雨の音が聞こえる…やたら大きく響いてくる…。
幾千億の雨粒が地表に降り注ぐ刹那の音…。
マンションに居た時にはまるで聞こえなかった雨だれの音…。
ぼんやりと天井を見つめながら…聞くともなしに聞いている…。
今夜は…毛布でもよかったかな…。
長袖のパジャマを着ているのに…妙に…薄ら寒い…。
雨で外気が冷やされたせいだろうか…。
或いは…そう感じるだけ…かもしれない…。
隣に眠るはずのノエルの身体が…そこにない…。
腹までを覆っていた肌掛けを首まで引っ張り上げた…。
そんなことはこれまでにも幾度となくあった。
結婚してからもずっとノエルは木之内の家とマンションを頻繁に行き来していたのだし、子供部屋で子供たちと一緒に眠ることも少なくなかった。
これまでノエルがそこに居ようと居まいと、それほど意識したことはない。
ひと晩ふた晩姿がなくても…必ず…この場所へ戻ってくることが分かっていたから…。
今は…いつ…その時が来るのか…と…その不安に苛まれている…。
最早…避けられない…すでに秒読み段階…。
今日か…明日か…明後日か…。
迷っているようなら…こちらから先に背中を押してやるべき…なんだろう…。
そう約束したんだから…。
分かってはいるが…躊躇してしまう…。
西沢の許からノエルが旅立つ時…それは西沢がひとり残される瞬間…。
薄皮の張った心の傷が…パックリと口を開く…。
西沢の中の小さな紫苑が悲鳴をあげる…。
要らない子…。
小刻みに身体が震え出す…。
違う…!
状況が変わっただけなんだ…!
少し間を空けて…滝川が寝ている…。
祥から強引に買い取った部屋が、この屋敷内に二部屋あるというのに、相変わらず西沢のベッドの反対側を占領している滝川…。
寝返りを打つと同時に目を覚まし、西沢の異常に気付いた…。
それほど冷えてもいないのに肌掛けで顔半分くらいまですっぽり覆っている…。
「紫苑…? 」
飛び起きて…西沢の状態を調べた…。
こういう時の西沢は発熱していることが多い…。
それも我慢を重ねた上で高熱を出していることもしばしば…。
けれど…これという病の兆しは…何処にも見当たらなかった…。
滝川はほっと安堵の息を洩らした…。
「あんまり…思い詰めるな…。
立場は変わっても…ノエルがここで暮らすことには変わりないんだ…。
それに愛情が無くなったわけじゃ…ないんだから…。 」
そっと西沢の髪をなでてやりながら…そんな優しい言葉を投げかけた…。
慰めにもなりゃぁしないな…。
内心…そう思いながらも…。
「分かってる…端から覚悟してたことだもの…。
分かってるけど…さ…。
僕の中の…4歳の紫苑が怯えてるんだ…。
母が逝ってしまったあの時のように…置き去りにされることを怖れている…。
いつまで経っても…頭から消えてくれない…言葉のせいで…。 」
いい加減…うんざりだ…と西沢は呟いた…。
悲しみが心に触れるたびに…甦る呪われた言葉…。
解けない呪縛に苛立ちを覚えるものの…どうすることもできないでいる…。
「でもな…紫苑…祖父さんと祥さんに消された記憶が戻ってからは…随分と良くなったじゃないか…。
あれからずっと…安定した状態を保っている…。
それも自力で制御できているんだぜ…。
記憶の修復パニックもまったく起きなくなったしな…。 」
西沢のすぐ傍に身を寄せて横になり、軽く身体を擦ってやる…。
大きな事件がないからさ…。
西沢はそう言って溜息をついた…。
それに…恭介が必ず傍に居るからだ…。
