その日も特に目的があるわけではなかった…。
用事のない時には…天気が良ければ毎週のように森へ入っていたから…ただ…のんびりと散歩に出掛けただけのことだった…。
森へと続く道の入り口付近は…今年の収穫をとうに終えた田んぼや畑…。
夏の賑わいも何処へやら…今は寒々とした刈り株の群れ…。
段々の畦道伝いに移動する…。 いつもの方向とは逆方向…。
林の際の…春には芹などが生える比較的低い湿地の方へと歩いて行く。
芹…と言っても…自分には毒ゼリと食用セリの区別がつかないので触らないようにしていた。
毒ゼリにはセリ特有の香りがないらしいが…香りがするから本物だとは思っても素人判断で食べるのは危険…見るに止める。
その点から言えば蕨・薇などは分かりやすくていい…。
間違って毒草を持ち帰る心配がないから…。
親父がこの丘陵の森を散策するのは…勿論…自然の中を歩くのが楽しいからではあるが…もうひとつ…来るべき春に備えてのことでもあった…。
春は芽吹き…下萌えの季節だから…こんな都市近郊の荒れた森でもそれなりに山菜の収穫が望めるので…その下見を兼ねて森のあちこちを見て回っているのだ…。
毎年のことだからたいして変わらないだろう…と思うのは間違いで…よくよく探すと…別のところに新しいものが生まれていたり…あると思っていたところが荒らされていたり…ちゃんと見ていないと森の恵には有り付けない。
天然もの目指して業者が結構立ち入るので…季節が来ると朝暗いうちから争奪戦が始まるのである…。
この湿地もそのひとつで…ここを越えた林の入り口付近に親父の取って置きの場所が幾つかある…。
ここはまだ…荒らされていない…。
素人紛いのひどい業者になると…次の年のことを考えないで…枝の途中からばっさり切ったり…根こそぎ抜いたり…めちゃくちゃな扱いをするので…森もだんだんに荒れてくる…。
そういう連中には無性に腹が立つ…。
大事にすれば…後から来る人たちも十分楽しめるのに…。
親父が…取って置きの無事を確認していた時…自分は何気なく林の外の自分の背よりちょっと高いくらいの藪のあたりに眼をやった…。
あれ…?
藪の上の方にころころとした実がくっついている…。
くっついているというよりは…藪に絡まった蔓からぶら下がっていると言うべきか…。
前に来た時には…全然気付かなかったんだけど…。
林の木よりずっと低い藪の木々の枝に蔓を絡ませ…あけびの実が生っていた…。
あけびの実は種類が異なると色も違ってくるけれど…これは少し赤茶っぽい…。
ぱっくりと口を開けて…種を含んだ白いところが見えた。
皮の具合から少し熟し過ぎかな…とも思ったけれど中身はしっかりしていて…食べてみるとまだまだ大丈夫…。
あけびはほとんどが種で…周りの甘いところはほんの少し…。
食べ慣れないと食べにくい…。
それでも自然の甘みはすっきりとしていて…舌に嫌な後味は残らない…。
いくつか採ってほくほくしながら親父を呼ぶ…。
親父も嬉しそうに…森のおやつを採り始めた…。
ふたりで持てるだけ採った…。
今日の収穫…みつばあけび…ちょっと小さめ…。
友だちにもあげようとしたのだが気味悪がられた…。
見慣れない人にはグロテスクに思えるらしい…。
やまひめと呼ばれるくらい愛らしい実なのに…なぁ…。
美味しいのに…。
いま…スーパーで売っている紫色のものとは全然違う色…。
山のあけびを見ている自分はスーパーのあけびに驚いた…。
なんていうか…綺麗過ぎ…薄紫の飴細工のよう…。
買っていくのは…どんな人だろう…?
懐かしい味を求める中高年なのかなぁ…?
子供たちは…どうだろう…?
食べやすい甘いお菓子や果物が食卓に溢れている時代だから…こんな種ばかりの実には興味がないかな…?
