季節はずれのインテルメッツォ(続)

音楽、文学、絵画、スポーツ、シェパード等々についての雑記帖。

むかし話 その2

2015年06月16日 | 動物
ポチと暮らして数ヶ月が過ぎた。ポチの生活はペット売り場の棚の下から大邸宅へと、もちろんうさぎ小屋としてだが、大変遷を遂げた。しかし男の生活には何の変化もなかった。

ある日、変わらぬ生活のまま町に出て件のペット売り場がある店の近くをさまよっていた。

売り場はその後どうなっているだろう。この手の詰まらぬ好奇心は男の心をすぐにとらえるのであった。

今回は棚の下に隠れたうさぎもおらず、男は心安らかにピーターラビットを眺めるのであった。

そのうち若いをなごが店員を呼び、一匹の子うさぎを見せてくれろと頼んだ。

見てくれの悪くない子うさぎであったが、ゲージから出そうとすると大暴れする。

店員がをなごに「この子は神経質だから買わない方が良いです」と進言し、結局他の子うさぎを連れて帰った。

男は足りない頭をひねったが、この調子では誰も神経質なうさぎを買わないであろう、ということだけは理解した。

ままよ、この子も連れて帰っちまえ。この時点で恐らく日本昔ばなしよろしく、何か良いことでも起こるのではと期待したのかも知れない。

男の知識は中途半端であった。鶴は恩返しをしたし、犬やキツネも富をもたらせたりしたが、うさぎはせいぜいタヌキの舟を沈めたり、皮を剥がされたりしただけだった。それをすっかり忘れていたと見える。

かような次第で、引き取られたうさぎはポチより小さかったのでプチと名付けられた。因みに、これまたほとんど無料に近い値段で、スーパーの特売でもあり得ないと男は満足であった。

神経質だったはずのプチはポチと違い、食い意地が張っておった。順調すぎる成長をして、瞬く間にポチの倍近い体重を誇ることになった。

うさぎはデリケートで、骨もガラス細工のようだ。獣医もうっかり扱うとショック死することもある。指南書にはどれにもそうある。

ところがプチは陶器のトイレを咥えては打ち下ろし割ってしまう。本当にピーターラビットであろうか?

疑念を抱きつつ男は獣医に訊ねた。そして訊ねたことを後悔した。獣医は大笑いして言ったのである。雑種ですよ。

では売場で付いていた値段は何であったのか。お買得の幸福感は去り、男は石川啄木よろしくじっと手を見るばかりであった。