もし、エナジーたちの勧めに従って子を生せば、その子は西沢の力を引き継ぐ吾蘭の制御装置になると知り、躊躇いもせずに滝川が選んだ道…。
それまで同族扱いの要人という不安定な立場だった滝川は、慧勠の誕生によって正式に裁きの一族の滝川姓初代として迎え入れられた。
が…同時に滝川本家との架け橋として重責を担うことにもなってしまった…。
「恭介が居るから安心して居られるんだ…。
僕の暴走を止めてくれる…。
心強いけれど…申しわけないとも…思う…。 」
幾度となく…繰り返される溜息…。
己の弱さゆえに、滝川という男の人生を犠牲にさせてしまった…。
そういう思いが未だ西沢の胸から消えない…。
まだ…そんなことを…。
滝川の方が溜息をつきたくなる…。
「何言ってんだよ…。 僕は最高に幸せだぞ…。
怜雄の妹…可愛い紫苑ちゃんを嫁さんにするのが小学校の時からの夢だった…。
紫苑と一緒に暮らしている今は夢が叶ったのと同じだ…。
ちゃんと子供まで居るんだぜ…。 」
ふたりの愛の結晶だろぉ…。
嬉しそうな滝川の声に西沢の頬は引きつった…。
臍の辺りがむずむずするような…あの甘ったるい声…。
誰だよ…ふたり…って…。
西沢がわざと不機嫌な口調で応える。
まっ…そういうことだから…お構いなく…。
クックッと喉を鳴らして…滝川は心から楽しげに笑った…。
「勝手に…幸せに浸っとけ…。 」
そう言って…西沢は滝川に背を向けた…。
ふっと軽く鼻を鳴らして…滝川はまたそっと西沢の頭を撫でてやる…。
優しく肩を抱いて温めてもやる…。
西沢の中の幼い紫苑が永久に失ってしまったもの…を…僅かでも取り戻すことができるように…。
滝川の肌の温もりを背中に感じながら…4歳の紫苑は眠りにつく…。
叩きつけるような雨の攻撃で窓の外が滲んで見える…。
街灯の明かりもぼやけて歪む…。
ここからほんの少しだけ見える家の灯り…ガラス越しに様子を窺っている…。
「もし…だめになっても…今までと何が変わるわけじゃないんだ…。 」
まるで自分自身に言い聞かせるかのようにノエルはひと言ひと言に力を込めた。
「同じ屋根の下に居て…アランたちを育てていくんだから…。 」
それでも唇をへの字に曲げてしまうのは…どこかに納得できない自分が居るから…。
「なにもさぁ…そんなに深刻に考えることないんじゃないか…? 」
呆れたように亮が言った。
「ノエルと紫苑の場合は…親兄弟や仲間の前で…結婚します…って宣言しただけなんだから…そのまま自然消滅だって有りだろ…?
書類上の契約を交わして役所へ届け出た…ってわけでもないんだし…。 」
届出なんて出来るわけもなかった…。
ノエルは戸籍上は男…両方の機能を持つと分かったのは16になってからだ…。
そのことで父智哉とトラブルになり…悩み苦しんだ挙句…家を飛び出して西沢のマンションに転がり込んだ…。
結婚という形は行き場のないノエルに居場所を与えるための…西沢の考え出した方便に過ぎない…。
「紫苑はさ…最初っから覚悟してたよ…。
いつかは…ノエルが本当の居場所を見つけて…自分のもとを離れていく…って…。
仕方ないじゃないか…その時が来たんだよ…。 」
ノエルの受けた心の傷をを癒すために、西沢がノエルの仮の居場所になる決心をしたと知った時、亮は、自分なら別れを前提にした結婚なんてできないと思った…。
生涯を共にしたいから結婚するんじゃないのか…とも…。
そんなんで…幸せだったのかなぁ…紫苑は…?
