和を続け、出口がなくなってしまったのだ。
【泥沼のアベノミクス】14年10月の日銀の金融政策決定会合の議事録が公開された。賃金が上がらないまま、法人税減税や金融緩和の拡大で結局、物価目標「2年で2%」は到達できなかった。アベノミクスの副作用を問題にする政策委員を排除していき、泥沼にはまったのだ。
【金利引上げ:3年後利払い費5割増】2024年12月に成立した24年度補正予算は一般会計で13.9兆円の歳出。大規模予算が続く。金利上昇は利払い費が3年後に5割増。日銀も金利が2%になると当座預金利払い増加で赤字になる。泥沼化したアベノミクスの罪は限りなく重い。
日銀は2014年下半期(7~12月)の金融政策決定会合の議事録を公表した。
野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは当時審議委員として10月31日の会合に臨み、量的・質的金融緩和(異次元緩和)の大幅拡大に反対票を投じた。木内氏はインタビューで「いたずらに長く続けると副作用も大きくなる。引き返すことができた重要なターニングポイントだった」と振り返った。主なやりとりは次の通り。
―異次元緩和の拡大に反対した。
14年前半まで物価は上昇したが、円安や原油高の影響が大きかった。異次元緩和の効果ではなく、円安が一巡すると物価が下がっていった。1年半やって物価が思ったように上がらないのは、政策の効果がないからだと考えた。それを長く続けたり、さらに拡大したりするのは副作用ばかりが高まると懸念した。
―どうすべきだったのか。
効果がないのであれば、政策の方向を変えるとか縮小するのが自然な形だ。引き返すことができた重要なターニングポイントだった。転換できていれば、(副作用の)傷はもっと浅かった。しかし、せっかくうまくいっていたものが、消費税増税で頓挫したと考え、もう一度エネルギーを充満してやろうというのが緩和拡大だった。
―異次元緩和の総括は。
長期金利をわずかに下げたくらいで効果はかなり限られた。財政規律の緩みを招いたことが、何十年先に財政危機につながるかもしれない。将来大きな副作用を生むリスクを考えると、それに見合わないリスクを取ったのではないか。
当時の審議委員2氏に聞く 緩和拡大は誤りだった 木内登英氏
2025年1月30日 日本経済新聞
木内登英氏、野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミスト。
2014年10月の金融政策決定会合は異次元の金融緩和から折り返す最後のチャンスだった。金融緩和の拡大は誤りだったと思っている。
せっかく金融緩和の効果が出ていたのに、消費税の引き上げや原油価格の下落で崩れたというのが追加緩和に賛成する主流派の見解だったが、間違いだ。その後も物価は2%に向けて上がったわけではない。
当時の執行部は期待に働きかけることが重要で、副作用を指摘することは期待を下げると考えていた。しかし、金融政策で副作用を議論しないのは道を外れている。
デフレを脱却するには金融政策より成長戦略や構造改革のほうが重要だ。こうした取り組みで経済の成長力が高まれば、自然利子率の水準を上げることができ、金融緩和の効果を発揮することができる。