米澤穂信「黒牢城」感想

2022年10月23日 18時27分00秒 | 巻十六 読書感想
ひと昔以上前なら、俺が買って読んだ米澤先生の本を、小学生の息子に貸していた(勝手に読まれていた)ものだが。
気がつけば立場逆転。
彼が自分で買った本を、恭しく貸していただく。
老いては子に従うべし。



(ネタバレは無いがそれに近いものはあり。)


ありふれた感想ではあるけれど、さすが米澤穂信さん。

細かな描写、さりげない描写にも意味があり。
張り巡らされた伏線。
それらが次第に解きほぐされていく感覚は爽快。



個人的には、この半年以上戦国時代に尋常ならざる関心があって。
なので、今がこの作品を読むタイミングとしてよかったのかもしれない。

恥を忍ばず言えば、荒木村重も黒田官兵衛も雑賀衆も本願寺についても、去年までは知識がほぼ皆無だったのだ。

年齢を幾ら重ねても、学びに遅すぎることはないと思いたい。
お陰で、読んでいても様々な人物造形が具体的にイメージしやすかった。

まあ、その造形(外形)が主にゲームのキャラグラフィックであることも事実だが、、


なお、全く予備知識なしで読んでいたらどうだったんだろう、とも考える。
それはそれで新鮮な感覚だっただろうか。
それとも、珍紛漢紛で御手上げだったろうか。



米澤さんの時代ものとして思い浮かぶのが、「折れた竜骨」。
あちらはどちらかと言うとファンタジー寄りだったと記憶するが、この「黒牢城」はとても泥臭く、全編通して映像的な印象はモノトーン。

殺陣の場面も、非常に淡々と冷徹に、切った張ったを描く。

これ、映像作品にするとどんな感じなのだろう。
そんな話が持ち上がっているのかどうかは知らない。
ま、映像化がこちらの勝手な読後イメージを損なわないとも限らないからね。
どうでもよい。



それにしても、黒田官兵衛。

究極の、まさにこの上ない究極の「安楽椅子探偵」だ。

しかも、官兵衛が直接事件を解決するわけではない。
それは、ヒントの提示。
そのヒントを、荒木村重が恐るべき洞察力(と、敢えて言う)で読み解き、事の次第を明らかにしていく。

そして、事件が解決すればするほど、村重の置かれた状況の苦しさが明確になっていくという仕掛けだ。

このほの暗さこそ、米澤さんの真骨頂か。


ああ、とても楽しかった。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 例の無銭イベント四回目 | トップ | モヤモヤ世界基準 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