ドラマや映画ではリハビリ中の患者がよく派手に倒れる場面がありますが、本当にやったら大問題です。一般の方はやっぱりメディアのあんなイメージなのでしょう。リハなので普段の活動よりも多少難易度の高いことをやるはずですし、疲れていることも加味するとリハ室では転倒の危険度は高いはずですが、転倒はセラピストの責任問題になりますのでそこはバッチリ対応しているのが普通です。
リハビリテーションと転倒
ということで、今回は転倒について考えてみます。
転倒、つまり転ぶことは、リハビリテーションとは切っても切れない関係にあります。極端な話、リハをやること自体が転倒の危険性を上げる可能性があるからです(誤解しないように書きますが、ベッドにずっと寝ていれば転びようがないといわれることがありますので)。もちろん長い目で見れば、リハが転倒防止に有益なのは言うまでもありません。ということで、今回は転倒の話を何回かに分けて(2回くらいかもしれませんが)始めます。
厳密な転倒要因などの話はさておいて、転び方はいくつかのパターンがあります。例えば、つまずく、滑る、ふらつく、踏み外す、膝が折れる、ぶつかる、などいろいろです。結果として、手をつく、肘をつく、尻餅をつく、膝をつく、体や頭を打ち付けるなどケガをする可能性が高まります。具体的には、大腿骨頚部骨折や腰椎圧迫骨折、橈骨遠位端骨折などを代表として、あらゆる骨折が生じることがあります。
転倒はないに越したことはないですが、そもそも転倒しない人はいません。どんなアスリートでも転ぶときは転びます。なので、「絶対に転ばない」というのはもちろん理想ですが、どんな元気そうな人でも転ぶ可能性はあることを常に念頭においておく必要があります。
回復期病棟に入院している(つまり脳卒中や大腿骨頚部骨折などの)患者さんに関して言えば、転倒の危険度もその認識にも個人差があります。
例えば、転倒恐怖(感)という言葉(英語ではFear of Falling、略してFoF)があり、簡単に言うと転倒に対する恐がり度の指標があります。これも、不思議なことにいかにも転びそうな人、あるいは何回か転んでいる人に聴取しても、意外にも全然恐怖を感じていないことがあります。逆に言えば、転ぶことが怖くないから何回でも転んでしまうかもしれません。臨床的にみてみると、転倒はだいたい油断や不注意から起こることが多いと感じます。転びそうな人でも転ばないように慎重に動けば転びにくい訳で。しかし、人間ですから「ほんの少しの距離だから杖を使わなくてもいいだろう」、「本当はダメっていわれてるけどこっそり歩いてカーテンを閉めちゃおう」など、転倒に関する認識の甘さは誰もが少しは持っているものと思います。実際に、転んでいる人が何をして転んだかとみてみると、意外にも歩いている最中ではなく、立位作業やトイレなどの転倒に対する注意力の欠如のタイミングで起こりやすい印象があります。特に、慣れない環境であったり、慣れ・油断・気の緩みなどの認識の甘さが原因になっていることが多く感じます。
話がさらに逸れますが、リハの目標や希望として「歩きたい」ということを訴えられることは多いですが、それは目標ではなくて手段です。厳密には「歩きたい」のではなく、「何かをする」ための手段として歩きたいのです(もちろん、世間帯として歩く能力を確保したいという希望もあるでしょうが)。つまり、「歩くためだけに歩く」人はまずいません。歩くときには普通は何か目的があってその手段として歩いています(台所に行ってお茶を飲みたい、トイレに行きたい、買い物に行きたいなど)。なので、いかに目的動作に伴って転倒なく歩くかということが重要になってくるわけです。何のために歩きたいのかを、改めてもう一度考えてみてもよいのかもしれません。
脳卒中後遺症者と大腿骨頚部骨折患者の転倒
退院に関して問題となるのは、活動性と安全性のバランス(基本的にトレードオフの関係にあります)です。病棟での安静度も歩行補助具の処方なども転倒する危険性がどれだけあるか? という考えに準じて判断されることが多くあります。それだけ、転倒というのは重要視されているということです。
「脳卒中」者の特徴は、発症を契機として自身の身体機能(運動麻痺や感覚障害など脳卒中によって生じるあらゆる身体的変化)が激変することになります。それに加えて、病院入院などの慣れない環境での生活を強いられます。自身の身体機能と周囲環境との擦り合わせも重要で、高次脳機能障害(注意障害・記憶障害・遂行機能障害・失認など)の程度も転倒に大きく影響します。
つまり、発症後に激変したあらゆるもの(自覚としては環境でさえ)が、転倒を引き起こす原因になります。転倒が環境に慣れず不穏なども生じやすい入院後早期に集中することもわかっています。しかし、転倒歴に則って今後の転倒の有無を判断するのは危険です。今まで転倒していないという情報は参考程度にしかならないと思われます。病院からの退院を契機に今まで住み慣れた環境であっても転倒するリスクは増加します。脳卒中後遺症者においては、自身の身体機能の把握と周囲環境との適合が転倒に関与すると考えられます。
「大腿骨頚部骨折」者の特徴は、そもそも入院の原因(骨折の契機)が転倒であり、高齢女性である割合が高いことです。骨折以前に既に高齢者であり、骨粗鬆症も合併している可能性が高いため、再転倒の際に再び骨折する可能性も高くなります。転倒歴の聴取も重要です。既に何回も転倒しており、遂に骨折に至ったという場合もありますし、転倒するような身体機能ではないにも関わらず状況によっては転倒も仕方がない場合もあります。特に前者の場合は、もともと筋力やバランス能力が低下していたり、認知症が潜在的に進んでいたりすることもあるので、注意が必要です。つまり、リハビリテーションの標準的なゴールは、転倒前の身体機能に戻すことよりも、それに加えて再び転倒しないようにという考え方が重要になります。
