①カエル呼吸とは?
筋ジストロフィー分野におけるリハビリテーション対応は多岐にわたりますが、その中でも呼吸リハビリテーションが重要なウェイトを占めます。代表的なデュシェンヌ型筋ジストロフィー(以下、DMDと略します)に関して言っても、呼吸機能の維持は必須のリハビリテーションとなります。
このような筋ジストロフィーの呼吸リハビリテーションの概念の中で、舌咽頭呼吸法という呼吸法があります。舌咽頭呼吸(glossopharyngeal breathing: GPB)は、特別な機器を必要としない呼吸法の一つです。
元々は、1940年代のポリオの流行中にポリオ患者の舌咽頭呼吸の様子を論文に記載されたことが始まりだそうです。 舌咽頭呼吸は、その特徴からカエル呼吸(frog breathing)などとも呼ばれます。臨床的には、舌咽頭呼吸だと長いし、硬い感じなのでカエル呼吸と呼んでいることが多いです。
また、潜水競技者においてはパッキングという名称で肺活量と息止め時間を増加させるために用いられています。(厳密には異なるとも言われますが、概ね原理は一緒かな、と思います。呼吸筋を動員するか、その際のパワー・回数などの細かいところは確かに違いますが)
医学的には神経筋疾患(ALSや脊髄筋萎縮症など)や頸髄損傷者特有の呼吸法として知られています。他にも論文報告としては、強直性脊椎炎患者や脊髄筋萎縮症II型患者においても研究報告があります。
②カエル呼吸をすることで何がよいか?
一般的なカエル呼吸の使用目的をまとめると、人工呼吸器の離脱や故障時の呼吸維持、 効果的な咳の維持、会話時の声量増加・リズム正常化、肺実質の拡張性維持と微小な無気肺の予防といったところです。
カエル呼吸は、自力で可能なエアスタック(息留め)の方法として用いられ、呼吸筋が弱化していても(肺活量が0 mlでも)呼吸器離脱を可能とします。また、肺活量が低下した患者さんにおける最大強制吸気量(MICと略します)を得ることができます。最大強制吸気量とは、アンビューバッグなどで肺に(言い方は悪いですが)無理矢理空気を押し込んで肺をパンパンにするまで空気を入れたときの最大量のことです。同時に、発声や有効な咳嗽を保つためにも使用されます。
家庭でのカエル呼吸を含む排痰は、通常のみならず緊急時にも有効であり、胸部感染症や肺炎の予防につながります。日常生活においてGPBを活用していれば、肺と胸郭の可動性を維持にもなります。
③カエル呼吸の適応は?
このように、カエル呼吸のメリットについて述べてきましたが、だったらみんなやればいいのに…と思うかもしれません。
そこが問題なのですが、みんながみんなできる訳ではありません。Bachらの報告(2007)では、調査したDMD患者のうち3割弱しかカエル呼吸が使用できなかったことを示しており、練習しても習得困難な患者も多かったとのこと(対してMICは95%で習得可能)。
その理由の一つとして、喉咽頭(のど)機能が保たれていること(簡単に言うと、上記のMICができるかどうか)が習得可能な条件であることが挙げられます。そうでなくとも、カエル呼吸は「できているのか、できていないのか」の実感が難しく、個人差があります。知的レベルや本人の意欲にも左右されます。そもそもリハビリテーション分野において習得のための指導法が確立していません。一応は、理論的説明とともにカエル呼吸の実演を模倣してもらうということが言われています。でも、外見からは非常に(何が起こっているか)わかりにくい「口の中の複雑な動き」を見て、「なるほど!」と思える人がいるかというと疑問です。それでも自己流で習得できる人もいれば、模倣ですぐコツをつかめてしまう人もいるので様々です。まあ試すだけ試してみるのはいいと思います。カエル呼吸は、ガイドライン(神経筋疾患・脊髄損傷の呼吸リハビリテーションガイドライン。2014)でも道具を使わないエアスタックの手段として、習得を励行するよう勧められています(行うことを考慮してもよいが、十分な科学的根拠がないというエビデンスレベル)。
今回は、簡単にカエル呼吸についての概要を説明しましたが、次回はカエル呼吸のメカニズムとその習得法について掘り下げてみようと思います。
次回記事はこちらへ→カエル呼吸(舌咽頭呼吸)のメカニズムを再考する
東埼玉病院リハビリテーション科ホームページはこちらをクリック
