徒然なるままに…なんてね。

思いつくまま、気の向くままの備忘録。
ほとんど…小説…だったりも…します。

続・現世太極伝(第百八話 完全なる消滅)

2007-01-09 00:00:20 | 夢の中のお話 『続・現世太極伝』
 公園の東屋の辺りに集まっていた能力者たちの前に…有や相庭を伴って宗主が姿を現したのは…ちょうどそのころだった。
公園の能力者たちも…本部や支部の能力者たちもグループ分けされて交代で空間維持に加勢していた。

 「HISTORIANのボスが自らご出陣とは…ね。
こんな小さな島国を取るためにわざわざ…何故だろうな…? 」

相庭がそう呟いた…。

 「理由は分からんが…この件に関しての奴等の目的が最初からこの国だったことは確かだ…。 」

有がそう答えた…。

 「怜雄くんがここに居れば…何らかの巧い説明を付けてくれるのでしょうが…。
おそらく…この国の知られざる歴史によるものではないかと…。 」

視線がその声の方に集まった。
声の主は紅村旭だった。
先程まで空間維持に専念していたのだが…交代時間になったようだ

 「知られざる…歴史…ねぇ…。 」

宗主はそう呟きながら…にっこりと笑った。

 「今し方…花木桂さんとも意見を交わしたのですが…。
仮に縄文よりさらに古い文明が…それもかなり高度な文明が存在した…として考えて見ますと…。

 もし滅びた彼等の国がその頃ここにあった…或いはこの地と近しい関係にあったとするならば…彼等がここを欲しがったとしても頷けるのではないかと…。

彼等の目的は…過去の栄光を取り戻すことにあるのでは…。 」

紅村はそう語りながら花木と顔を見合わせた。
花木も同意するように宗主に向かって頷いた。

 「過去の栄光…か…。 そうだとすれば…愚かなことだな…。
振り返って反省しようというのであればともかくも…性懲りもなく同じ過ちを繰り返そうなどと考えるのはね…。 」

ま…それもこれもプログラムの為せる業かも知れんが…。
宗主は小さく溜息をついた…。



 ノエルの中に取り込まれた亮の力はそのままノエルの力と同化した。
空間を支えているフレームはふたりの力を得てほぼ安定し…空間壁に対する攻撃にも簡単に揺らぐことはなくなった。

 滝川が屈指の能力者のひとりとして勇猛果敢に戦う姿を見るのも初めてなら…玲人がそれに劣らない能力者っぷりを十二分に発揮していることにも唯々驚くばかり…。
まるで別人みたいだ…とふたりは思った。

 「あぁ…もう…! ごちゃごちゃと…鬱陶しい…!
恭介…全部…ぶっ飛ばしちゃっていいか…? 」

焦れた西沢が苛々しながら滝川に訊いた…。

とんでもない…!

滝川はぞっとした…。
どうやら…今の西沢の目にかろうじて仲間として映っているのは滝川の姿だけのようだ…。 

 「紫苑…紫苑…頼むから一気にやるのは止めてくれ…。
下手すりゃ…仲間も一緒に飛んじゃうぜ…。 」

今にも動き出しそうなのを慌てて止めた…。

 「んじゃ…まとめ撃ちで…。 なぁ…いいだろ…?
大丈夫だって…殺しゃしない…。 」

 顔はにんまりしているけど…眼が…本気…。
だめだ…これ以上は抑えられない…。

 「紫苑…紫苑…ちゃんと手加減しろよ…。
下っ端の奴等はいいように使われているだけなんだ…。
HISTORIANの能力だけを消すんだぞ…いいな…絶対…殺すな…。 」

滝川はなんとか条件を付けた…。 
が…聞いているのかいないのか…西沢はすぐに行動に出た。

まず…金井に集っている連中を狙った…。

 「金井…伏せろ! 」

滝川の声が金井の脳に響いた。
反射的に身を屈めた金井の頭上で何かが閃いた…。
上からHISTORIANたちの身体が重なるように倒れこんできた。

危ねぇ…間一髪だぜ…。

 滝川はほっと胸を撫で下ろした…。
意識を失った連中の下から…もそもそと這い出てきた金井を見ながら西沢は愉快そうに笑っている…。

やっぱ…何も聞いてねぇし…。

 今度は玲人の方に眼を向けた…。
『時の輪』の姿を見つけると急に表情が険しくなった。
 おまえは…唯じゃおかない…そんな雰囲気だ…。
どう料理してくれようか…と舌舐めずり…。

