東埼玉病院 リハビリテーション科ブログ

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リハビリテーションと切っても切り離せない転倒の話②〜転倒の定義と評価を考える〜

2017年10月25日 | 回復期リハビリテーション
 第1回の「回復期病棟での転倒を考える」では、回復期病棟での転倒について実態を考えてきました。
 今回は、転倒とはそもそも何を指すのか、転倒をどのように評価するかについて考えていきます。

転倒の定義
 転倒は、いわゆる転んで床に膝をついたり、横たわったりすることを指すことは一般的なイメージだと思います。そして、ベッドなどからの転落も含めることもよくあります。転倒の定義をはっきり明記していない研究も多いようで、あいまいに用いられていることも考えられます(American Geriatrics Society,2001など)。
転倒の定義は、似たり寄ったりではありますが、転倒に関連する研究で引用されることの多いものを中心に整理しています。
・他人による外力、意識消失、脳卒中などにより突然発症した麻痺、てんかん発作によることなく、不注意によって、人が同一平面あるいはより低い平面へ倒れること(Kellogg group,1987)
・故意でなく地面、床、その他の低いレベルに倒れること:家具、壁、または他の構造物に対して倒れることを除外する(Buchnerら,1993)。
・両脚支持肢位(立位、歩行、屈曲、リーチングなど)から両足により支持されなくなる肢位への無意識の変化で、地面や床との(部分的または完全な)接触を伴うこと(Meansら,1996)
・人が地面やイス、トイレ、ベッドなどの他の低いレベルへ偶発的あるいは意図的に倒れるようなイベント(Tideiksaarら,2002)

 人により、微妙に定義が異なることがわかるでしょうか? いわゆる転ぶことに限らず、壁への倒れ込み、ベッドへの尻餅を含む/含まないものもあれば、病的な状態に起因する物を除外する/除外しないもの、不注意によるものを前提とする/前提としない(意図的なものも含むなど)細かいところで、違いがあります。この中でも研究分野において最も使用されている定義は、BuchnerらのFICSIT研究における定義だそうです(Gillespieら,2002)。
 どれを採用するかは目的にもよるので一概にいえません。ただ、医療者の考える定義と患者個人が考える定義が異なることが多く、転倒の認識に差異がある可能性は念頭に置いておく必要があります(Zecevicら,2006)。個人的には転んだ先に手すりや壁があって、結果的に転ばすに助かったというような事案は、転倒と考えても良いのではないかと思います。運がよかっただけで、次回同様にバランスを崩したときには転倒する可能性が高いでしょう。反対に、運が悪く転んだという場合(足場が滑った、雑踏の中で他人のキャリーバッグに躓いたなど)もあるので、転倒の状況を把握することが重要になります。

転倒の状況や原因の確認
 転倒は目の前で転倒があれば明白でありますが、その瞬間を医療関係者が目撃することは多くはありません。よって、転倒を目撃した人(第1発見者)や本人からの情報聴取が重要になります。また、当の本人ですら一瞬で起こる転倒については、よく把握していないことも多く、客観的な評価も必要です。疼痛、発赤部位や目的動作、状況から考えて、どのような転倒機転であったかを推測することが必要になります。例えば、左手と左腰の疼痛があれば、左方向へ転倒し、まず左手をつき、そのご左の腰を打ちつけた可能性が考えられます。どこで、何をしていて、どんなきっかけで、なぜ、転倒に至ったのかを明らかにし、その原因や状況を把握することは重要です。
 転倒が本人の身体機能によるもの(眼が悪い、足が麻痺している)、認知機能によるもの(転倒恐怖の欠如、不注意)、性格や心理的状況によるもの(焦り、せっかち)、環境によるもの(滑りやすい、人が多い)、動作特性によるもの(脚立に乗っていた、無理な体勢で立っていた)、時間帯によるもの(真夜中、早朝で体がついてこられず、頭もぼーっとしていた)、などを(単一の理由で割り切らないように)複合的に考えることが必要で、それを基に再転倒のリスクを考慮します。

転倒の問診
 リハの評価をするときに、転倒歴の聴取は病前生活の一部として重要な問診の一つです。簡単にいえば、「今まで転んだことがありますか?」という質問です。転倒歴の有無は高齢者において転倒の予測因子の一つですが、転倒歴だけでは転倒はわかりません(転倒をしていない人は大丈夫とはいいきれませんので)。なので、私は何回も転倒している明らかにハイリスクな人を選り分ける程度でしかないと認識しています(「何回も転んでいます」と訴えている人が転びやすいのは誰が考えても当たり前でしょう)。
 ちなみに、「今まで転んだことがありますか?」に類する質問をして「転んでいません。」という回答が帰ってきた場合、それで転倒歴の聴取をしたつもりになっている臨床家はいないでしょうか? 当たり前すぎて医療者は気づきにくいですが、転倒は一般的には「恥」を伴います。つまり、転んでいても「転んでいません」と隠して回答する人がいます。他にも、尻餅や膝をついた程度の転倒で本人が転倒と認識していないケース、ケガをしていない程度なら転倒に値しないと考えるケース、認知症の影響で転んだことを忘れるケースもありえます。特に転倒の認識については医療者と一般人で異なることがあるために注意が必要です。たまたま手すりや壁があって転倒に至らなかった場合や、イスやベッドに尻餅をついた場合、介助者などに支えてもらった場合など、本来は転倒してもおかしくない場合は多々あります。これを転倒ニアミスなどと呼ぶことがありますが、これを含めた聴取が重要となります。そのため、転倒の問診の際の質問は、「今までに転びそうになったことや尻餅をついたことはありますか?」が妥当だと思います。実際に転倒したか、転倒にはいたらなかったがヒヤリとしたか、ヒヤリともせずに大丈夫だったか、それがいつ(最近?)のことか、など聞いてみましょう。もしかしたら、「転んだことはない」と言っていた方が「いつもリビングのカーペットで躓くけど、手をつく程度で問題ないよ」、「ベッドに座るときによく勢い良く倒れちゃうことがあるな」などと訴えるかもしれません。もちろん、じゃあ大丈夫ですね。という話にはなりませんので、環境整備や転倒予防のための介入が必要となるでしょう。

 次回は転倒予測のための考え方について掘り下げてみようと思います。最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
M1(PT)

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