筋ジストロフィー分野におけるリハビリテーション対応は多岐にわたりますが、その中でも呼吸リハビリテーションが重要なウェイトを占めます。代表的なデュシェンヌ型筋ジストロフィー(以下、DMDと略します)に関して言っても、呼吸機能の維持は必須のリハビリテーションとなります。
このような筋ジストロフィーの呼吸リハビリテーションの概念の中で、舌咽頭呼吸法という呼吸法があります。舌咽頭呼吸(glossopharyngeal breathing: GPB)は、特別な機器を必要としない呼吸法の一つです。
元々は、1940年代のポリオの流行中にポリオ患者の舌咽頭呼吸の様子を論文に記載されたことが始まりだそうです。 舌咽頭呼吸は、その特徴からカエル呼吸(frog breathing)などとも呼ばれます。臨床的には、舌咽頭呼吸だと長いし、硬い感じなのでカエル呼吸と呼んでいることが多いです。
また、潜水競技者においてはパッキングという名称で肺活量と息止め時間を増加させるために用いられています。(厳密には異なるとも言われますが、概ね原理は一緒かな、と思います。呼吸筋を動員するか、その際のパワー・回数などの細かいところは確かに違いますが)
医学的には神経筋疾患(ALSや脊髄筋萎縮症など)や頸髄損傷者特有の呼吸法として知られています。他にも論文報告としては、強直性脊椎炎患者や脊髄筋萎縮症II型患者においても研究報告があります。
②カエル呼吸をすることで何がよいか?
一般的なカエル呼吸の使用目的をまとめると、人工呼吸器の離脱や故障時の呼吸維持、 効果的な咳の維持、会話時の声量増加・リズム正常化、肺実質の拡張性維持と微小な無気肺の予防といったところです。
カエル呼吸は、自力で可能なエアスタック(息留め)の方法として用いられ、呼吸筋が弱化していても(肺活量が0 mlでも)呼吸器離脱を可能とします。また、肺活量が低下した患者さんにおける最大強制吸気量(MICと略します)を得ることができます。最大強制吸気量とは、アンビューバッグなどで肺に(言い方は悪いですが)無理矢理空気を押し込んで肺をパンパンにするまで空気を入れたときの最大量のことです。同時に、発声や有効な咳嗽を保つためにも使用されます。
家庭でのカエル呼吸を含む排痰は、通常のみならず緊急時にも有効であり、胸部感染症や肺炎の予防につながります。日常生活においてGPBを活用していれば、肺と胸郭の可動性を維持にもなります。
③カエル呼吸の適応は?
このように、カエル呼吸のメリットについて述べてきましたが、だったらみんなやればいいのに…と思うかもしれません。
そこが問題なのですが、みんながみんなできる訳ではありません。Bachらの報告(2007)では、調査したDMD患者のうち3割弱しかカエル呼吸が使用できなかったことを示しており、練習しても習得困難な患者も多かったとのこと(対してMICは95%で習得可能)。
その理由の一つとして、喉咽頭(のど)機能が保たれていること(簡単に言うと、上記のMICができるかどうか)が習得可能な条件であることが挙げられます。そうでなくとも、カエル呼吸は「できているのか、できていないのか」の実感が難しく、個人差があります。知的レベルや本人の意欲にも左右されます。そもそもリハビリテーション分野において習得のための指導法が確立していません。一応は、理論的説明とともにカエル呼吸の実演を模倣してもらうということが言われています。でも、外見からは非常に(何が起こっているか)わかりにくい「口の中の複雑な動き」を見て、「なるほど!」と思える人がいるかというと疑問です。それでも自己流で習得できる人もいれば、模倣ですぐコツをつかめてしまう人もいるので様々です。まあ試すだけ試してみるのはいいと思います。カエル呼吸は、ガイドライン(神経筋疾患・脊髄損傷の呼吸リハビリテーションガイドライン。2014)でも道具を使わないエアスタックの手段として、習得を励行するよう勧められています(行うことを考慮してもよいが、十分な科学的根拠がないというエビデンスレベル)。
今回は、簡単にカエル呼吸についての概要を説明しましたが、次回はカエル呼吸のメカニズムとその習得法について掘り下げてみようと思います。
次回記事はこちらへ→カエル呼吸(舌咽頭呼吸)のメカニズムを再考する
M1(PT)
東埼玉病院リハビリテーション科ホームページはこちらをクリック