 「玲人…狙ってるぞ! そいつのためだ…さっさと倒しちゃえ! 」

 まずい…非常にまずい…チラッと西沢の表情を見て玲人は焦った…。
何しろ『時の輪』は西沢やノエルに挑発や嫌がらせを繰り返した張本人だ…。
許してやろうなんて気持ちは万に一つも期待できない…。

 その指から青の焔が容赦なく放たれた時…まるで肩透かしを食わせるかのように『時の輪』の身体が地面に沈んだ…。
青の焔は壁に激突…念の壁面に風穴を開けた…。

 感謝しろよ…おっさん…。 青の焔にあたったら命がないんだから…。
何とか間に合った…玲人は汗を拭ってほっと溜息をついた。

 チッ!…と如何にも残念そうに西沢は舌打ちした…。
代わりに玲人を取り囲んでいた下っ端の連中を片っ端から唯の人に変え…向かってくる相手には容赦なく反撃…。

 それでも…明らかに…暴れ足りない…。
蓄積された力の放出が思うように進まなくて欲求不満…。

 仲間が次々と倒されて唯の人…にされていくのを見て…老人は危機感を抱いた。
このままでは…組織の存続自体が危ぶまれる…。
 この町に呼び寄せた者たちは少人数であるとはいえ…組織の中でもそれなりに力を認められた者たちばかりだ。
それを潰されたのでは…。

その時…何を思ったか少年が滝川に襲い掛かった。

 こいつを消せば…西沢は自滅する…。 
西沢にとっての制御装置なんだ…。
自滅しろ西沢…己の中の魔物に食われてしまえ…!

そんな声が滝川の耳に届いた…。

馬鹿野郎…!
紫苑を舐めてんじゃねぇ…。
そんなことをすれば…お前らの方が自滅するぞ…。
滝川は顔を顰めた。

 老人が少年に加勢した…。
そうだ…こいつが西沢の弱点だ…。
滝川というこの男さえ…居なければ…。

 手足れの老人…はともかく…滝川としては少年の方に梃子摺った…。
少年は…まだ中学生になったかならないかくらいの子供…行いが悪いからといって叩きのめすわけにもいかない…。

 けれども…この少年の持つ力は並じゃない…。
油断すればこちらがやられる…。
滝川が少年への反撃を躊躇しているのをいいことに…攻撃はますますエスカレートしていった。

 安定した…と思われた空間が今までよりさらに大きく揺らぎだした…。
本部でも公園でも何人もの能力者が突然の大きな動きについて行かれず投げ出された…。

 金井も玲人も新たな敵に囲まれていたが…その揺らぎはそこに立っている者をすべて薙ぎ倒した…。
その場に腰を下ろしていたノエルや亮も例外ではなく…地表に転げた。

 「紫苑さん…ってば…空間を弄っちゃだめだよぉ…。 
亮のお蔭でやっと安定したのにぃ…! 」

ノエルは半べそ掻きながらも何とか起き上がった…。

とにかく立て直さなきゃ…。

崩れかかっているフレームを再生し始めた…。
もう一度ノエルの手を取って…亮が力を送った…。

 老人と少年に滝川を任せておいて…族長に化けた男は西沢に攻撃を仕掛けた…。
HISTORIANを率いているその力は…確かに群を抜いたもので…幾重にも頑丈に補強された念の空間壁を容赦なく叩き壊した…。

 祥に率いられた連携組織や公園に集まった仲間たちの後押しがなければ…ノエルも亮も耐えられなかったかも知れない…。

 それほどの力を向けたにも関わらず…西沢は男の方には見向きもしなかった…。
男の攻撃は撥ね返されるか…吸収されるか…いずれにしても西沢に何のダメージも与えない…。

 西沢が狙いをつけていたのは…滝川を攻撃しているふたり…。
男は焦った…。
 西沢の持つ能力の特性が男にはまったく理解できなかった…。
男の周りにそんな能力を持つ者はなく…話にも聞いたことはなかった…。