亮の脳裏にふとそんな疑問が浮かんだ…。
だいたい…ノエルが子供を産むなんて紫苑だって考えてもなかったろうさ…。
子供が生まれたことで…仮想現実みたいな夫婦の在り方が一変してしまったんだ…。
それがなけりゃ…ふたりの関係なんて…とっくに終わってるかもな…。
「それにだ…今までだって…ノエルには結婚してるなんて意識なかったろ…? 」
亮にそう言われて…ノエルは驚いたように目をパチクリさせた…。
「あ~っ…そうじゃん…そんな意識…全然なかった…。
紫苑さんの傍にずっと居てもいい…ってのが…やたら嬉しかっただけで…。
だいたい…結婚…って端っから…よく分かんなかったし…。
…んじゃ…このイライラはなんなんだ…? 」
夫婦じゃなくなる…ということ以外…何処がどう変わるということもない関係…。
それなのに…どうしようもない焦燥感に駆られてしまう…。
ならば…これまではどうだったか…といわれると…夫婦とは名ばかりだったような…。
「自分の居場所であるという証…が…なくなるから不安なんだよ…ノエルはね…。
紫苑の方は…存在する意味…がひとつ減る…そういうこと…。
紫苑にとっちゃ…最大の恐怖だよな…要らない子…になるっていうのは…。 」
…それでも…それが分かっていても…紫苑はノエルに手を差し伸べた…。
自分と同じように…存在の意義に苦しむノエルを放ってはおけなかったんだ…。
「げげっ…だよね~…どうしよう…亮…?
僕ってば…いつも紫苑さんに悪いことばっかりしてるよね~…。
大丈夫かなぁ紫苑さん…また…暴発しちゃわないかなぁ…? 」
慧勠を産んだ後に女性の機能が失われた…という現実は、生まれた時から男として育ってきたノエルにとってはまさに願ったり叶ったりの好転だから、西沢との関係に不安はあっても気持ちにはまだ余裕がある…。
「そんなの…心配ないって…ちゃんと…滝川先生がついてるし…。
それより…ノエル…女性機能停止状態になってから…あいつら来ないんじゃない…? 」
あいつら…とは意思を持つエナジーたち…そういえば…とノエルは思った。
慧勠を産んでからは、太極にも、他のエナジーたちにも会っていない…。
勿論…この世の何処にでも混在するエナジーたちだから…今この時点でもノエルの中にも周りにも居るには違いないが…久しく言葉を交わしていない…。
「次世代…をすべて産み終えたから…もう用済みになっちゃったのかな…僕…。
それならそれで…さよならくらい言って欲しかったよな…。 」
不満げに唇を尖らせるノエルを見て…亮は思わず噴出した…。
「ノエル…ほんの数年前まではあいつら敵だったんだぜ…。
僕らふたりとも殺されかけたんだからな…。
紫苑なんか僕らを庇って…もう少しで命落とすとこだったんだ…。
そんな極限状態だったってのに…すっかり頭にないんだね…。 」
一時は人間の殲滅を図ったエナジーたち相手に完全に御友達状態のノエル…。
大らかというか脳天気というか…。
エナジーたちの言動を何の疑いもなく受け入れることなど…未だ亮にはできない…。
何時また…人間に牙をむくかも分からない相手なのだ…。
「それは…そうなんだけど…太極にはいっぱい助けて貰ったし…他の連中だって…決して悪い奴じゃないんだ…。
エナジーたちと話ができなくなるのはちょっと…寂しい気がするなぁ…。 」
少しばかり悲しそうに…小さな溜息を洩らした。
本来…人間が関わるべき相手でないことは百も承知だけれど…それでも関わってしまった以上は…別れのひと言くらいは交わしたかった…。
勝手に使われて無言のまま御払い箱かぁ…。
そう考えると…なんだか妙に切ない気がした…。
次回へ
幾千億の雨粒が地表に降り注ぐ刹那の音…。
マンションに居た時にはまるで聞こえなかった雨だれの音…。
ぼんやりと天井を見つめながら…聞くともなしに聞いている…。
今夜は…毛布でもよかったかな…。
長袖のパジャマを着ているのに…妙に…薄ら寒い…。
雨で外気が冷やされたせいだろうか…。
或いは…そう感じるだけ…かもしれない…。
隣に眠るはずのノエルの身体が…そこにない…。
腹までを覆っていた肌掛けを首まで引っ張り上げた…。
そんなことはこれまでにも幾度となくあった。
結婚してからもずっとノエルは木之内の家とマンションを頻繁に行き来していたのだし、子供部屋で子供たちと一緒に眠ることも少なくなかった。
これまでノエルがそこに居ようと居まいと、それほど意識したことはない。
ひと晩ふた晩姿がなくても…必ず…この場所へ戻ってくることが分かっていたから…。
今は…いつ…その時が来るのか…と…その不安に苛まれている…。
最早…避けられない…すでに秒読み段階…。
今日か…明日か…明後日か…。
迷っているようなら…こちらから先に背中を押してやるべき…なんだろう…。
そう約束したんだから…。
分かってはいるが…躊躇してしまう…。
西沢の許からノエルが旅立つ時…それは西沢がひとり残される瞬間…。
薄皮の張った心の傷が…パックリと口を開く…。
西沢の中の小さな紫苑が悲鳴をあげる…。
要らない子…。
小刻みに身体が震え出す…。
違う…!