どんな美味しいお菓子でも果物でも…いつでも手に入るものは記憶には残らない…。
種ばかりでもその実の甘さは…親父との懐かしい思い出の味…。
消えてしまった森の味…。
用事のない時には…天気が良ければ毎週のように森へ入っていたから…ただ…のんびりと散歩に出掛けただけのことだった…。
森へと続く道の入り口付近は…今年の収穫をとうに終えた田んぼや畑…。
夏の賑わいも何処へやら…今は寒々とした刈り株の群れ…。
段々の畦道伝いに移動する…。 いつもの方向とは逆方向…。
林の際の…春には芹などが生える比較的低い湿地の方へと歩いて行く。
芹…と言っても…自分には毒ゼリと食用セリの区別がつかないので触らないようにしていた。
毒ゼリにはセリ特有の香りがないらしいが…香りがするから本物だとは思っても素人判断で食べるのは危険…見るに止める。
その点から言えば蕨・薇などは分かりやすくていい…。
間違って毒草を持ち帰る心配がないから…。
親父がこの丘陵の森を散策するのは…勿論…自然の中を歩くのが楽しいからではあるが…もうひとつ…来るべき春に備えてのことでもあった…。
春は芽吹き…下萌えの季節だから…こんな都市近郊の荒れた森でもそれなりに山菜の収穫が望めるので…その下見を兼ねて森のあちこちを見て回っているのだ…。
毎年のことだからたいして変わらないだろう…と思うのは間違いで…よくよく探すと…別のところに新しいものが生まれていたり…あると思っていたところが荒らされていたり…ちゃんと見ていないと森の恵には有り付けない。
天然もの目指して業者が結構立ち入るので…季節が来ると朝暗いうちから争奪戦が始まるのである…。
この湿地もそのひとつで…ここを越えた林の入り口付近に親父の取って置きの場所が幾つかある…。
ここはまだ…荒らされていない…。
素人紛いのひどい業者になると…次の年のことを考えないで…枝の途中からばっさり切ったり…根こそぎ抜いたり…めちゃくちゃな扱いをするので…森もだんだんに荒れてくる…。
そういう連中には無性に腹が立つ…。
大事にすれば…後から来る人たちも十分楽しめるのに…。
親父が…取って置きの無事を確認していた時…自分は何気なく林の外の自分の背よりちょっと高いくらいの藪のあたりに眼をやった…。
あれ…?
藪の上の方にころころとした実がくっついている…。
くっついているというよりは…藪に絡まった蔓からぶら下がっていると言うべきか…。
前に来た時には…全然気付かなかったんだけど…。
林の木よりずっと低い藪の木々の枝に蔓を絡ませ…あけびの実が生っていた…。
あけびの実は種類が異なると色も違ってくるけれど…これは少し赤茶っぽい…。
ぱっくりと口を開けて…種を含んだ白いところが見えた。
皮の具合から少し熟し過ぎかな…とも思ったけれど中身はしっかりしていて…食べてみるとまだまだ大丈夫…。
あけびはほとんどが種で…周りの甘いところはほんの少し…。
食べ慣れないと食べにくい…。
それでも自然の甘みはすっきりとしていて…舌に嫌な後味は残らない…。
いくつか採ってほくほくしながら親父を呼ぶ…。
親父も嬉しそうに…森のおやつを採り始めた…。
ふたりで持てるだけ採った…。
今日の収穫…みつばあけび…ちょっと小さめ…。
友だちにもあげようとしたのだが気味悪がられた…。
見慣れない人にはグロテスクに思えるらしい…。
やまひめと呼ばれるくらい愛らしい実なのに…なぁ…。
美味しいのに…。
いま…スーパーで売っている紫色のものとは全然違う色…。
山のあけびを見ている自分はスーパーのあけびに驚いた…。
なんていうか…綺麗過ぎ…薄紫の飴細工のよう…。
買っていくのは…どんな人だろう…?
懐かしい味を求める中高年なのかなぁ…?
子供たちは…どうだろう…?
食べやすい甘いお菓子や果物が食卓に溢れている時代だから…こんな種ばかりの実には興味がないかな…?
どんな美味しいお菓子でも果物でも…いつでも手に入るものは記憶には残らない…。
種ばかりでもその実の甘さは…親父との懐かしい思い出の味…。
消えてしまった森の味…。