では、次回は転倒をもう少し掘り下げてみましょう。転倒の定義と転倒歴の聴取について考えてみます。
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リハビリテーションと転倒
ということで、今回は転倒について考えてみます。
転倒、つまり転ぶことは、リハビリテーションとは切っても切れない関係にあります。極端な話、リハをやること自体が転倒の危険性を上げる可能性があるからです(誤解しないように書きますが、ベッドにずっと寝ていれば転びようがないといわれることがありますので)。もちろん長い目で見れば、リハが転倒防止に有益なのは言うまでもありません。ということで、今回は転倒の話を何回かに分けて(2回くらいかもしれませんが)始めます。
厳密な転倒要因などの話はさておいて、転び方はいくつかのパターンがあります。例えば、つまずく、滑る、ふらつく、踏み外す、膝が折れる、ぶつかる、などいろいろです。結果として、手をつく、肘をつく、尻餅をつく、膝をつく、体や頭を打ち付けるなどケガをする可能性が高まります。具体的には、大腿骨頚部骨折や腰椎圧迫骨折、橈骨遠位端骨折などを代表として、あらゆる骨折が生じることがあります。
転倒はないに越したことはないですが、そもそも転倒しない人はいません。どんなアスリートでも転ぶときは転びます。なので、「絶対に転ばない」というのはもちろん理想ですが、どんな元気そうな人でも転ぶ可能性はあることを常に念頭においておく必要があります。
回復期病棟に入院している(つまり脳卒中や大腿骨頚部骨折などの)患者さんに関して言えば、転倒の危険度もその認識にも個人差があります。
例えば、転倒恐怖(感)という言葉(英語ではFear of Falling、略してFoF)があり、簡単に言うと転倒に対する恐がり度の指標があります。これも、不思議なことにいかにも転びそうな人、あるいは何回か転んでいる人に聴取しても、意外にも全然恐怖を感じていないことがあります。逆に言えば、転ぶことが怖くないから何回でも転んでしまうかもしれません。臨床的にみてみると、転倒はだいたい油断や不注意から起こることが多いと感じます。転びそうな人でも転ばないように慎重に動けば転びにくい訳で。しかし、人間ですから「ほんの少しの距離だから杖を使わなくてもいいだろう」、「本当はダメっていわれてるけどこっそり歩いてカーテンを閉めちゃおう」など、転倒に関する認識の甘さは誰もが少しは持っているものと思います。実際に、転んでいる人が何をして転んだかとみてみると、意外にも歩いている最中ではなく、立位作業やトイレなどの転倒に対する注意力の欠如のタイミングで起こりやすい印象があります。特に、慣れない環境であったり、慣れ・油断・気の緩みなどの認識の甘さが原因になっていることが多く感じます。
話がさらに逸れますが、リハの目標や希望として「歩きたい」ということを訴えられることは多いですが、それは目標ではなくて手段です。厳密には「歩きたい」のではなく、「何かをする」ための手段として歩きたいのです(もちろん、世間帯として歩く能力を確保したいという希望もあるでしょうが)。つまり、「歩くためだけに歩く」人はまずいません。歩くときには普通は何か目的があってその手段として歩いています(台所に行ってお茶を飲みたい、トイレに行きたい、買い物に行きたいなど)。なので、いかに目的動作に伴って転倒なく歩くかということが重要になってくるわけです。何のために歩きたいのかを、改めてもう一度考えてみてもよいのかもしれません。
脳卒中後遺症者と大腿骨頚部骨折患者の転倒
退院に関して問題となるのは、活動性と安全性のバランス(基本的にトレードオフの関係にあります)です。病棟での安静度も歩行補助具の処方なども転倒する危険性がどれだけあるか? という考えに準じて判断されることが多くあります。それだけ、転倒というのは重要視されているということです。
「脳卒中」者の特徴は、発症を契機として自身の身体機能(運動麻痺や感覚障害など脳卒中によって生じるあらゆる身体的変化)が激変することになります。それに加えて、病院入院などの慣れない環境での生活を強いられます。自身の身体機能と周囲環境との擦り合わせも重要で、高次脳機能障害(注意障害・記憶障害・遂行機能障害・失認など)の程度も転倒に大きく影響します。
つまり、発症後に激変したあらゆるもの(自覚としては環境でさえ)が、転倒を引き起こす原因になります。転倒が環境に慣れず不穏なども生じやすい入院後早期に集中することもわかっています。しかし、転倒歴に則って今後の転倒の有無を判断するのは危険です。今まで転倒していないという情報は参考程度にしかならないと思われます。病院からの退院を契機に今まで住み慣れた環境であっても転倒するリスクは増加します。脳卒中後遺症者においては、自身の身体機能の把握と周囲環境との適合が転倒に関与すると考えられます。
「大腿骨頚部骨折」者の特徴は、そもそも入院の原因(骨折の契機)が転倒であり、高齢女性である割合が高いことです。骨折以前に既に高齢者であり、骨粗鬆症も合併している可能性が高いため、再転倒の際に再び骨折する可能性も高くなります。転倒歴の聴取も重要です。既に何回も転倒しており、遂に骨折に至ったという場合もありますし、転倒するような身体機能ではないにも関わらず状況によっては転倒も仕方がない場合もあります。特に前者の場合は、もともと筋力やバランス能力が低下していたり、認知症が潜在的に進んでいたりすることもあるので、注意が必要です。つまり、リハビリテーションの標準的なゴールは、転倒前の身体機能に戻すことよりも、それに加えて再び転倒しないようにという考え方が重要になります。
では、次回は転倒をもう少し掘り下げてみましょう。転倒の定義と転倒歴の聴取について考えてみます。
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