 「切れた紫苑にいくら攻撃しても…無駄だぜ…。 
紫苑は…普通じゃねぇんだよ…。
俺と同じ…滅のエナジー…この一族だけが持つ特性さ…。

 なあ…いい加減に眼を覚ましたらどうだ…?
俺がこの身体に宿っている理由を…思いつかないか…? 」

戸惑う男に…西沢の中の魔物がさらに語りかけた…。

 「理想の国を手に入れるなどと…くだらないことはこれきりにして…本当に世の中の役に立つことを考えろ…。

この世はすでに滅びに向かっている…。
おまえたちが馬鹿なことをしでかすたびに…それは近付く…。

これまで何度も繰り返してきたことだろう…?

 だが…これ以上は繰り返せない…。
もし…滅びを食い止めることができなければ…我々には最早…人間をひとりとして残しておく意思はない…。

 この国の能力者たちは…それを真剣に受け止めている…。
食い止めようと必死なのだ…。 」

 何を馬鹿な…と男は思った…。
理想の国家を目指すたびに現れて…すべてをぶち壊しにするのはおまえの方じゃないか…と…。

 HISTORIANはこの世を救うためにある…。
我々が全世界を統治すれば…すべての者が幸福になれる…。
 この国はその足がかり…。
ここには…それを実現するだけの科学力も…経済力もある…。

 この国が美しく幸福な姿に変貌すれば…世界が注目する…。
誰もがこの理想郷を目指すようになるだろう…。

 「性懲りもなく…過ちを繰り返すか…。 哀れな奴だ…。 
俺は忠告したぞ…。 忠告なんぞ…する必要もないことだがな…。

滅びを招くものよ…。 おまえは創造主の裁きを受けるのだ…。
我々…エナジーはおまえを見放した…。 」

 空間のあちらこちらが不気味に輝き始めた…。
がやがやと…音とも声とも付かぬものが反響する…。

 「エナジーたちが集まってきた…。 」

気配を感じ取ったノエルがそう呟いた…。
ノエルと亮が支えているフレームと能力者たちの作り出した壁を覆うように更に強固なエナジーの壁が張り巡らされた…。

 エナジーたちがフレームを支え始めたせいか…負担が軽減されてノエルと亮の身体が急速に楽になってきた…。

 「紫苑…暴れて良いぞ…。 あの方のお許しも出たことだし…。 」

あの方のお許し…だって…? 滝川は辺りを見回した…。
確かに空間の壁はずっと頑丈になっている…。
何が起きても大丈夫そうなほど…。

紫苑が暴れるのを僕が止めないように先手を打ったか…。

 「玲人…金井…ノエルと亮の傍へ走れ…。 
ふたりの近くが一番安全だ…。 」

滝川の指示でふたりはノエルの傍へ向かった。

 滝川がそんなことに気を取られた隙に…老人がフルパワーで滝川を攻撃した。
さすがの滝川も避けそこね…激しく地面に叩き付けられた。

 「チッ! 今のは効いたぜ…って…危ない! 」

身を起こしながら滝川が思わずそう叫んだ時…老人の全身を青の焔が覆った…。

さながら地獄の業火に焼かれる罪人のよう…。
その場の者すべてに戦慄が走った…。

 全身を炎に覆われているのに…身体が焼けているわけではない…。
苦悶の表情がその責苦を物語っているというのに…何がどうなっているのかも見た目には分からない…。

 「完全なる死…。 」

玲人がぼそっと呟いた…。

 「裁きの一族の宗主に伝わる力だ…。 
燃えているのは…奴の魂…この世もあの世もなく…完全に消滅する…。 」

相手方はおろか…仲間たちでさえ…それを聞いてぞっとした…。

 炎が燃え尽きた時…魂の消えた骸は…その場に空しく転がった…。
肉体に傷ひとつ遺さない…その不可思議な死の有様を…誰もが言葉もなく見つめていた…。






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