状況が変わっただけなんだ…!
少し間を空けて…滝川が寝ている…。
祥から強引に買い取った部屋が、この屋敷内に二部屋あるというのに、相変わらず西沢のベッドの反対側を占領している滝川…。
寝返りを打つと同時に目を覚まし、西沢の異常に気付いた…。
それほど冷えてもいないのに肌掛けで顔半分くらいまですっぽり覆っている…。
「紫苑…? 」
飛び起きて…西沢の状態を調べた…。
こういう時の西沢は発熱していることが多い…。
それも我慢を重ねた上で高熱を出していることもしばしば…。
けれど…これという病の兆しは…何処にも見当たらなかった…。
滝川はほっと安堵の息を洩らした…。
「あんまり…思い詰めるな…。
立場は変わっても…ノエルがここで暮らすことには変わりないんだ…。
それに愛情が無くなったわけじゃ…ないんだから…。 」
そっと西沢の髪をなでてやりながら…そんな優しい言葉を投げかけた…。
慰めにもなりゃぁしないな…。
内心…そう思いながらも…。
「分かってる…端から覚悟してたことだもの…。
分かってるけど…さ…。
僕の中の…4歳の紫苑が怯えてるんだ…。
母が逝ってしまったあの時のように…置き去りにされることを怖れている…。
いつまで経っても…頭から消えてくれない…言葉のせいで…。 」
いい加減…うんざりだ…と西沢は呟いた…。
悲しみが心に触れるたびに…甦る呪われた言葉…。
解けない呪縛に苛立ちを覚えるものの…どうすることもできないでいる…。
「でもな…紫苑…祖父さんと祥さんに消された記憶が戻ってからは…随分と良くなったじゃないか…。
あれからずっと…安定した状態を保っている…。
それも自力で制御できているんだぜ…。
記憶の修復パニックもまったく起きなくなったしな…。 」
西沢のすぐ傍に身を寄せて横になり、軽く身体を擦ってやる…。
大きな事件がないからさ…。
西沢はそう言って溜息をついた…。
それに…恭介が必ず傍に居るからだ…。
もし、エナジーたちの勧めに従って子を生せば、その子は西沢の力を引き継ぐ吾蘭の制御装置になると知り、躊躇いもせずに滝川が選んだ道…。
それまで同族扱いの要人という不安定な立場だった滝川は、慧勠の誕生によって正式に裁きの一族の滝川姓初代として迎え入れられた。
が…同時に滝川本家との架け橋として重責を担うことにもなってしまった…。
「恭介が居るから安心して居られるんだ…。
僕の暴走を止めてくれる…。
心強いけれど…申しわけないとも…思う…。 」
幾度となく…繰り返される溜息…。
己の弱さゆえに、滝川という男の人生を犠牲にさせてしまった…。
そういう思いが未だ西沢の胸から消えない…。
まだ…そんなことを…。
滝川の方が溜息をつきたくなる…。
「何言ってんだよ…。 僕は最高に幸せだぞ…。
怜雄の妹…可愛い紫苑ちゃんを嫁さんにするのが小学校の時からの夢だった…。
紫苑と一緒に暮らしている今は夢が叶ったのと同じだ…。
ちゃんと子供まで居るんだぜ…。 」
ふたりの愛の結晶だろぉ…。
嬉しそうな滝川の声に西沢の頬は引きつった…。
臍の辺りがむずむずするような…あの甘ったるい声…。
誰だよ…ふたり…って…。
西沢がわざと不機嫌な口調で応える。
まっ…そういうことだから…お構いなく…。
クックッと喉を鳴らして…滝川は心から楽しげに笑った…。
「勝手に…幸せに浸っとけ…。 」
そう言って…西沢は滝川に背を向けた…。
