実に、今宵、胸がわくわくするのは、明日の出馬表発表もさることながら、明日、3月1日(金)が
将棋界のいちばん長い日
こう呼ばれる、大一番の一日だからである。
今年の名人位挑戦者を決定する、A級順位戦最終五局が、朝から一挙に行われる。夜半から未明には、名人位挑戦者、そしてA級から降級となる2人が原則決定する。
現時点までに、羽生三冠の7勝1敗 三浦八段の6勝2敗 この二人のどちらかに挑戦者は絞られている。待ち受ける森内名人。無論、去年も破竹の9連勝で挑戦を決めた羽生三冠。この実力日本一が最有力、大本命であったことは云うまでも無い。既に二冠に王手をかけている渡辺竜王も、羽生との直接対決に敗れ、既に挑戦者争いの圏外。もし、羽生敗れ、三浦勝ち、共に7勝2敗で並べば、日を改めてプレーオフの運びとなる。
将棋界を代表するトップ10人による総当りの最終戦九局目の全五対局。残留争いも熾烈となる。当事者にとっては大変な決戦の日でありながら、我々ファンには、ワクワクもので、楽しみで仕方が無いのだ。
今年は、囲碁・将棋専門チャンネルで全対局ライブ中継があり、朝から、出馬表発表、その検討、読み込みと共に、一日が長く、楽しみである。
わたくしもアマ五段の允許を受けてから久しく、もう自らの棋力を上げよう情熱は余り高くは無いが、プロ対局を楽しめる棋力があることを幸せと感ずる。史上最強棋士が今だ現役ばりばりで頂点争いを繰り広げているのである。シンザンやディープインパクトの現役時代の競馬ファンと同じで、ウオッカやオルフェを目の前で見ても、ディープインパクトを知らないでは、何をか云わんや、と同断である。
名人戦は、朝日新聞と毎日新聞の共催となっているが、これが朝日杯で発射した馬の登場と、どう関わるのか。これとて弥生賞の1つのテーマなのである。
そして、ほぼ挑戦者争いを勝ち抜くであろう、羽生三冠。空前の七冠達成を実現させた、既に四十を超えた羽生善治。果たして、因縁の森内名人との今年の激突の行方は!
競馬と違い、脚本通りに進む訳ではない将棋。
正直、知れば知るほど奥が深く、将棋に比べれば競馬の方がずっと簡単だと感ずる。
WBCなどより、断然、将棋界の激突である。
競馬の前日で好かった。
しびれる頭脳戦と究極の緊迫、静謐なる死闘の空気が堪らなく好きである。
これこそ貴族趣味であり、知的選良、知的興奮のエレガンスの極み。
将棋で有段者にも遠く及ばぬような輩が、競馬で勝てるわけが無い。
愚か者はどうぞ、向こうへ行ってもらいたい。
知的がさつ者は、この緊張の重々しさに堪え切れず、物事への凝視に疲れ果てる、所詮は弱輩。ものの読みが浅く、表層的で、愚鈍なのである。
チェスの名人戦は殆どが引き分けるが、将棋はそうは行かない。長丁場ながら、急速で切迫し、間断無く、容赦ない勝負の世界なのである。人生よりも余程人生抽出的である。
寺山さんは、人生は競馬の比喩だと云ったが、競馬は将棋に比べれば薄味である。
余程の名手が揃わなければ。
今年の浜中君のフェブラリーも、ま、70点くらいのレースではなかったか。
米長前将棋連盟会長の御兄弟は総て東大。自分は兄らより頭がよかったから、東大より将棋を選んだとのたまわれたが、わたくしもその後海外留学もしたが、東大どまりだったのである。
競馬の無い折は、歌舞伎も観るし、クラシック音楽ファンであり、また時代劇や映画ファンでもあるが、余り趣味が広い方ではない。が、堅気とは随分距離がある人生だと感ずる。
わたくし、現在、恋愛中であり、日々、幸せに過ごしている。
女性は、可憐、清楚、憂いが添わり、高貴で研ぎ澄まされた美しさに惹かれる。
無論、わたくしとて、ウオッカのように大輪の目立つ華が好きである。
堅気の庶民臭いのは、好きでない。
また、今年も生まれたアカデミー賞作品、『アルゴ」。早く観たい。
明日、弥生賞の2頭位置もそうだが、どうなるのだろう。
運命は静かに、そして容赦なく、転ぶ。
静かな朝日のように、勢いを増し、変転、乱高下するのである。
一日の競馬、これまた一つの人生である。