僕が子供のころ、バッハはただ叱られるだけの、面倒くさい曲でしかなかった。今でも堅苦しい曲だと思い込んでいる人が、殊に音楽関係に進むような人に多いようだから、僕の体験を書いておく。
ただ叱られるだけといっても、ご承知のようにポリフォニーの楽譜は慣れないうちは押さえておくべき指、離さねばならない指と頭が一杯になるからね、叱られる種が多いわけだ。
僕の家にステレオ装置が来たのはずいぶん遅く、FM放送も受信し始めたのは中学に上がった後だったのではないか。
ある日、偶然つけていたFM放送でバッハのカンタータ第132番「道を整えよ」が流れた。
僕はびっくりした。何という柔らかさ、自由さだろう。驚きはたちまち感動に変わった。イ長調でオーボエのソロが始まったとき(この時の演奏はドイツバッハゾリステンとヴィンシャーマンだった。この何やら長ったらしい名前もあっという間に覚えた。それ位衝撃的だったのである)僕が味わった恍惚感は今でも覚えている。
今となっては、このカンタータがとりわけ優れた作品だと思わない。しかしこの作品が、その後次から次へとカンタータを聴くようになったきっかけを作ったことにかわりない。
「バッハをショパンのように弾かないで」という注意をされた人、または聞いたことがある人は大勢いるはずだ。
僕はそんな注意をする人に言いたいね。「バッハとショパンの区別が付かないのですか?」と。往々にしてそんな注意をされた後の演奏は無味乾燥なのだ。
まず音楽を感じてみたまえ、そうすればバッハはバッハ的に、ショパンはショパン的に響くだろう。と、こうして書いたり読んだりしたら当たり前すぎるでしょう?
ピアノを弾く人たちはぜひカンタータを聴いて御覧なさい。オーケストラあり、ソロパートあり(132番だけではない。色々な管楽器、弦楽器の最も美しいソロがいくらでも見つかる)合唱あり、独唱、重唱あり、とじつに多彩なのです。
平均律、とりわけフーガを、いったいどのような編曲が可能か、想像してみるのはたいへん良いことだと思う。それが空回りの観念に堕ちないためには、実際の響きを味わい楽しんでおくことが重要なのだ。
トランペットのように、と思うには、トランペットのとびきり上等な響きを知っておいたほうが良い。これも当たり前に響くかもしれないけれど、その当たり前を当たり前にすることはなかなか困難なのです。
先日、ドイツバッハゾリステンの「祝祭カンタータ」を聴いていて、気がついたらトランペットをモーリス・アンドレが担当しているのだった。きれいなはずである。
ただ叱られるだけといっても、ご承知のようにポリフォニーの楽譜は慣れないうちは押さえておくべき指、離さねばならない指と頭が一杯になるからね、叱られる種が多いわけだ。
僕の家にステレオ装置が来たのはずいぶん遅く、FM放送も受信し始めたのは中学に上がった後だったのではないか。
ある日、偶然つけていたFM放送でバッハのカンタータ第132番「道を整えよ」が流れた。
僕はびっくりした。何という柔らかさ、自由さだろう。驚きはたちまち感動に変わった。イ長調でオーボエのソロが始まったとき(この時の演奏はドイツバッハゾリステンとヴィンシャーマンだった。この何やら長ったらしい名前もあっという間に覚えた。それ位衝撃的だったのである)僕が味わった恍惚感は今でも覚えている。
今となっては、このカンタータがとりわけ優れた作品だと思わない。しかしこの作品が、その後次から次へとカンタータを聴くようになったきっかけを作ったことにかわりない。
「バッハをショパンのように弾かないで」という注意をされた人、または聞いたことがある人は大勢いるはずだ。
僕はそんな注意をする人に言いたいね。「バッハとショパンの区別が付かないのですか?」と。往々にしてそんな注意をされた後の演奏は無味乾燥なのだ。
まず音楽を感じてみたまえ、そうすればバッハはバッハ的に、ショパンはショパン的に響くだろう。と、こうして書いたり読んだりしたら当たり前すぎるでしょう?
ピアノを弾く人たちはぜひカンタータを聴いて御覧なさい。オーケストラあり、ソロパートあり(132番だけではない。色々な管楽器、弦楽器の最も美しいソロがいくらでも見つかる)合唱あり、独唱、重唱あり、とじつに多彩なのです。
平均律、とりわけフーガを、いったいどのような編曲が可能か、想像してみるのはたいへん良いことだと思う。それが空回りの観念に堕ちないためには、実際の響きを味わい楽しんでおくことが重要なのだ。
トランペットのように、と思うには、トランペットのとびきり上等な響きを知っておいたほうが良い。これも当たり前に響くかもしれないけれど、その当たり前を当たり前にすることはなかなか困難なのです。
先日、ドイツバッハゾリステンの「祝祭カンタータ」を聴いていて、気がついたらトランペットをモーリス・アンドレが担当しているのだった。きれいなはずである。