ふっと軽く鼻を鳴らして…滝川はまたそっと西沢の頭を撫でてやる…。
優しく肩を抱いて温めてもやる…。
西沢の中の幼い紫苑が永久に失ってしまったもの…を…僅かでも取り戻すことができるように…。
滝川の肌の温もりを背中に感じながら…4歳の紫苑は眠りにつく…。
叩きつけるような雨の攻撃で窓の外が滲んで見える…。
街灯の明かりもぼやけて歪む…。
ここからほんの少しだけ見える家の灯り…ガラス越しに様子を窺っている…。
「もし…だめになっても…今までと何が変わるわけじゃないんだ…。 」
まるで自分自身に言い聞かせるかのようにノエルはひと言ひと言に力を込めた。
「同じ屋根の下に居て…アランたちを育てていくんだから…。 」
それでも唇をへの字に曲げてしまうのは…どこかに納得できない自分が居るから…。
「なにもさぁ…そんなに深刻に考えることないんじゃないか…? 」
呆れたように亮が言った。
「ノエルと紫苑の場合は…親兄弟や仲間の前で…結婚します…って宣言しただけなんだから…そのまま自然消滅だって有りだろ…?
書類上の契約を交わして役所へ届け出た…ってわけでもないんだし…。 」
届出なんて出来るわけもなかった…。
ノエルは戸籍上は男…両方の機能を持つと分かったのは16になってからだ…。
そのことで父智哉とトラブルになり…悩み苦しんだ挙句…家を飛び出して西沢のマンションに転がり込んだ…。
結婚という形は行き場のないノエルに居場所を与えるための…西沢の考え出した方便に過ぎない…。
「紫苑はさ…最初っから覚悟してたよ…。
いつかは…ノエルが本当の居場所を見つけて…自分のもとを離れていく…って…。
仕方ないじゃないか…その時が来たんだよ…。 」
ノエルの受けた心の傷をを癒すために、西沢がノエルの仮の居場所になる決心をしたと知った時、亮は、自分なら別れを前提にした結婚なんてできないと思った…。
生涯を共にしたいから結婚するんじゃないのか…とも…。
そんなんで…幸せだったのかなぁ…紫苑は…?
亮の脳裏にふとそんな疑問が浮かんだ…。
だいたい…ノエルが子供を産むなんて紫苑だって考えてもなかったろうさ…。
子供が生まれたことで…仮想現実みたいな夫婦の在り方が一変してしまったんだ…。
それがなけりゃ…ふたりの関係なんて…とっくに終わってるかもな…。
「それにだ…今までだって…ノエルには結婚してるなんて意識なかったろ…? 」
亮にそう言われて…ノエルは驚いたように目をパチクリさせた…。
「あ~っ…そうじゃん…そんな意識…全然なかった…。
紫苑さんの傍にずっと居てもいい…ってのが…やたら嬉しかっただけで…。
だいたい…結婚…って端っから…よく分かんなかったし…。
…んじゃ…このイライラはなんなんだ…? 」
夫婦じゃなくなる…ということ以外…何処がどう変わるということもない関係…。
それなのに…どうしようもない焦燥感に駆られてしまう…。
ならば…これまではどうだったか…といわれると…夫婦とは名ばかりだったような…。
「自分の居場所であるという証…が…なくなるから不安なんだよ…ノエルはね…。
紫苑の方は…存在する意味…がひとつ減る…そういうこと…。
紫苑にとっちゃ…最大の恐怖だよな…要らない子…になるっていうのは…。 」
…それでも…それが分かっていても…紫苑はノエルに手を差し伸べた…。
自分と同じように…存在の意義に苦しむノエルを放ってはおけなかったんだ…。
「げげっ…だよね~…どうしよう…亮…?
