中川右介「松田聖子と中森明菜」

2011年10月06日 22時30分02秒 | 巻十六 読書感想
聖子か明菜か、と問われれば、明菜が好きだった。
だがしかし、もっと好きだったのは小泉今日子であり、
その上には岡田有希子という存在があった。
それが俺の、80年代アイドル遍歴。
(おニャン子クラブ・後藤久美子は少し脇に措く)

松田聖子と中森明菜 (幻冬舎新書)
クリエーター情報なし
幻冬舎


4年前の初出なので今さらです。

書評類は目にしてないので世間の評判は知りませんが、
個人的には久々に引き込まれアツくなる書でした。

タイトルにある両巨頭アイドルの「一番熱い時」を時系列に追っています。
どちらかと言うとメインは松田聖子で、
中森明菜は聖子に対する存在という描かれ方です。

両者(及び関係者)の「証言」や、
オリコンやザ・ベストテン、レコ大、紅白といった様々な史料を再構成し、
しかもそこに描きだされたのは
単なるアイドル史にとどまらぬ非常に濃い歴史叙述だったというわけです。
まるでそれは、三国志や戦国史。

前史としての70年代を含む80年代の、
歌謡界史
芸能界史
歌番組史
レコードセールス史
茶番としての「賞レース」史
そして世相世情
つまりは社会史が紡ぎだされる…とか言ったらさすがに持ち上げ過ぎでしょうか。

登場人物。
聖子と明菜はもちろんのこと、
山口百恵・キャンディーズ・ピンク・レディー・近藤真彦・田原俊彦・
小泉今日子・チェッカーズ・松任谷由美・松本隆…書ききれん。
よくぞこんな薄い新書にこんな厚く(熱く)埋め込んだものです。

---------- キリトリ -----------

俺個人のことで言えば、
山口百恵の記憶は「真っ赤なポルシェ」あたり以降。
聖子デビューが小4(1980)
明菜デビューが小6。
チェッカーズの大旋風が中2。
聖子の結婚が中3。
 ※この年のレコ大はよく覚えています。
  神野美伽の金賞に大人の事情を感じたり。それは言っちゃいかんか。
明菜の自殺未遂が大1(1989)。

このまさに文字通りの80年代が、
俺にとって「色気づいていた頃」であり「歌番組を必死で追っかけていた頃」。
まんまと、本書の描く時代と一致するのです。
だから自己に投影できました。

聖子の「ピンクのモーツァルト」はそのクラシカルなアレンジが気になって仕方がなかったし、
明菜の「ミ・アモーレ」「北ウイング」が大好きだったしよく歌ったしw、
チェッカーズのレコードいっぱい聴いたし。
実は吉川晃司のレコードだって持ってたわ。

岡田有希子の死にマジで涙し、
後藤久美子のJRポスターを駅から盗んだし(だからそれは関係ない)

当時の俺はまだまだ幼く、
ここで書かれているような「暗闘」「大人の事情」「歌詞の深読み」なんて
一切関係ありませんでした。
ただひたすら、ブラウン管の向こう側から流れてくる「歌謡曲」に
たぶん俺だけじゃなく全国のお茶の間が耳を傾けた時代。
この国にまだお茶の間が存在していた、まさに最後の最後の10年だったのでしょう。

胸熱です。 ただひたすら。

---------- キリトリ -----------

著者は、「ショスタコーヴィチ評盤記」の中川氏。
「ショスタコ」のほうではやや「ボケ役」でしたが、
ここではその牽強付会…いや説得力あふれる筆致が非常に生きています。
ただしあくまで冷静。
たまに織り込む革命ネタやソヴィエトネタやクラシックネタが、いい感じ。

ショスタコーヴィチ評盤記
クリエーター情報なし
アルファベータ


ショスタコーヴィチ評盤記 II
クリエーター情報なし
アルファベータ



---------- キリトリ -----------

「ダイヤと違うの涙は」《明菜:飾りじゃないのよ涙は》は、
「涙はダイアモンド」《聖子:瞳はダイアモンド》に対する返歌であったという論は、
単なるトンデモ話で片付けるにはあまりに惜しいと思います。
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