僕ってば…いつも紫苑さんに悪いことばっかりしてるよね~…。
大丈夫かなぁ紫苑さん…また…暴発しちゃわないかなぁ…? 」
慧勠を産んだ後に女性の機能が失われた…という現実は、生まれた時から男として育ってきたノエルにとってはまさに願ったり叶ったりの好転だから、西沢との関係に不安はあっても気持ちにはまだ余裕がある…。
「そんなの…心配ないって…ちゃんと…滝川先生がついてるし…。
それより…ノエル…女性機能停止状態になってから…あいつら来ないんじゃない…? 」
あいつら…とは意思を持つエナジーたち…そういえば…とノエルは思った。
慧勠を産んでからは、太極にも、他のエナジーたちにも会っていない…。
勿論…この世の何処にでも混在するエナジーたちだから…今この時点でもノエルの中にも周りにも居るには違いないが…久しく言葉を交わしていない…。
「次世代…をすべて産み終えたから…もう用済みになっちゃったのかな…僕…。
それならそれで…さよならくらい言って欲しかったよな…。 」
不満げに唇を尖らせるノエルを見て…亮は思わず噴出した…。
「ノエル…ほんの数年前まではあいつら敵だったんだぜ…。
僕らふたりとも殺されかけたんだからな…。
紫苑なんか僕らを庇って…もう少しで命落とすとこだったんだ…。
そんな極限状態だったってのに…すっかり頭にないんだね…。 」
一時は人間の殲滅を図ったエナジーたち相手に完全に御友達状態のノエル…。
大らかというか脳天気というか…。
エナジーたちの言動を何の疑いもなく受け入れることなど…未だ亮にはできない…。
何時また…人間に牙をむくかも分からない相手なのだ…。
「それは…そうなんだけど…太極にはいっぱい助けて貰ったし…他の連中だって…決して悪い奴じゃないんだ…。
エナジーたちと話ができなくなるのはちょっと…寂しい気がするなぁ…。 」
少しばかり悲しそうに…小さな溜息を洩らした。
本来…人間が関わるべき相手でないことは百も承知だけれど…それでも関わってしまった以上は…別れのひと言くらいは交わしたかった…。
勝手に使われて無言のまま御払い箱かぁ…。
そう考えると…なんだか妙に切ない気がした…。
次回へ
「凄い」の一言です。
書かずにいられない者の性ですね。
最近は特にゆっくりになりました。
体調がかなり悪かった時期には家に居たので一日おきに仕上げていましたが、今は散歩に出るようになったので…時間が足りなくて…。
小説の場合構成は必要ですね。
紫蘇ジュース 作り方 ありがとう
一杯 飲んで元気になります
今 以上に!です・・・
読んで貰えるだけでも嬉しいです。
紫蘇ジュース…うちでは早くも1リットル分なくなりました…。
紫蘇酒にする人も在るらしいから、その方が保存は利くかもしれませんが、子供が飲めないからdoveんちではジュースだけです。
元気になってくださいね!
すばらしい小説うれしいですね
楽しみです
ありがとうございます
小説家だったのですね
コメントありがとうございます
小説家…などと言えるような御大層なものじゃありませんけど…趣味で書いております…。